GPS/GNSSの基礎知識

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GPS/GNSSシンポジウム2007
東京海洋大学
Nov. 20, 2007
GPS/GNSSシンポジウム2007
チュートリアル
GPS/GNSSの基礎知識
電子航法研究所
坂井 丈泰
Nov. 2007 - ENRI
Introduction
• 衛星航法システムが一般に普及:
– GPSの浸透:小型、ローコストな位置測定手段。
– カーナビをはじめ、生活インフラとして定着しつつある。
– 時刻同期など、見えないところでも利用されている。
• 本チュートリアルの内容:
(1)GPSの仕組み(GPSの構成、測距信号、航法メッセージ)
(2)測位誤差の要因と性質
(3)測位精度の向上(ディファレンシャルGPS)
(4)補強システム(DGPSビーコン、MSAS/SBAS)
(5)将来動向(GPS近代化など)
SLIDE 1
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 2
(1)GPSの仕組み
• GPSの構成
• 測距信号
• 位置の計算
• 航法メッセージ
• 測地系、ジオイド
Nov. 2007 - ENRI
GPS/GNSSとは
SLIDE 3
GPS(Global Positioning System;全(汎)地球測位システム)
• 米軍が運用している衛星航法システム。18~24機のMEO衛星で構成。
• 1973年に開発開始。1978年より実用衛星の配備を開始、1993年に初期運
用宣言(IOC)、1995年完全運用宣言(FOC)。
• 2000年S/A解除、2005年よりブロックIIR-M型衛星の打上げを開始。
• 元来は軍用:当初より軍民共用を念頭に置いて開発(NNSSの経験)。
GNSS(Global Navigation Satellite System;全世界的航法衛星
システム)
• ICAO(国際民間航空機関)の定義:民間航空航法に使用可能な性能(精
度・信頼性)を持つ衛星航法システム。
– 具体的には、 GPS/GLONASS+補強システム
• 一般には、GPS/GLONASS/Galileo/各種補強システムの総称。
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GPS衛星の姿
SLIDE 4
GPS Block I (1978~)
GPS Block IIR (1997~)
GPS Block II/IIA (1989~)
GPS Block IIF (2008~)
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SLIDE 5
GPSの全体構成
スペースセグメント
• 測距信号生成・放送
• 衛星間測距
ICD (Interface Control
Document)でインター
フェースを規定(最近は
IS=Interface Specification)
コントロールセグメント
ユーザセグメント
• ユーザ受信機
• 衛星運用・状態監視
• モニタ局データ収集
• 航法メッセージ作成・アップロード
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SLIDE 6
スペースセグメント
• 24衛星(6軌道面、高度約2万km)
– 実際は30衛星が稼動中(最近さらに1機打上げ)
– 軌道傾斜角55度、周期11:58
• 標準測位サービス(SPS):軍民共用
– L1(1575.42MHz):C/Aコード(1.023Mcps)
• 精密測位サービス(PPS):軍用
– L2(1227.6MHz):P/Yコード(10.23Mcps)
• スペクトラム拡散:CDMA、測距
– 衛星のPRN番号(1~37):拡散コード
• 航法メッセージ(50bps):軌道情報
• 1978~ Block I
(FAA HP)
プロトタイプ
1989~ Block II/IIA 実用型(SA機能あり)
1997~ Block IIR
衛星間リンク、Autonav
2005~ Block IIR-M 第二民間信号(L2C)
2008~ Block IIF
第三民間信号(L5)
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SLIDE 7
コントロールセグメント
COLORADO SPRINGS
GAITHERSBURG
HAWAII
CAPE CANAVERAL
ASCENSION
DIEGO GARCIA
KWAJALEIN
MCS
(Garrett, USAFより)
• MCS 1局+バックアップMCS: 全体制御、航法メッセージ生成
• Monitor Station(MS) 6局(うち1局はMCS内): L1/L2測距、航法メッセージ受信
• Ground Antenna(GA) 4局: コマンド・データ送信用
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測位の原理:距離の測定
SLIDE 8
同期した時計が双方にあれば、
時間差から距離がわかる
• あらかじめ決められたタイミングで衛星が信号を放送し、受信側は受信した信号の
時刻情報と自分の持っている時計を比べて時間差を算出する。
(課題1) 同期した時計が送・受信側双方に必要
(課題2) 受信タイミングを正確に測定しなければならない
• 10-9秒(1ns=0.3mに相当)以上の精度で時間差を測定したい。
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GPSの測距信号(L1 C/A)
航法メッセージ
(50bps)
×20460
20ms(5996km)
PNコード
(1.023Mcps)
×1540
978ns(293m)
搬送波
(1575.42MHz)
位相反転
0.635ns(19.03cm)
送信波 = 航法メッセージ(±1)×PNコード(±1)×搬送波
SLIDE 9
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SLIDE 10
距離の測定
この遅延時間を
測りたい
送信波のPNコード
受信波
T
受信機が生成する
レプリカ信号
積分
時間差t
Narrow
Correlator
Wide
Correlator
t=0となるように
レプリカ信号のタイミングを調整する
t
-3T -2T -T
0
T 2T 3T
→受信タイミングを正確に測定できる
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SLIDE 11
受信タイミングの決定
受信信号
相関
演算
比較
+
-
相関
演算
カウンタ
擬似距離
Early 信号
レプリカ信号生成
数値制御発振器(NCO)
Late 信号
1チップ
Early 信号
Plain 信号
Late 信号
0.5
0.5
ちょうど良い
遅い→早める
早い→遅くする
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SLIDE 12
受信機位置との関係
衛星の位置は既知
r2
真距離
r2
r3
r1
r3
r1
r4
擬似距離
(x, y, z)
• 受信機の時計は正確ではない:
擬似距離(r) = 真距離(r) + クロック誤差(s)
• 1点で交わるように受信機クロック誤差 s を調節する
s
s
クロック誤差s
s
1点で交わらない
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SLIDE 13
位置の計算
• N個の球面の交点を求める計算は非線形:近似解(x, y, z, s)のまわりで線形化:
-sinAZ1•cosEL1 -cosAZ1•cosEL1
-sinAZ2•cosEL2 -cosAZ2•cosEL2
:
:
-sinAZN•cosELN -cosAZN•cosELN
-sinEL1 1
-sinEL2 1
:
-sinELN 1
x
y
