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日本語構造伝達文法 複主体,複主語 [6-2] 複主体 複主語 この項は『日本語構造伝達文法(05版)』の 第19章~第21章の内容に基づいています。 今泉 喜一 2011年 10月 印刷 1-3,8-28,30-35,37,39,41,43-45,47-48 複主体 複主語 日本語の大きな特徴の一つ 複主体 AはBが~。 という構文で, A と B が共に 主格 にある場合の構造を考える。 ○ 彼は目が大きい。 ← 彼が目が大きい。 × 桃は彼が食べた。 ← 桃を彼が食べた。 複主体を次の4種の構造に分けて考える。 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [2] 複数の主体が同一属性に立つ構造 [3] 態を含む構造 [4] 上置き構造を伴う構造 まず主格について確認する。 主格3形式 私 主格3形式 私 hasir/ -u 私,走る。 主格3形式 主格3形式 私 hasir- 私 hasir私 hasir- 主格3形式 私 hasir- 私 hasir私 hasir- 主格3形式 私 私 1 → hasir- 第1主格 主語について述べる 典型的主語 主格詞 Ø1 私 Ø1 走る。 私 2 hasir- 第2主格 出来事について 述べる 主格詞 が1 私 が1 走る(こと) 私 3 hasir- → 私 が2 走る。 第3主格 主語が選ばれる hasir- 主格詞 が2 は,も,こそ [相対化描写](とりたて詞,副助詞,係助詞) 「は」 [実体ふちどり描写] 彼 本 o 彼 本 o o yom- 彼Ø1本を読む 彼 本 yom- yom- 彼Ø1は本を読む 彼Ø1は本をは読む [主題にする。] [他と対比する。] 「は」目立つようにしてほかと区別する。 「は」 は [主題化・対比] の機能をもつ。 主格名詞は Ø,が,は で示される。 1 林さん Ø 来ました。 3, 5 林さん が 来ました。 2, 4 林さん は 来ました。 主格詞 「Ø1・が」 と 描写詞 「は」 主格 +は - 1 Ø1 2 +は 3 - 4 が1 5 が2 +は - 主語の実現形式 機 能 ~Ø1 私Ø1田中です。 ~Ø1 は 私Ø1は田中です。 主語について述べる。主題・対比 ~が1 あっ,犬が1います。 事実提示/従属節内主語 主語について述べる。 ~が1 は 雨が1は降る降る。 事実活写提示/ 従属節内対比主語 ~が2 質問への回答など(選択主語) 私が2田中です。 複主体 複主体を4種の構造に分けて考える。 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [2] 複数の主体が同一属性に立つ構造 [3] 態を含む構造 [4] 上置き構造を伴う構造 複主体 1-1 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 形容属性の場合 形容実体+形容辞 naga + .k- 長 (形容実体) =形容詞 (属性) = naga.k.k- 形容辞 属性 (形容属性) 鼻 (主体) 長 鼻-ga naga.k鼻が長い .k- 1主体,1属性 =単位構造 複主体 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 象 鼻 長 長 .k- .k- 鼻が長い … 単位構造 象 Ø1 鼻が長い 象 … 単位構造を属性とする主体 主体が2つになる … 違いは何? 属性主体 は属性の一部 属性主体 本主体 属性主体 形容実体 中国語 鼻 形容実体 .k- 属性 .k- 複主体 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [特徴1] 属性主体は本主体と常識的に明瞭な関係を持つものであるべき。 本主体は何でもよいが,属性主体には制約がある。 この象 Ø1は 窓が かわいい。 →意味不明 象が象の形のバスなら意味が分かる。 本主体 属性主体 窓はバスとは明瞭な関係がある。 空は指が太い。 ? 富士山は島が純白だ。 ? 川はドアが開く。 ? 東京は人口が多い。 彼は発音が明瞭だ。 ボクは熱が出た。 複主体 1-2 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 断定属性の場合 (形容動詞も) 彼 父親 公務員 父親 公務員 de de ar- で格実体 ar- 断定属性 主体 父親 Ø1 公務員である。 「単位構造」 本主体 属性主体 2つの主体 彼 Ø1 父親が公務員である。 [特徴1] 属性主体は本主体と常識的に明瞭な関係を持つものであるべき。 * 彼 Ø1は 田中さんが公務員である。 複主体 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 1-2 断定属性の場合 (形容動詞も) で格実体と属性主体の入れ替えが可能な場合がある。 彼 趣味 陶芸 彼 陶芸 趣味 de de ar- で格実体 arで格実体 本主体 属性主体 彼 Ø1 趣味が陶芸である。 本主体 属性主体 彼 Ø1 陶芸が趣味である。 複主体 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 1-3 動属性の場合 田中 長男 長男 結婚 結婚 o o を格実体 s- s- 動属性 主体 長男が結婚する。 本主体 属性主体 田中さん Ø1 は長男が結婚する。 「単位構造」 [特徴1] 属性主体は本主体と常識的に明瞭な関係を持つものであるべき。 *田中さん Ø1 は鈴木さんが結婚する。 