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日本語構造伝達文法
複主体,複主語
[6-2]
複主体
複主語
この項は『日本語構造伝達文法(05版)』の
第19章~第21章の内容に基づいています。
今泉 喜一
2011年 10月
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複主体
複主語
日本語の大きな特徴の一つ
複主体
AはBが~。
という構文で, A と B が共に 主格 にある場合の構造を考える。
○ 彼は目が大きい。 ← 彼が目が大きい。
× 桃は彼が食べた。 ← 桃を彼が食べた。
複主体を次の4種の構造に分けて考える。
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[2] 複数の主体が同一属性に立つ構造
[3] 態を含む構造
[4] 上置き構造を伴う構造
まず主格について確認する。
主格3形式
私
主格3形式
私
hasir/ -u
私,走る。
主格3形式
主格3形式
私
hasir-
私
hasir私
hasir-
主格3形式
私
hasir-
私
hasir私
hasir-
主格3形式
私
私
1
→
hasir-
第1主格
主語について述べる
典型的主語
主格詞 Ø1
私 Ø1 走る。
私
2
hasir-
第2主格
出来事について
述べる
主格詞 が1
私 が1 走る(こと)
私
3
hasir-
→
私 が2 走る。
第3主格
主語が選ばれる
hasir-
主格詞 が2
は,も,こそ [相対化描写](とりたて詞,副助詞,係助詞)
「は」
[実体ふちどり描写]
彼
本
o
彼
本
o
o
yom-
彼Ø1本を読む
彼
本
yom-
yom-
彼Ø1は本を読む
彼Ø1は本をは読む
[主題にする。]
[他と対比する。]
「は」目立つようにしてほかと区別する。
「は」 は [主題化・対比] の機能をもつ。
主格名詞は Ø,が,は で示される。
1 林さん Ø 来ました。
3, 5 林さん が 来ました。
2, 4 林さん は 来ました。
主格詞 「Ø1・が」 と 描写詞 「は」
主格
+は
-
1
Ø1
2
+は
3
-
4
が1
5 が2
+は
-
主語の実現形式
機 能
~Ø1
私Ø1田中です。
~Ø1 は
私Ø1は田中です。 主語について述べる。主題・対比
~が1
あっ,犬が1います。 事実提示/従属節内主語
主語について述べる。
~が1 は 雨が1は降る降る。
事実活写提示/
従属節内対比主語
~が2
質問への回答など(選択主語)
私が2田中です。
複主体
複主体を4種の構造に分けて考える。
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[2] 複数の主体が同一属性に立つ構造
[3] 態を含む構造
[4] 上置き構造を伴う構造
複主体
1-1
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
形容属性の場合
形容実体+形容辞
naga + .k-
長
(形容実体)
=形容詞 (属性)
= naga.k.k-
形容辞
属性 (形容属性)
鼻 (主体)
長
鼻-ga naga.k鼻が長い
.k-
1主体,1属性
=単位構造
複主体
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
象
鼻
長
長
.k-
.k-
鼻が長い … 単位構造
象 Ø1 鼻が長い
象 … 単位構造を属性とする主体
主体が2つになる … 違いは何?
属性主体 は属性の一部
属性主体
本主体 属性主体
形容実体
中国語
鼻
形容実体
.k-
属性
.k-
複主体
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[特徴1] 属性主体は本主体と常識的に明瞭な関係を持つものであるべき。
本主体は何でもよいが,属性主体には制約がある。
この象 Ø1は 窓が かわいい。 →意味不明
象が象の形のバスなら意味が分かる。
本主体
属性主体
窓はバスとは明瞭な関係がある。
空は指が太い。 ?
富士山は島が純白だ。 ?
川はドアが開く。 ?