•d z = d
s
G • dx = dr
dx = G-1 • dr
衛星の幾何学的配置を表す行列
収束するまで繰り返して解く(ニュートン法;数回程度で収束する)。
• N>4 の場合は最小二乗法を利用:
dx = (GT G)-1 GT • dr
• 重みをつける場合は:
重み行列 W は:
W=
dx = (GT W G)-1 GT W • dr
1/s12
1/s22
0
0
が最適
1/sN2
r1
r2
:
rN
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SLIDE 14
測位精度とDOP
• 擬似距離 r に含まれる誤差が解 x に及ぼす影響を共分散行列で評価:
dx = G-1 • dr
Cov(x) =
sxx2
syx2
szx2
ssx2
sxy2
syy2
szy2
ssy2
sxz2
syz2
szz2
ssz2
sxs2
sys2
szs2
sss2
Cov(r) =
s112 s122 … s1N2
s212 s222
s2N2
= s2 IN
:
sN12 sN22
sNN2
Cov(x) = G-1 Cov(r) (G-1)T = s2 (GT G)-1 = s2 C
測距精度
衛星の幾何学的配置による影響
• 衛星の配置による影響を C= (GT G)-1 の対角成分で代表させる(DOP=Dilution of Precision):
GDOP
PDOP
HDOP
VDOP
= (C11+C22+C33+C44)1/2
= (C11+C22+C33)1/2
= (C11+C22)1/2
= C331/2
G: Geometry
P: Position
H: Horizontal
V: Vertical
DOP に測距精度 s を乗じると、おおよその測位精度の見積りとなる。
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DOPの性質
SLIDE 15
• 受信機と衛星の相対的な位置関係だけでDOPが決まる。
• PDOP2 = HDOP2 + VDOP2
• 利用可能な衛星が増えるとDOPは下がる。
– ただし、似たような方向に衛星が追加されてもDOPはあまり変わらない:幾何学的な
条件が良くなるわけではないから。
• 共分散行列はおおむね次のような形をしている:
(GT G)-1 =
sxx2 0
0
0
0 syy2 0
0
0
0 szz2 szs2
0
0 ssz2 sss2
– GPS衛星は水平方向にはおおむね均一に分布するから。
– 水平方向の位置解とクロック誤差には相関はない:反対方向から引っ張り合ってキャ
ンセルするから。
– 高度とクロック誤差解には相関がある:受信機側に精密なクロックがあれば、高度方
向の測位精度を改善できる。「受信機クロック誤差が測位誤差と関係しない」というの
は誤り。
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 16
PDOPの傾向
Global PDOP Trend 2006
Average Maximum Global PDOP
7
6
5
4
3
Average Global Maximum PDOP
PDOP Global 98% Threshold
2
1
0
Jan-06
Feb-06
Mar-06
Apr-06
May-06
Jun-06
Jul-06
Aug-06
Date
(C. Bellows, 46th CGSIC, 2006)
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 17
GPSによる測位精度
Global GPS Position Accuracy 2006
95% Position Accuracy (meters)
25
20
15
Global Vertical Performance Threshold
Global 95% Vertical Error
Global Horizontal Performance Threshold
Global Horizontal 95% Error
10
5
0
Jan-06
Feb-06
Mar-06
Apr-06
May-06
Jun-06
Jul-06
Aug-06
Date
(C. Bellows, 46th CGSIC, 2006)
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 18
航法メッセージ
300ビット = 6秒
5サブフレームで
1フレーム
(1500ビット=30秒)
サブフレーム #1
衛星の状態・クロック補正
サブフレーム #2
軌道情報(エフェメリス)
サブフレーム #3
軌道情報(エフェメリス)
サブフレーム #4
電離層補正・UTC・アルマナック
サブフレーム #5
軌道情報(アルマナック)
• 航法メッセージは全部で1500ビット(50bps→30秒)。繰り返し放送される。
• サブフレーム#1~3は、放送している衛星自身のクロック・軌道情報(エフェメリス情
報)。30秒毎に同じ内容が繰り返される。
• サブフレーム#4~5は、他のGPS衛星の概略のクロック・軌道情報(アルマナック
情報)や、電離層補正情報など。全体では25ページが順番に放送されるので、全
衛星の情報を得るには12.5分かかる。
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SLIDE 19
測位に関する情報の流れ
ユーザ
GPS衛星
測距信号
擬似距離
航法メッセージ
クロック補正値
測位計算
位置情報
衛星位置
時刻・経緯度など
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SLIDE 20
人工衛星の軌道の表現
a
e
i
W
w
n
長半径
離心率
軌道傾斜角
昇交点赤経
近地点引数
真近点角
衛星
近地点
春分点方向
昇交点
(1)楕円の形状を長半径 a,離心率 e で決める。
(2)慣性系に対する軌道面の方向を軌道傾斜角 i,昇交点赤経 W で与える。
(3)近地点引数 w により、軌道面内における楕円の向きを指定する。
(4)エポック時点における衛星の位置を真近点角 n により与える。
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 21
エフェメリス情報
項目
ビット数
内容
項目
ビット数
内容
toc
16
エポック時刻
e
32
離心率
toe
16
エポック時刻
sqrt A
32
軌道長半径
af0
22
クロック補正
dot W
24
Wの変化率
af1
16
クロック補正
dot i
14
iの変化率
af2
8
クロック補正
Crc
16
補正値
M0
32
平均近点角
Crs
16
補正値
W0
32
昇交点赤経
Cuc
16
補正値
w
32
近地点引数
Cus
16
補正値
i0
32
軌道傾斜角
Cic
16
補正値
Dn
16
補正値
Cic
16
補正値
合計
420
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エフェメリス情報の利用
SLIDE 22
• エフェメリス情報:位置計算に使用するクロック・軌道の情報。
– 測位計算を実行するにはエフェメリス情報が必要(アルマナックではだめ)。
• エフェメリス情報の更新:
– 現在は2時間に一度の頻度でエフェメリス情報が更新されている。この場
合、エフェメリス情報の有効期間は放送後4時間。
– エフェメリス情報にはIODEという番号が付けられており、IODEの変化によ
りエフェメリス情報が更新されたことがわかる。
– 各GPS受信機は、エフェメリス情報が更新された場合、基本的には新しい
ものを使用する。
• TTFF(Time to First Fix):最初の位置出力までの時間:
– 有効期限内(4時間以内)のエフェメリス情報を持っていれば数秒程度。
– そうでない場合、エフェメリス情報の取得に30秒を要する。
– エフェメリス情報の検査をする場合、60秒以上かかる。