複主体 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 1-3 動属性の場合 単位構造が連語の場合 五郎 後ろ 男 気 後ろ 男 ni i- ni ni 五郎 気 -ru ini tuk- tuk五郎は後ろにいる男に気がつく。 気がつく …… 単位構造としての連語 他の例 腕が上がる 腕が立つ (形容詞) 気が多い 手が空く 気が短い 骨が折れる 頭がいい 目が高い 複主体 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [特徴2] 「のつなぎ」描写① 「本主体」→「属性主体」の方向でなければならない。 象 鼻 長 本主体 属性主体 形容実体 の .k象 Ø1 鼻が長い。 の .k- 本主体 の 属性主体 が ~ 象 の 鼻が長い。 逆向きの の は不可。 *鼻 の 象 が長い。 本主体(象)が単独の属性(長い)の主体になってしまう。 複主体 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 彼 父親 公務員 田中 長男 結婚 の de の o ar- s- で格実体 本主体 属性主体 彼 Ø1 は父親が公務員である。 本主体 属性主体 田中さん Ø1 は長男が結婚する。 彼 の 父親 Ø1 は公務員である。 田中さん の 長男 Ø1 は結婚する。 [特徴2] 「のつなぎ」描写は「本主体」→「属性主体」の方向で。 *父親 の 彼 Ø1 は公務員である。 *長男 の 田中さん Ø1 は結婚する。 複主体 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [特徴3] 「のつなぎ」描写② 属性で実体修飾をする場合は,双方向の「のつなぎ」描写が可能。 「本主体」→「属性主体」 / 「属性主体」→「本主体」 象 長 鼻 の 本主体 属性主体 形容実体 .k- の .k- 「本主体」→「属性主体」 象 の 長い 鼻 (属性で実体を修飾) 「属性主体」→「本主体」 鼻 の 長い 象 (属性で実体を修飾) いずれも単位属性「鼻が長い」全体が本主体「象」を修飾することになる。 複主体 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 彼 公務員 父親 の 田中 結婚 長男 の o de ar- s- で格実体 本主体 属性主体 本主体 属性主体 彼 の 公務員である 父親 田中さん の 結婚する 長男 父親 の 公務員である 彼 長男の 結婚する 田中さん [特徴3] 「のつなぎ」描写② 属性で実体修飾をする場合は,双方向の「のつなぎ」描写が可能。 複主体 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [特徴4] 「のつなぎ」描写③ 本主体は,それと特定できる実体であるべき。 妻の賢い弟 ……賢いのはだれ? 妻 賢 弟 の 弟 賢 妻 の 敏子 敏子 .k- .k- 本主体 属性主体 妻は弟が賢い。 妻の 弟 妻の 賢い 弟 敏子 の 賢い 弟 本主体を敏子のように特定できる 実体にすると二義は生じにくい。 本主体 二義 属性主体 弟は妻が賢い。 妻の 弟 妻の 賢い 弟 属性主体は本主体との関係物・人。 属性主体の妻は「敏子」になりにくい。 複主体 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [特徴4] 「のつなぎ」描写③ 本主体は,それと特定できる実体であるべき。 妻の賢い弟 ……賢いのはだれ? 妻を本主体とする場合 弟を本主体とする場合 → 敏子 の 賢い 弟 (敏子 は 弟 が賢い。) → 妻 の 賢い 俊彦 (俊彦 は 妻 が賢い。) 親友のフリーターである息子 ……フリーターはだれ? → 親友 の フリーターである 大輔 (大輔 は 親友 がフリーターである。) → 田中さん の フリーターである 息子 (田中さん は 息子 がフリーターである。) 姉の結婚する娘 ……結婚するのはだれ? → 佐藤さん の 結婚する 娘 (佐藤さん は 娘 が結婚する。) → 姉 の 結婚する 林さん (林さん は 姉 が結婚する。) 複主体 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [中国語] 小王死了父亲。 小王的父亲死了。 父亲 小王 父亲 小王 死 死 的 了 本主体 她脸红了。 中国語 了 属性主体 我腰疼。 这本书内容不错。 中国经济持续发展。 複主体 1-4 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 本主体が複数ある場合 彼 調子 調子 夏 良 良 .k- .k- 単位構造 調子が良い 彼 Ø1 は 夏が 調子が良い。 実現する場としての本主体 実現する時としての本主体 複主体 1-4 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 本主体が複数ある場合 智 雄 調子 智 良 雄 夏 調子 良 夏 .k.k本主体 智ちゃん と 雄くん Ø1 は 夏が 調子が良い。 実現する場としての本主体 時の本主体 属性主体 複主体 1-5 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 属性主体が複数ある場合 読書 彼 テニス 趣味 趣味 彼 読書 テニス de de ar- 彼 Ø1 は 読書 と テニスが 趣味である。 本主体 属性主体 ar- 複主体 複主体を4種の構造に分けて考える。 