東京は人口が多い。
彼は発音が明瞭だ。
ボクは熱が出た。
複主体
1-2
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
断定属性の場合 (形容動詞も)
彼
父親
公務員
父親
公務員
de
de
ar-
で格実体
ar-
断定属性
主体
父親 Ø1 公務員である。
「単位構造」
本主体
属性主体
2つの主体
彼 Ø1 父親が公務員である。
[特徴1] 属性主体は本主体と常識的に明瞭な関係を持つものであるべき。
*
彼 Ø1は 田中さんが公務員である。
複主体
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
1-2 断定属性の場合 (形容動詞も)
で格実体と属性主体の入れ替えが可能な場合がある。
彼
趣味
陶芸
彼
陶芸
趣味
de
de
ar-
で格実体
arで格実体
本主体
属性主体
彼 Ø1 趣味が陶芸である。
本主体
属性主体
彼 Ø1 陶芸が趣味である。
複主体
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
1-3 動属性の場合
田中
長男
長男
結婚
結婚
o
o
を格実体
s-
s-
動属性
主体
長男が結婚する。
本主体
属性主体
田中さん Ø1 は長男が結婚する。
「単位構造」
[特徴1] 属性主体は本主体と常識的に明瞭な関係を持つものであるべき。
*田中さん
Ø1 は鈴木さんが結婚する。
複主体
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
1-3 動属性の場合
単位構造が連語の場合
五郎
後ろ 男
気
後ろ 男
ni
i-
ni
ni
五郎
気
-ru
ini
tuk-
tuk五郎は後ろにいる男に気がつく。
気がつく …… 単位構造としての連語
他の例
腕が上がる
腕が立つ
(形容詞) 気が多い
手が空く
気が短い
骨が折れる
頭がいい
目が高い
複主体
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[特徴2] 「のつなぎ」描写①
「本主体」→「属性主体」の方向でなければならない。
象
鼻
長
本主体 属性主体
形容実体
の
.k象 Ø1 鼻が長い。
の
.k-
本主体 の 属性主体 が ~
象 の 鼻が長い。
逆向きの の は不可。
*鼻 の 象 が長い。
本主体(象)が単独の属性(長い)の主体になってしまう。
複主体
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
彼
父親
公務員
田中
長男
結婚
の
de
の
o
ar-
s-
で格実体
本主体
属性主体
彼 Ø1 は父親が公務員である。
本主体
属性主体
田中さん Ø1 は長男が結婚する。
彼 の 父親 Ø1 は公務員である。 田中さん の 長男 Ø1 は結婚する。
[特徴2] 「のつなぎ」描写は「本主体」→「属性主体」の方向で。
*父親
の 彼 Ø1 は公務員である。
*長男
の 田中さん Ø1 は結婚する。
複主体
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[特徴3] 「のつなぎ」描写②
属性で実体修飾をする場合は,双方向の「のつなぎ」描写が可能。
「本主体」→「属性主体」 / 「属性主体」→「本主体」
象
長
鼻
の
本主体 属性主体
形容実体
.k-
の
.k-
「本主体」→「属性主体」
象 の 長い 鼻
(属性で実体を修飾)
「属性主体」→「本主体」
鼻 の 長い 象
(属性で実体を修飾)
いずれも単位属性「鼻が長い」全体が本主体「象」を修飾することになる。
複主体
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
彼
公務員
父親
の
田中
結婚
長男
の
o
de
ar-
s-
で格実体
本主体
属性主体
本主体
属性主体
彼 の 公務員である 父親
田中さん の 結婚する 長男
父親 の 公務員である 彼
長男の 結婚する 田中さん
[特徴3] 「のつなぎ」描写②
属性で実体修飾をする場合は,双方向の「のつなぎ」描写が可能。
複主体
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[特徴4] 「のつなぎ」描写③
本主体は,それと特定できる実体であるべき。
妻の賢い弟
……賢いのはだれ?