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アルマナック情報
SLIDE 23
• アルマナック情報:
– エフェメリス情報とは別に、概略の軌道情報をアルマナック情報として放送
している(サブフレーム4、5)。
– アルマナックには、軌道上の全GPS衛星の情報が含まれる(32衛星まで)。
– アルマナック情報は、他の衛星の信号の捕捉に利用する。概略のクロック
と衛星位置がわかっているとドップラ周波数が計算でき、捕捉が早くなる。
– 数週間程度にわたり有効。
• 航法メッセージの符号化方式:
– 24ビットのデータに6ビットのパリティを加え、30ビットで1ワードを構成する。
– それほど強力な符号化方式ではないため、普通のGPS受信機はエラー検
出のみで、エラー訂正までは行わない。
– エラーが検出された場合、そのサブフレームは使えない。
– エラー検出も必ずしも確実ではないため、受信機によっては航法メッセー
ジを2回受信して比較するなどしている。
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SLIDE 24
(2)測位誤差の要因と性質
• 衛星配置と測距精度
• 測位誤差の要因
• 測位精度
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SLIDE 25
測位誤差の例
東西, m
-20
-20
0
20
測位誤差(東方向), m
東京都調布市 2001年10月19日
南北, m
0
高度, m
測位誤差
測位誤差(北方向) , m
20
10
5
0
-5
-10
15
10
5
0
-5
20
10
0
-10
1
2
3
経過時間, h
4
5
Nov. 2007 - ENRI
GPSにおける測位誤差の要因
SLIDE 26
衛星クロック誤差
太陽光線
衛星軌道情報の誤差
電離層
電離層遅延(~100m)
周波数に依存
高度250~400km程度
対流圏遅延(~20m)
対流圏
マルチパス
高度7km程度まで
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測位精度を決めるもの:衛星配置
SLIDE 27
• ユーザが利用可能な衛星の数および配置(geometry)により、
測位精度が変わってくる。
– 一般的には、低仰角にまんべんなく衛星が分布し、高仰角にも衛星があ
るような配置が好ましい。
– 測位に利用する衛星の視線方向の単位ベクトルを結んでつくられる立体
の体積が大きいほどよいといわれる。
• 衛星配置の良し悪し:DOP
– 衛星配置の良し悪しを表す指標としてDOP(dilution of precision)が使
われる。DOPが小さいほど良好な配置を意味する。
– DOPは上に述べた立体の体積に関係があるが、直接比例・反比例の関
係にあるわけではない。
• DGPSでは、一般にDOPは悪化する。
– 基準局と共通に見えている衛星しか使えないから。
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 28
衛星配置の例
•
ある時点におけるGPS衛星の配置。
•
•
1日にわたり重ねて描いたもの。
北の空に衛星が現れない部分がある。
Nov. 2007 - ENRI
測位精度を決めるもの:測距精度
SLIDE 29
• 擬似距離の測定精度により、測位精度が変わってくる。
– 衛星クロック・衛星位置・電離層遅延・対流圏遅延・マルチパス・受信機
クロックなど、多くの誤差要因がある。
– 測位精度は、測距精度とDOPの積におおむね比例。
測位精度 = DOP × 測距精度
• 仰角マスクの適用:
– 大気遅延やマルチパスによる影響は低仰角ほど大きい。
– 仰角マスク以下の仰角にある衛星は、測位に利用しないこととする。
– 仰角マスクを高くすると測位精度は向上するが、高くしすぎると衛星数が
減少して精度が悪くなるか、測位そのものができなくなる。
• DGPSでは、バイアス性の誤差を補正する。
– DGPSで補正されるのは、測距誤差のうちの、基準局と共通なバイアス
性の誤差。ランダム誤差は補正できない。
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 30
低仰角衛星による影響
N
20
測位誤差(北方向) , m
0
o
30
o
29
14 60o
0
-20
-20
W
25
90
05
o
E
30
21
18
0
20
測位誤差(東方向), m
S
仰角の低い衛星が悪影響を及ぼしている
09
06
23
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 31
測距精度の仰角依存性
• 測距精度は、衛星の仰角が低くなると
悪化する。
40
対策(1):低仰角の衛星は使わない(仰
角マスク)。
対策(2):仰角に依存して重みをつけて
測位に使用する(衛星数>4の
場合)。
測距誤差, m
30
20
• 仰角マスクは、測量等では15度以上、
移動体航法では5~10度程度が普通。
• 仰角マスクを超える衛星について、重
みをつけて計算するのが一般的。
10
0
0
30
60
90
衛星仰角, deg
仰角
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測位誤差の要因:衛星クロック
SLIDE 32
• 測距信号の時刻基準は衛星搭載の原子時計:
– ブロックII/IIAはセシウム2台+ルビジウム2台、ブロックIIRではルビジウ
ム3台を搭載。
– 複数台の原子時計を搭載しているのは冗長系とすることで寿命を延ば
すためで、同時に使用するわけではない。故障したら切り替える。
• 衛星クロック補正値:
– 航法メッセージには、衛星クロックの補正値を計算するためのパラメータ
が含まれている。2次式により±1msの範囲で補正する。
– ルビジウムでは2次の項はゼロになっている。
– 受信機は、測位計算にあたり衛星クロックの補正値を適用して擬似距離
を補正する。補正残差(通常数m以内)は測位誤差を招く。
• 擬似距離には衛星クロック誤差が含まれている:
– 航法メッセージを受信しなくても擬似距離は測定できる。
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 33
各衛星の稼働状況
S
L
O1
T
PLANE
A
B
C
39A (09) 06/93
56R (16) 1/03
36A (06) 03/94
61R (2) 10/99
51R (20) 05/00
41R (14) 11/00
25A (25)
30A (30) 9/96
33A (03) 03/96
46R (11) 10/99
47R (22) 12/03
26A (26) 07/92
02/92
D
E
F
2
Watch List SVN (PRN)
Clock*
Wheel
38A (08) 11/97
44R (28) 07/00
59R (19) 03/04
45R (21) 03/03
40A (10) 07/96
43R (13) 07/97
27A (27) 09/92
35A (05) 08/93
53R (17) 09/05
34A (04) 10/93
54R (18) 01/01
60R (23) 06/04
37A (07) 05/93
15 (15) 10/90
launch
date
1
2
3
4
1
2
3
4
* II/IIA = Rb, Rb, Cs, Cs
IIR = Rb, Rb, Rb
Diagonal Line = Unhealthy
3
4
29A (29) 12/92
Clock
meets spec
watch list
dead
unused
in use
Wheel
functional
watch list
dead
unused
5
32A (01) 11/92
6
GPS Space and Control Clock and Reaction Wheel Performance Status (as of 06 Jul 06) - C. Bellows, 46th CGSIC, 2006