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [2] 複数の主体が同一属性に立つ構造 [3] 態を含む構造 [4] 上置き構造を伴う構造 複主体 複主体を4種の構造に分けて考える。 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [2] 複数の主体が同一属性に立つ構造 [3] 態を含む構造 [4] 上置き構造を伴う構造 複主体 [2] 複数の主体が同一属性に立つ構造 形容属性の場合 私は故郷が懐かしい。 私 故郷 私 懐かし 故郷 懐かし .k- .k- 参考 林さんは娘が結婚する。 私が懐かしい。 私 …… 感覚主体 故郷が懐かしい。 故郷 … 帯感主体 × 林さんが結婚する。 ○ 娘が結婚する。 感覚主体と帯感主体は常識的な明瞭な関係を持つ必要はない。 複主体 [2] 複数の主体が同一属性に立つ構造 断定属性の場合 (形容動詞も) 彼はうどんが好きだ。 うどん 彼 好き 好き de de 彼 うどん ar- ar感覚主体 帯感主体 彼 は うどん が 好き -de ar-u. 彼 は うどん が 好き -de ar-u. 複主体 [2] 複数の主体が同一属性に立つ構造 連体修飾の場合 うどんの好きな彼 彼が好きなうどん 彼 うどん 好き 好き de 彼 de 好き うどん の 好き ni ar- ni ar- 格移動 格移動 彼 -ga 好き ni ar-u うどん うどん の 彼 彼 -ga 好き ni ar-u うどん うどん の 彼 うどん の 好き-ni ar-u 彼 連体修飾では「で格実体」が「に」格に 移動する……格移動 うどん の 好き-ni ar-u 彼 複主体 [2] 複数の主体が同一属性に立つ構造 連体修飾の場合 うどんの好きな彼 彼が好きなうどん 彼 うどん 好き 好き de de 好き 好き ni 彼 うどん の ar- ni ar- 格移動 格移動 この二義性 をどう説明するか。 田中さんの好きな鈴木さん 田中さんが好きな鈴木さん この2主体は属性に対して対等な関係にある。 つまり,どちらも感覚主体でありうるので二義 を生じている。 複主体 [2] 複数の主体が同一属性に立つ構造 動属性の場合 彼はお金が要る。 彼 お金 ir- 語源 彼は英語が出来る。 彼 英語 deki- 「要る」はもともと 「必要物の中に入る(イル)」の意。 「出来る」はもともと 「出現する・生成する」の意。 「彼」は場の主体 ……「に格」に置くこともできる。 「彼」は場の主体 ……「に格」に置くこともできる。 彼にお金が要る。 彼に英語が出来る。 複主体 複主体を4種の構造に分けて考える。 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [2] 複数の主体が同一属性に立つ構造 [3] 態を含む構造 [4] 上置き構造を伴う構造 複主体 複主体を4種の構造に分けて考える。 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [2] 複数の主体が同一属性に立つ構造 [3] 態を含む構造 [4] 上置き構造を伴う構造 複主体 [3] 態を含む構造 彼は英語が分かる。wak-ar彼は英語が読める。 yom-e彼は目が見える。mi-e- 複主体 [3] 態を含む構造 彼 彼は英語が分かる。wak-ar彼は英語が読める。 yom-e- o wakni 彼は目が見える。mi-e- wak- : 区別する。理解する。 別々にする。 -ar- 彼に英語が分かる。 属性一体化 彼 彼に英語が分かる。 英語 wak- 英語 o 彼が英語が分かる。 複主体の出現 彼が英語が分かる。 (を) -ar- 複主体 [3] 態を含む構造 彼 彼は英語が分かる。wak-ar彼は英語が読める。 yom-e- 英語 o yomni 彼は目が見える。mi-e- -e- 彼に英語が読める。 属性一体化 彼 彼に英語が読める。 yom- 英語 o 彼が英語が読める。 複主体の出現 彼が英語が読める。 (を) -e- 複主体 [3] 態を含む構造 彼 彼は英語が分かる。wak-ar彼は英語が読める。 yom-e- 目 de mini 彼は目が見える。mi-e- -e- 彼が目で見る + -e- 属性一体化 彼 彼が目で見る。 目 mi- -e- 彼が目が見える。 複主体の出現 彼が目が見える。 複主体 複主体を4種の構造に分けて考える。 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [2] 複数の主体が同一属性に立つ構造 [3] 態を含む構造 [4] 上置き構造を伴う構造 複主体 複主体を4種の構造に分けて考える。 [1] ある主体が「単位構造」を属性とする構造 [2] 複数の主体が同一属性に立つ構造 [3] 態を含む構造 [4] 上置き構造を伴う構造 複主体 [4] 上置き構造を伴う構造 私は水が飲みたい。 私 → 上置き構造: 私が水を飲む 水 私 o ta nom- 水 o nomta .k.k私は水が飲みたい。 感覚主体 帯感主体 「たい」: 上置き構造が現実世界に実現することを話者が望む。 「私」 感覚主体 「水」 帯感主体 上置き構造の論理関係を優先して表現することもできる。 私は水 を 飲みたい。 複主体 [4] 上置き構造を伴う構造 彼は水を飲みたがる。 彼 水 o ta 彼 nom- 水 o nomta .gar- 「たがる」: 上置き構造が現実世界に実現することを 話者以外の主体が望む。 複主体構造を構成しない。 .gar- 複主体 終わり 複主体 正しい? 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