妻
賢
弟
の
弟
賢
妻
の
敏子
敏子
.k-
.k-
本主体 属性主体
妻は弟が賢い。
妻の
弟
妻の 賢い 弟
敏子 の 賢い 弟
本主体を敏子のように特定できる
実体にすると二義は生じにくい。
本主体
二義
属性主体
弟は妻が賢い。
妻の
弟
妻の 賢い 弟
属性主体は本主体との関係物・人。
属性主体の妻は「敏子」になりにくい。
複主体
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[特徴4] 「のつなぎ」描写③
本主体は,それと特定できる実体であるべき。
妻の賢い弟
……賢いのはだれ?
妻を本主体とする場合
弟を本主体とする場合
→ 敏子 の 賢い 弟
(敏子 は 弟 が賢い。)
→ 妻 の 賢い 俊彦
(俊彦 は 妻 が賢い。)
親友のフリーターである息子 ……フリーターはだれ?
→ 親友 の フリーターである 大輔
(大輔 は 親友 がフリーターである。)
→ 田中さん の フリーターである 息子
(田中さん は 息子 がフリーターである。)
姉の結婚する娘
……結婚するのはだれ?
→ 佐藤さん の 結婚する 娘
(佐藤さん は 娘 が結婚する。)
→ 姉 の 結婚する 林さん
(林さん は 姉 が結婚する。)
複主体
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[中国語]
小王死了父亲。
小王的父亲死了。
父亲
小王
父亲
小王
死
死
的
了
本主体
她脸红了。
中国語
了
属性主体
我腰疼。
这本书内容不错。
中国经济持续发展。
複主体
1-4
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
本主体が複数ある場合
彼
調子
調子
夏
良
良
.k-
.k-
単位構造 調子が良い
彼 Ø1 は 夏が 調子が良い。
実現する場としての本主体
実現する時としての本主体
複主体
1-4
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
本主体が複数ある場合
智
雄
調子
智
良
雄
夏
調子
良
夏
.k.k本主体
智ちゃん と 雄くん Ø1 は 夏が 調子が良い。
実現する場としての本主体
時の本主体
属性主体
複主体
1-5
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
属性主体が複数ある場合
読書
彼
テニス
趣味
趣味
彼
読書 テニス
de
de
ar-
彼 Ø1 は 読書 と テニスが 趣味である。
本主体
属性主体
ar-
複主体
複主体を4種の構造に分けて考える。
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[2] 複数の主体が同一属性に立つ構造
[3] 態を含む構造
[4] 上置き構造を伴う構造
複主体
複主体を4種の構造に分けて考える。
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[2] 複数の主体が同一属性に立つ構造
[3] 態を含む構造
[4] 上置き構造を伴う構造
複主体
[2] 複数の主体が同一属性に立つ構造
形容属性の場合
私は故郷が懐かしい。
私
故郷
私
懐かし
故郷
懐かし
.k-
.k-
参考
林さんは娘が結婚する。
私が懐かしい。
私 ……
感覚主体
故郷が懐かしい。
故郷 …
帯感主体
× 林さんが結婚する。
○ 娘が結婚する。
感覚主体と帯感主体は常識的な明瞭な関係を持つ必要はない。
複主体
[2] 複数の主体が同一属性に立つ構造
断定属性の場合 (形容動詞も)
彼はうどんが好きだ。
うどん
彼
好き
好き
de
de
彼 うどん
ar-
ar感覚主体
帯感主体
彼 は うどん が 好き -de ar-u.
彼 は うどん が 好き -de ar-u.