Nov. 2007 - ENRI
セシウムとルビジウムの比較例
セシウム
ルビジウム
SLIDE 34
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 35
測位誤差の要因:衛星軌道
• エフェメリスで計算した衛星位置には誤差がある:
– 真の衛星位置に対して数m程度。
– ユーザから見た視線方向成分は測位誤差を招く(直交成分は無関係)。
– り替える。
• 精密軌道暦の利用:
– IGS等から提供されている精密軌道暦を利用して衛星位置に起因する
測位誤差を抑えることができる。
DRj
視線方向
真の衛星位置 xj
Rj
Dxj
ユーザ
^
Rj
^
x
j
航法メッセージによる
衛星位置
Nov. 2007 - ENRI
衛星軌道誤差の例
SLIDE 36
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 37
高層大気圏の構造
1000
900
800
高度 km
700
人工衛星(LEO)
600
500
400
密度
気温
300
電離層
熱圏
流星
中間圏
成層圏
200
100
0
気温 K
密度 kg/m3
300
10-14
1000
1
対流圏
オーロラ
Nov. 2007 - ENRI
測位誤差の要因:電離層伝搬遅延
SLIDE 38
• 電離層を通過する際に電波伝搬に遅延を生じる:
– 高度250~400km付近のF層。昼間に遅延量が大きくなる。
(1) 1周波受信機(普通の受信機):航法メッセージ
• コサインモデルで補正(ピークは14:00LT、夜間は5ns)。
• 補正精度はそれほど良くない(RMS誤差で半減程度)。
5ns
(2) ディファレンシャルGPS(移動体応用)
14:00
• 基準局における測定値により補正。
• よく補正できる。基準局が遠いと精度低下。
(3) 2周波受信機(科学観測・測量用)
• 電離層遅延量の周波数依存性を利用して直接補正。
• よく補正できるが、2周波の差分を使うので他の誤差が増加
する。
遅延量
I=
40.3
40.3
TEC
=
c f2
c f2
s
電離層
N(x) dl
LOS
ユーザ
基準局
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 39
航法メッセージによる補正例
Wakkanai (MLAT=36.4)
15
10
0
Ishigaki (MLAT=14.5)
20
Peak Delay, m
Vertical Delay, m
20
石垣島
10
5
-60
10
稚内
-30
0
30
60
Magnetic Latitude, deg
0
12
24
36
48
60
72
84
Local Time past 10/29 00:00, h
• 電離層活動が活発だった時期の例(垂直遅延量に換算)。
• 磁気緯度の違いによる遅延量の差がうまく反映されていない。
Nov. 2007 - ENRI
電離層遅延量の空間的分布の例
SLIDE 40
Nov. 2007 - ENRI
測位誤差の要因:対流圏伝搬遅延
SLIDE 41
• 地上付近の対流圏でも遅延を生じる:海面で2.5m程度。
– 乾燥大気の影響は固定的。気象条件による遅延量の差は湿潤大気によ
る:湿度と気圧で遅延量が決まる。
– 対流圏は地上~7km程度までしかないから、ユーザ高度の関数となる。
– 傾斜係数が大きい:仰角5度で垂直方向の10倍程度。
Nov. 2007 - ENRI
対流圏伝搬遅延の影響
SLIDE 42
上方向への
誤差となる
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 43
測位誤差の要因:マルチパス
• マルチパス波による影響:
– 直接波以外に反射波があると、相関波形を崩して測距誤差となる。
– チップ長より遅れた反射波は影響しない。L1 C/Aでは300m程度。
– 相関器の工夫によりマルチパス誤差を抑える技術が採用されている:ナローコリレー
タ、ストロボコリレータなど。
– 搬送波位相には影響は小さい:キャリアスムージングによる抑制。
• アンテナによる対策が可能:
– 反射波の少ない場所を選ぶ。
– チョークリングで低仰角からの到来波を抑える。
GPS衛星
• マルチパス波の特徴:
– 時定数は数分程度。
– 同一方向からの測距信号は
ほぼ同じマルチパス誤差を生じる。
– したがって、毎日同じ状況を繰り返す
(衛星配置が繰り返されるから)。
マルチパス波1
直接波
マルチパス波2
ユーザ
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 44
マルチパス誤差の大きさ
(Leica社資料より)
• 反射波強度を直接波の1/4と仮定した計算例。
• ワイドコリレータ:1チップ幅相関器、10%RWC:0.1チップ幅相関器
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 45
測位精度の見積り例
測位誤差モデルの例(やや控えめ)
誤差要因
衛星軌道
衛星クロック
電離層遅延
対流圏遅延
マルチパス
受信機・その他
測距誤差
バイアス成分(m)
2.1
2.0
4.0
0.5
1.0
0.5
ランダム成分(m)
0.0
0.7
0.5
0.5
1.0
0.2
5.1
水平測位誤差(HDOP=2.0)
垂直測位誤差(VDOP=2.5)
1.4
合計(m)
2.1
2.1
4.0
0.7
1.4
0.5
5.3
10.6
13.3
米軍による規定(民間用標準測位サービス)
全世界平均(95%)
最悪(95%)
水平方向
13 m
36 m
垂直方向
22 m
77 m
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 46
(3)測位精度の向上
• 2周波数の利用
• ディファレンシャルGPS
• 搬送波位相の利用
• RTK-GPS
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 47
2周波数の利用
民間用L1波(1575.42MHz)
軍用L2波(1227.6MHz)
• GPS衛星は、民間用L1波に加え、軍用にL2波も放送している。
名称
周波数(MHz)
L1
1575.42
L2
1227.6
コード
C/Aコード
P/Yコード
P/Yコード
コード速度(Mcps)
1.023
10.23
10.23
用途
民間用
軍用
軍用
• PコードのメッセージはYコードで暗号化されているが、Pコード自体は知られ
ており、Pコードにより距離を測定することができる。
• 2周波数を利用することで電離層伝搬遅延を補正できるようになり、測位精度
(特に垂直方向)が向上する。
Nov. 2007 - ENRI
2周波数の利用による効果
SLIDE 48
20
測位誤差(北方向) , m
1周波受信機
• L2波に乗せられているP/Yコードは民間
用のC/Aコードよりもチップ速度が速いた
め、測距精度が良くなる(マルチパス誤
差が小さい)。
0
-20
-20
2周波受信機
0
測位誤差(東方向), m
20
• ところが、L2波はL1より6dBだけ電力が
小さく、結局精度はそれほど変わらない。
• 2周波数の利用により、電離層伝搬遅延
を直接補正できる効果が大きい:バイア
ス性の誤差が減っている。
Nov. 2007 - ENRI
ディファレンシャルGPS
SLIDE 49
• GPSの誤差要因の多くは空間的な相関
があるから、離れた地点間でも測距誤差
は似ている。
• 位置がわかっている基準局で測距誤差
を求め、この誤差情報を移動局に送信、
移動局側で補正する。
基準局と同じ
測定誤差
移動局
測定誤差
基準局から誤差情報を送信
誤差要因
衛星軌道
衛星クロック
電離層遅延
対流圏遅延
マルチパス
受信機雑音
• ディファレンシャル補正の精度は移動局
―基準局間の距離(基線長)に依存。
基準局
補正の可否
○
◎
○
△
×
×
• 基準局受信機に加え、無線リンクなどが
必要。
備考
長基線では精度低下
よく補正できる
活動が激しいと精度低下
高度差に注意
むしろ増加
むしろ増加
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 50
ディファレンシャルGPSの効果
20
測位誤差(北方向) , m
測位誤差(北方向) , m
20
0
-20
-20
0
測位誤差(東方向), m
1周波・2周波受信機による測位結果例
20
0
-20
-20
0
20
測位誤差(東方向), m
ディファレンシャル処理した結果(1周波)
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 51
DGPSのシステム構成
GPS衛星
基準局
基準局と同じ
測定誤差
移動局
複数の移動局
測定誤差
補正情報を送信
移動局受信機は複数あってもよい。
RTCMフォーマット
CMRフォーマット
RINEXファイル(後処理)
:
伝送フォーマット
無線モデム
無線LAN
携帯電話
衛星通信
:
伝送媒体
• 補正値の平均化
→受信機雑音低減
• 複数アンテナの利用
→マルチパス低減
• 異機種の受信機
→マルチパス・受信機雑音低減
Nov. 2007 - ENRI
RTCMフォーマット
SLIDE 52
• RTCM(米国海上無線技術委員会)SC-104が狭域ディファレン
シャルGPSの補正情報伝送用に制定した規格。
–
–
–
–
初版1985年、実用されている最新版はVersion 2.3(2003年)。
基準局受信機から移動局受信機への補正データ伝送用。
50bps以上の通信速度が推奨されている。
バイナリデータ。GPS航法メッセージと同様に30ビットで1ワードを構成し、
パリティも同じ方式が採用されている。
– シリアル伝送回線(RS-232C)で伝送する場合のビットレベルのフォーマ
ットまで規定。0x40~0x7Fの64文字のみで伝送、標準のビットレートは
4800bpsとされている。受信機とのインターフェースで問題が生じない。
• 基本的な補正情報はメッセージタイプ1または9。
– 擬似距離の補正値とIODE(衛星軌道情報の発行番号)を含む。
– 基準局位置をタイプ3で送信。
– GLONASSやRTK-GPS用の補正情報も伝送可能。
Nov. 2007 - ENRI
RTCMメッセージタイプ
SLIDE 53
RTCM-SC104 バージョン 2.2
Type 1
DGPS補正値
確定
Type 15
電離層パラメータ
仮
2
デルタ補正値
確定
16
特別メッセージ
確定
3
基準局座標
確定
17
精密軌道情報
仮
4
基準局データ
仮
18
RTK搬送波位相(補正前)
確定
5
衛星健康状態
確定
19
RTK擬似距離(補正前)
確定
6
ゼロフレーム
確定
20
RTK搬送波位相(補正値)
仮
7
無線施設アルマナック
確定
21
RTK擬似距離(補正値)
仮
8
擬似衛星アルマナック
仮
22
高精度な基準局位置
仮
9
DGPS高速補正値
確定
23~30
未定義
10
L2 P/Yコード補正値
保留
31~36
GLONASS用
仮
11
L2 C/Aコード補正値
保留
37
GNSS時刻オフセット
仮
12
擬似衛星パラメータ
保留
38~58
未定義
13
送信パラメータ
仮
59
所有者メッセージ
確定
14
時刻データ
仮
60~63
多目的に利用
保留
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 54
搬送波位相の利用
0.635ns(19.03cm)
• 受信機に入ってくる搬送波の位相を測定することでも距離を測定できる。
– ドップラ効果:接近時は周波数が高く、離れる際には周波数が低くなる。
– 測定値の単位は波数:波長を単位として距離(の変化)に換算できる。
– アンビギュイティ:位相の整数部分(搬送波波形のどの山か)はわからない。
• 位置を求めるには、測定値に含まれるアンビギュイティを解く必要がある。
– たとえば、時間の経過による衛星位置の変化を利用し、矛盾のないアンビギュイティ
を求める。
– 衛星数が多いほど、周波数が多いほど、高速かつ確実に解ける。
• 高精度な測位が可能:測量用途では干渉測位などと呼ばれる(精度cmオーダ)。
• 基準局設備は必須。
Nov. 2007 - ENRI
RTK-GPS
SLIDE 55
• RTK-GPS(Realtime Kinematic GPS):基本的には搬送波位相による干渉測位
法であるが、アンビギュイティについてリアルタイムに解くようにしたもの。
– 初期化中であっても、移動局は移動していてかまわない。
– 衛星数が多いほど、周波数が多いほど、高速かつ確実に解ける。
– 一般には受信機に内蔵されたソフトウェアが実行する。
– 比較的高速の無線リンクが必要(最低でも2.4k~9.6kbps)。
– アンビギュイティが整数で決定:「FIX」、実数解:「FLOAT」。
• ディファレンシャルGPSの標準フォーマットRTCM-SC104でもサポート。
• 問題点:
– 初期化に数分程度を要し、初期化に必要な時間や初期化の精度(アンビギュイティ
が正しく求められているか?)は、衛星の配置に依存する。
– 基線長は一般に10km程度以下でないと使えない → ネットワークRTK-GPS
– 信号の中断に弱く、信号環境の影響が大きい。
– 実際の測位誤差について上限の保証がない。
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 56
ネットワークRTK-GPS
• RTK-GPSの基線長が10km程度以下に制限される問題を解消するため、複数の
基準局をネットワーク化して利用するもの。
– 基本的には補正量を線形補間。ネットワークの内側で有効に作用する。
– ネットワークRTKにより、基線長(基準局からの距離)を数10km~100kmオーダに拡
張できるとの報告がある。
– 補正に使用するデータ量が大きい。
基準局#1
• VRS(virtual reference station)方式:
– 移動局位置に仮想的な基準局を考える。
– 基準局ネットワークの観測データから、
仮想基準局における補正量を計算して
ユーザに伝送する。
– データ量および受信機側ソフトウェアは
RTK-GPSと同じままですむ。
– ただし、ユーザごとに補正データを
作成・伝送する必要がある。
基準局#2
移動局
基準局#3
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 57
キャリアスムージング
• 擬似距離と搬送波位相を組み合わせて、擬似距離の測定精度を向上する方式。
– 擬似距離は雑音が多いが、アンビギュイティの問題はない。
– 搬送波位相は雑音が少ないが、アンビギュイティの問題がある。
– 特にマルチパス誤差の低減に有効。
平滑化擬似距離 = a×擬似距離+(1-a)×(前回の平滑化擬似距離+搬送波位相の変化)
• 注意点:
– 時定数を長く(aを小さく)すると、
平滑化の効果が高くなる。
– 代わりに収束に時間がかかる。
– 電離層遅延誤差は擬似距離と
搬送波位相で符号が逆になる
ため、長い時定数では問題となる
場合がある。
– 時定数:20~200秒程度。
擬似距離
マルチパス誤差
アンビギュイティ
搬送波位相
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 58
GPSの測位方式
単独測位
搬送波位相DGPS
• GPS信号のみ
GPS
DGPS
搬送波位相を利用
スタティック測位
• 静止点測量
RTK-GPS
• 移動体測位
ネットワークRTK
• 補正情報を利用
コードDGPS
PPP
• 精密単独測位
• 精密計算用の情報が必要
(狭域)DGPS
広域DGPS
擬似距離を利用
• RTCMフォーマット
• 中波ビーコン
• SBAS/MSAS
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 59