複主体
[2] 複数の主体が同一属性に立つ構造
連体修飾の場合
うどんの好きな彼
彼が好きなうどん
彼
うどん
好き
好き
de
彼
de
好き
うどん
の
好き
ni
ar-
ni
ar-
格移動
格移動
彼 -ga 好き ni ar-u うどん
うどん の 彼
彼 -ga 好き ni ar-u うどん
うどん の
彼
うどん の 好き-ni ar-u 彼
連体修飾では「で格実体」が「に」格に
移動する……格移動
うどん の 好き-ni ar-u 彼
複主体
[2] 複数の主体が同一属性に立つ構造
連体修飾の場合
うどんの好きな彼
彼が好きなうどん
彼
うどん
好き
好き
de
de
好き
好き
ni
彼
うどん
の
ar-
ni
ar-
格移動
格移動
この二義性 をどう説明するか。
田中さんの好きな鈴木さん
田中さんが好きな鈴木さん
この2主体は属性に対して対等な関係にある。
つまり,どちらも感覚主体でありうるので二義
を生じている。
複主体
[2] 複数の主体が同一属性に立つ構造
動属性の場合
彼はお金が要る。
彼
お金
ir-
語源
彼は英語が出来る。
彼
英語
deki-
「要る」はもともと
「必要物の中に入る(イル)」の意。
「出来る」はもともと
「出現する・生成する」の意。
「彼」は場の主体
……「に格」に置くこともできる。
「彼」は場の主体
……「に格」に置くこともできる。
彼にお金が要る。
彼に英語が出来る。
複主体
複主体を4種の構造に分けて考える。
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[2] 複数の主体が同一属性に立つ構造
[3] 態を含む構造
[4] 上置き構造を伴う構造
複主体
複主体を4種の構造に分けて考える。
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[2] 複数の主体が同一属性に立つ構造
[3] 態を含む構造
[4] 上置き構造を伴う構造
複主体
[3] 態を含む構造
彼は英語が分かる。wak-ar彼は英語が読める。 yom-e彼は目が見える。mi-e-
複主体
[3] 態を含む構造
彼
彼は英語が分かる。wak-ar彼は英語が読める。 yom-e-
o
wakni
彼は目が見える。mi-e-
wak- : 区別する。理解する。
別々にする。
-ar-
彼に英語が分かる。
属性一体化
彼
彼に英語が分かる。
英語
wak-
英語
o
彼が英語が分かる。
複主体の出現
彼が英語が分かる。
(を)
-ar-
複主体
[3] 態を含む構造
彼
彼は英語が分かる。wak-ar彼は英語が読める。 yom-e-
英語
o
yomni
彼は目が見える。mi-e-
-e-
彼に英語が読める。
属性一体化
彼
彼に英語が読める。
yom-
英語
o
彼が英語が読める。
複主体の出現
彼が英語が読める。
(を)
-e-
複主体
[3] 態を含む構造
彼
彼は英語が分かる。wak-ar彼は英語が読める。 yom-e-
目
de
mini
彼は目が見える。mi-e-
-e-
彼が目で見る + -e-
属性一体化
彼
彼が目で見る。
目
mi-
-e-
彼が目が見える。
複主体の出現
彼が目が見える。
複主体
複主体を4種の構造に分けて考える。
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[2] 複数の主体が同一属性に立つ構造
[3] 態を含む構造
[4] 上置き構造を伴う構造
複主体
複主体を4種の構造に分けて考える。
[1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造
[2] 複数の主体が同一属性に立つ構造
[3] 態を含む構造
[4] 上置き構造を伴う構造
複主体
[4] 上置き構造を伴う構造
私は水が飲みたい。
私
→ 上置き構造: 私が水を飲む
水
私
o
ta
nom-
水
o
nomta
.k.k私は水が飲みたい。
感覚主体
帯感主体
「たい」: 上置き構造が現実世界に実現することを話者が望む。
「私」 感覚主体
「水」 帯感主体
上置き構造の論理関係を優先して表現することもできる。
私は水 を 飲みたい。
複主体
[4] 上置き構造を伴う構造
彼は水を飲みたがる。
彼
水
o
ta
彼
nom-
水
o
nomta
.gar-
「たがる」: 上置き構造が現実世界に実現することを
話者以外の主体が望む。
複主体構造を構成しない。
.gar-
複主体
終わり
複主体
正しい?
◎
戻る
複主体
◎
戻る
複主体