(4)補強システム
• 中波ビーコンDGPS
• ICAO GNSSとMSAS
• インテグリティ
• MSASの性能評価
Nov. 2007 - ENRI
補強システム
SLIDE 60
• 補強システム(augmentation system):
– コアシステム(GPS/GLONASS)だけではアプリケーションが必要とする性能を得られ
ない場合に、これを補うために追加するシステム。
– 補うのは、測位精度あるいは信頼性。
• 一般的な構成:
(1) 地上基地局で測距精度や信頼性を監視
(2) 補強情報を作成してユーザに伝送
(3) ユーザ受信機で処理、測位精度や信頼性を向上させる
• ディファレンシャルGPSによる補強はすでに普及:
– ディファレンシャルGPS基準局+無線データリンク
– 公共サービス:中波ビーコン、FM多重放送など
• 航空機の航法に利用するための補強システム:
– ICAO GNSS:SBAS/GBAS/ABAS
– 航空ユーザ以外も受信・利用は可能(暗号化されていない)。
Nov. 2007 - ENRI
中波ビーコンDGPS
SLIDE 61
(海上保安庁)
•
•
•
•
既存の中波ビーコンにDGPS補正データを重畳して放送する。
放送データはRTCM-SC104フォーマットで、ITU-R M.823-1として規格化されている。
世界中で使用されている、もっとも普及しているDGPSシステム。
米国や韓国では内陸部にもNDGPS(Nationwide DGPS)として整備中。
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 62
日本の整備状況
•
•
•
•
•
•
世界各国の沿岸に整備中
日本では27局が運用中、沿岸をカバー
中波なので電波が届きやすい
24時間放送、無料
ビーコン一体型受信機も市販
インテグリティ情報は少ない(未対応の
受信機もある)
伝送速度
送信出力
有効範囲
伝送フォーマット
200 bps
75 W
200 km以内の海上
ITU-R M.823-1
(RTCM SC-104)
メッセージタイプ Type 3, 5, 6, 7, 9
(海上保安庁HP)
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 63
ICAO GNSS
GPS
GLONASS
WAAS
GBAS
ICAO GNSS
地上基地局
MSAS
EGNOS
ABAS
機上装置によるインテグリティ確保
あるいはハイブリッド航法
SBAS
SBAS: Satellite-Based Augmentation System 静止衛星による広域補強システム
GBAS: Ground-Based Augmentation System 地上基地局による狭域補強システム
ABAS: Airborne-Based Augmentation System 機上装置による補強システム
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 64
ICAO SBAS
• ICAO(国際民間航空機関)が規格化した広域ディファレンシャルGPS方式による
補強システム:
– 補正(補強)情報は静止衛星から放送。
– 大陸規模の広い地域で有効な広域補強情報。
– GPSと同一のアンテナ・受信回路でディファレンシャル補正情報やインテグリティ情報が
得られる。
– ICAO SARPs(標準および勧告方式)により信号形式を詳細に規定。
– 航空ユーザ以外も受信・利用は可能(暗号化されていない)。
• 各国で開発・運用中のSBAS:
– 米国WAAS
– 欧州EGNOS
– 日本MSAS
– カナダCWAAS
– インドGAGAN
2003年7月より運用中。
2005年7月より試験運用中。
MTSAT-1R/2(ひまわり6/7号)を使用。
2007年9月27日より正式運用。
WAASをカナダにも拡張する計画。
開発中。PRN番号は割当て済み。
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 65
SBASの概念
静止衛星
GPS衛星
ユーザ
モニタ局ネットワーク
アップリンク局
Nov. 2007 - ENRI
MSASの状況
SLIDE 66
• 航空局が整備している静止衛星による広
域補強システム(ICAO SBAS):
– 日本全国で使える広域ディファレンシャル補
正情報
– 航空航法に使用可能なインテグリティ情報。
– GPS L1周波数で放送。
• 静止衛星から補強情報を放送:
– MTSAT-1R(ひまわり6号) 2005年2月
– MTSAT-2(ひまわり7号) 2006年2月
• 現在、静止軌道上で運用中:
– 2005年夏~2007年9月:試験放送(試験
中であることを示すメッセージを含む)
– 2007年9月27日より正式運用:航空機の
航法に利用できる。
MTSAT-1Rの打上げ(写真:RSC)
Nov. 2007 - ENRI
SBASの機能
SLIDE 67
インテグリティ・チャネル
• 航法出力のインテグリティ(完全性)を確保する機能。
• プロテクションレベル(測位誤差の信頼限界;危険率
10–7)を計算するための情報。実際の測位誤差がプ
ロテクションレベルを超える確率は10–7以下。
• 航法モードにより、プロテクションレベルの上限が決
まる。
ディファレンシャル補正
• 航法出力の位置情報精度を向上させる機能。
• 広域ディファレンシャル方式:GPS衛星の軌道・クロ
ック誤差や電離層遅延量を補正するための情報を
放送する。
(いわゆるDGPSはこれのみ)
測距信号
• 航法システムのアベイラビリティ(有効性)を改善す
る機能。
• SBAS衛星からGPSと同様の測距信号を放送する
ことで、利用可能な航法衛星を増加させる。
Nov. 2007 - ENRI
広域ディファレンシャルGPS
SLIDE 68
• (狭域)DGPS方式は、誤差要因を特に区別せずにまとめてひとつの
補正値をつくる。
– 基準局から遠く離れると補正性能が劣化する(大気遅延、共通衛星の減少)。
– ネットワーク化しても、線形補間ではうまくいかない場合がある。
• 広い範囲で有効な補正情報とするには、誤差要因別にすればよい。
– 誤差の要因により、地理的な相関関係が異なる。
– 誤差要因別に補正値をつくり(ベクトル方式) 、それぞれ適切な(移動局位置
の)関数で補間する。
– 大陸規模の広い範囲で有効。
• 広域DGPS(Wide-Area Differential GPS:WADGPS)方式:
– サービスエリア内では、単一の補正情報でどこでも補正が可能。
– 所要データレートは、100~数100bps程度。
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 69
誤差要因別の補正
衛星クロック誤差
電離層遅延(~100m)
• ユーザ位置の関数
• 垂直構造は薄膜で近似
など
電離層
• ユーザ位置の関数ではない
• すべてのユーザに対して
同じ寄与
• SA ONなら速い変動
衛星軌道情報の誤差
• ユーザ位置の関数ではない
• 寄与の程度はユーザ位置による
(視線方向成分が問題)
• 変動の周期は数10分以上
対流圏遅延(~20m)
対流圏
• ユーザ位置(特に高度)の関数
• モデルによる補正が有効
Nov. 2007 - ENRI
インテグリティ
SLIDE 70
• 完全性(integrity):航法システムが出力する位置情報の正しさ:「GPSが出
力している経緯度は果たして正しいか?」
– 実際に異常な位置を出力する例がある。
• 万が一、位置情報に誤りがあると危険な応用(safety-of-life application)が
ある:
– 交通機関(特に航空機)の航法・測位、衝突防止。
– 精密農業等、工作機械の自動運転。
– 犯罪捜査や事故記録関係。
• GPSはインテグリティを保証していない。
– 精度や信頼性の規定はあるが、インテグリティについては規定なし。
– GPSだけでは安全性を確保できない。
– 航空分野では、国の責任でインテグリティ確保の仕組みを整備(MSAS)。
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 71
異常測位の実例
3時間半
100km
• 2004年1月2日(JST)明け方にPRN23衛星が故障。位置出力で100kmの誤差。
• 3時間半後にようやくPRN23衛星が使用不可とされ、復旧した。
• 受信機によって反応が異なる:ディファレンシャル処理では補正できない
→ 正しい対処にはインテグリティ情報が必要
Nov. 2007 - ENRI
インテグリティ方式
SLIDE 72
• 第一段階:フラグ方式。
– GPS信号をモニタし、異常があればユーザに通知する。
– GPS航法メッセージにはHealth(健康状態)フラグやAlertフラグがあり、異常
衛星を使用させない仕組みはある。
– しかし、異常発生からフラグへの反映までに数時間以上かかる例がある:リア
ルタイム応用では致命的。
– 単純なON/OFFだけでは、航空機応用などで必要な精度が出せなくなる:アベ
イラビリティ(有効性)を確保できない。
• 第二段階:保護レベル方式。
– 保護レベル(プロテクションレベル)=測位誤差の信頼限界。
– 応用環境によりあらかじめ決めてある測位誤差の上限(警報限界=アラートリ
ミット)と保護レベルを比較し、危険があるならば利用不可とする。
– 航空機航法の場合:危険率10–7以下を要求。
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 73
保護レベル
• 測位精度:精度を代表する指標:
– 95%値(95%信頼限界)がよく使われる。
– 「測位誤差の95%はこの範囲内に入る」の意味。
– 残りの5%については、保証はない(とんでも
ない誤差があるかもしれない)。
まれに起きる
大きな誤差
保護
レベル
• 安全上は残りの5%が重要:
測位精度
– これを問題とするのが完全性(インテグリティ)
という性能指標。
– 99.99999%信頼限界(危険率5%→10-7 )を保護レベルという。測位誤差の
99.99999%はこの範囲内に入るという数値(実質的には誤差の上限とみなしてよい)。
– 故障や伝搬異常により、まれに大きな誤差が生じることがあるため、保護レベルは大
きめの値となる。過去に観測した異常値はすべて考慮。
– 航空航法用途では、誤差の最大値として保護レベルを用いる(95%測位精度では議
論しない。残りの5%が安全上問題だから)。
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 74
保護レベルの使い方
航法モード
垂直誘導付進入
APV-I
垂直誘導付進入
APV-II
精密進入
CAT-I
垂直AL(VAL)
50 m
20 m
10~15 m
→ プロテクションレベル
• ユーザ測位誤差の信頼限界(危険率10–7 )。
• 水平方向:HPL、垂直方向:VPL
• PLと警報限界(Alert Limit)を比較し、
AL<PLなら利用不可とする:
ユーザ測位誤差はALを超えない。
• プロテクションレベルの計算に
必要なパラメータがインテグリティ
AL
情報として放送される。
トライアングルチャート
インテグリティOK
使用不可(警報)
正常動作
通常の
分布
インテ
グリティ
リスク
利用不可
利用可
HMI
(危険情報)
0
0
インテグ
リティ
AL
→ ユーザ測位誤差
アベイラ
ビリティ
Nov. 2007 - ENRI
MSAS測位誤差の例(高山)
GPSのみ
水平 0.50m RMS
MSAS
GPSのみ
SLIDE 75
垂直 0.73m RMS
MSAS
南北
上下
東西
東西
GEONET 940058(高山) 05/11/14-16
PRN129 (MTSAT-1R) Test Signal
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 76
プロテクションレベルの評価
GEONET 3011(川越)
06/5/20 00:41-08:06
PRN129 (MTSAT-1R)
Test Signal
APV-I mode
HAL = 40m
VAL = 50m
All combinations
• 4衛星以上のすべての組合せを評価。
• インテグリティの検証に利用。アベイラビリティは現実的ではない。
Nov. 2007 - ENRI
世界でのSBAS利用
SLIDE 77
MSAS
WAAS
EGNOS
黄線より上は
100%(常時
利用可能)
現在の地上局配置で、SBAS補強によりNPA(非精密進入)航法モードが利用可能な時間割合
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 78
(5)将来動向
• GPS近代化計画
• GLONASS
• Galileo
• ICAO SBAS(MSAS)
• 準天頂衛星システム
Nov. 2007 - ENRI
GPS近代化計画
SLIDE 79
• SA解除(2000年5月)
• Block IIR-M(2005~):第2民間周波数(L2=1227.6MHz)
– 航空用ARNSバンド外:民間航空用途には使えない。科学観測、測量など。
– L2C信号:IS-GPS-200D、すでに送信:ただし航法メッセージはLegacy NAV
• Block IIF(2008~):第3民間周波数(L5=1176.45MHz)
– Safety-of-LifeもOK、ただし航空用DME(960~1215MHz)との干渉あり。
– L5信号:IS-GPS-705、10.23Mcpsの高速なチップ変調
• Block III(2013~):第4民間周波数(L1=1575.42MHz)
– L1C信号:Draft IS-GPS-800(2006年4月)
• L-AII(Legacy Accuracy Improvement Initiative):実行中
– MS増設:NGA局も利用し、12局とする:監視体制の強化。
– MCS増設:2007年秋に新MCSの試験を実施
• 政策の裏付け:PNT Policy(2004年12月)
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 80
GPSの民間用信号
L5
L2
L1
C/A
1st Civil
Block II/IIA/IIR
L2C
C/A
L2C
C/A
2nd Civil
Block IIR-M
I5
3rd Civil
Block IIF
Q5
I5
4th Civil
Block III
L2C
C/A
L1C (TBR)
Q5
1176.45 MHz
1227.6 MHz
1575.42 MHz
(A. Ballenger, 46th CGSIC, 2006)
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 81
GPSの精度向上
7
RMS URE (m)
6
5
Current Requirement
4.6
4.3
4
3
2
3.0
2.7
2.1
Current Objective
1.8
1.5
1.1
1
0
1990 1992 1994 1996 1997 1999 2001 2005
Year
(A. Ballenger, 46th CGSIC, 2006)
Nov. 2007 - ENRI
GLONASSの動向
SLIDE 82
• 24衛星(3軌道面、高度19100km):11機を運用中(2007年11月)
–
–
–
–
–
最近はGLONASS-M衛星を年末に3機ずつ打上げ
軌道傾斜角65度、周期11:15
L1(1592~1610MHz):SPコード(0.511MHz) 、SAはもともとない
L2(1239~1254MHz):HPコード(5.11MHz)
FDMA方式による衛星識別
• GLONASS衛星:
– GLONASS-M(2003~): 民間用SPコードをL2波に追加、寿命7年。
– GLONASS-K(2008~): 3周波(L3を追加)、寿命10年以上。
– GLONASS-KM: 2015~?
• 大統領声明(2006年1月):Federal GLONASS Program 2002-2011
– MOC(Minimum Operational Capability;18機体制):2007年末
– FOC(Full Operational Capability;24機体制):2009年末
SLIDE 83
GLONASSの測距精度
SISRE, м
15
10 м
14
13
8.5 м
12
7м
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
Time since 15.07.2005, days
(Sergey Revnivykh, 46th CGSIC, 2006)
380
370
360
350
340
330
320
310
300
290
280
270
260
250
240
230
220
210
200
190
180
170
160
150
140
130
120
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
0
10
1
0
SISRE, m
Nov. 2007 - ENRI
21.09.2006
20.09.2006
19.09.2006
GPS
18.09.2006
17.09.2006
16.09.2006
15.09.2006
14.09.2006
13.09.2006
12.09.2006
11.09.2006
10.09.2006
09.09.2006
08.09.2006
07.09.2006
06.09.2006
05.09.2006
04.09.2006
03.09.2006
02.09.2006
01.09.2006
31.08.2006
30.08.2006
29.08.2006
28.08.2006
Nov. 2007 - ENRI
GLONASSによる測位精度
SLIDE 84
GLONASS
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
High errors due to on-board clocks problems of GLO #18 and# 22
(Sergey Revnivykh, 46th CGSIC, 2006)
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 85
Galileoの動向
• 1999年にEUが計画を発表:最初から軍用ではない
• 30衛星(3軌道面、高度23600km)
• ユーザに応じたサービス
–
–
–
–
OS(Open Service)
CS(Commercial Service)
SoL(Safety-of-Life Service)
PRS(Public Regulated Service)
GPS SPSに相当、無料
有料の商用サービス、暗号化
民間航空など
政府機関向け
• 3つの周波数帯を確保:
– E1(1589.5MHz)+E2(1561MHz): OS/CS/SoL/PRS
– E6(1260~1300MHz):
CS/PRS
– E5a(1176MHz)+E5b(1201.5MHz): OS/SoL/CS(E5b)
• 2005年末に試験衛星GIOVE-Aを打上げ:周波数を確保
– 2008 IOV(軌道上実証)、2010 FOC(完全運用)
Nov. 2007 - ENRI
ICAO SBAS
SLIDE 86
• 米国WAAS:運用中。
– 2003年7月より正式運用中。航空機航法に利用OK。
– 非精密進入までは使用可能。
– 2008年のFOCに向けて性能向上作業中:モニタ局増加、静止衛星交
代、補強アルゴリズム改良、など。
• 欧州EGNOS:初期運用中。
– 2005年7月より初期運用を開始、2007年4月までかけて性能評価中。
– 2008年中に航空用航法システムとしての認証作業を完了予定。
• 日本MSAS:9月より運用を開始。
– 2機の静止衛星により、2005年夏~2007年9月まで試験放送を実施。
– 2007年3月までに認証作業を完了。
– 2007年9月27日より正式運用。航空機航法に利用OK。
Nov. 2007 - ENRI
準天頂衛星システム
SLIDE 87
• 8の字形の軌道を利用して、地域限定の測位・放送サービス
を提供する衛星。
– 3機あれば、常時いずれかが日本上空に滞空できる。
– 高仰角から放送でき、山岳地や都市部での測位サービスに有利。
• 2009年の打上げを目指して開発中。
– 2009~2010年に1機を打ち上げて実証試験を実施する。
– 補完信号:GPSと互換性のあるL1C/L2C/L5(L1 C/A)信号を放送(た
だし完全にGPSと同じではない)。
– 補強信号:SBAS互換サブメータ級補強信号(L1-SAIF)、
デシメータ級・センチメータ級補強(LEX信号)
• 当所ではL1-SAIF信号の研究開発を実施中:
– ICAO SBAS互換方式により、所期の性能目標は達成できる見込み。
– プロトタイプシステムにより性能向上に向けて研究中。
Nov. 2007 - ENRI
SLIDE 88
準天頂衛星のメリット
Latitude, deg
60
GPSや静止衛星
準天頂衛星(QZS)
0
-60
90
120
150
Longitude, deg
東経135度を中心に配置
離心率0.1 軌道傾斜角45度
180
• 高仰角からサービスを提供可能。
• 山間部や都市部における測位・放送ミッシ
ョンに有利。
Nov. 2007 - ENRI
Conclusion
SLIDE 89
• GPS/GNSSについて、応用上必要な事項を解説した。
– 測距・測位方式と航法メッセージ。
– 基本的には、衛星が多いほど、周波数が多いほど、信号が多いほど、変調
速度が速いほど測位性能は向上する。
• 広域補強システムの開発:
– MSASは正式運用を9月に開始。L1周波数による広域補強で、対応受信機
もすでに広く市販されている。
– 準天頂衛星はサブメータ級補強信号L1-SAIFを計画。IS-QZSSを作成中。
• 今後の動向:
– GPSは近代化計画を進行中。
– GLONASS/Galileoも含めてコアシステムは充実する方向にあるが、まだ時
間がかかる。
– 精度・信頼性・安全性の向上:補強システムの充実。