「オールドカマーの幼児教育から学ぶ ー4歳からの継承語教育ー」

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Transcript 「オールドカマーの幼児教育から学ぶ ー4歳からの継承語教育ー」

2 0 0 8 年 8 月 1 0 日
母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究会
2008年度大会
オールドカマーの幼児・小学校教育から学ぶ
- 4歳からの継承語教育 -
張清香 (京都朝鮮第1初級学校)
千石美佐 (立命館大学大学院生言語教育情報研究科)
司会と解説 湯川笑子(立命館大学)
継承語としての朝鮮語イマージョン教育
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大学校1校、高級学校9校、中級学校28校、初級学校58校、同キャン
パスでの併設校を1校と数えると計73校(月刊イオ編集部,2006『日
本の中の外国人学校』明石書店)
在日本朝鮮人総連合会の傘下にある4つの韓国系の学校とは別
朝鮮学校の歴史、各種学校として、補助金不足と進学保障(高校、大
学への受験資格)の問題指摘の文献多数、しかしバイリンガル教育と
して言語習得、言語教授法の文献少ない
↓
2001-2年度の研究の湯川笑子他(2003)日本学術振興会科学研究
費補助対象研究『京都市の朝鮮学校における朝鮮語・日本語のバイ
リンガル教育の方法と成果』報告書 課題番号13680363(研究代表
者:湯川笑子)
京都・滋賀地域の幼稚園におけるイマージョン教育の方法と園児の言
語習得についてエスノグラフィーによる観察・記述(概要はレジメに)
朝鮮語イマージョンをとりあげた過去
のMHB研究会

2003年8月8日第1回MHB研究会にて
「L1教育からイマージョンへー朝鮮学園の継承語保持努力の事例から」
立命館大学 湯川笑子
2006年8月26日第10回MHB研究会にて
「朝鮮語イマージョンにおける読みの指導-京都朝鮮第3初級学校1~3年」
京都朝鮮第3初級学校 趙弘子(チョ・ホンジャ)
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
2008年2月23日第18回研究会「JSLカリキュラムワークショップ」
「(日本で成功してきたバイリンガル教育:朝鮮幼稚園の取り組み)」
立命館大学 湯川笑子
朝鮮学校イマージョン教育を研究する
意義
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戦後60年の歴史をもつ世界でも稀有なイマージョン
教育のノウハウの宝庫を日本内外に紹介する意義
日本語と朝鮮語という言語体系の近さゆえの特徴
(言語教授法と習得過程)の発見
⇔L1日本語・L2英語イマージョンとの違いの対比
全国に広がる朝鮮学校のバイリンガル教育のさらな
る教授法の向上に貢献する可能性(教師教育)
他の継承語教育、外国語教育への示唆
朝鮮学校イマージョン教育を研究する
難しさ
政治的、教育政策的な逆風のため、自由に研究がしにくい。
言語力アセスメント、モノリンガルとの対比的研究は曲解さ
れかねない、実施しにくい
⇔日本語・英語イマージョンであれば、各種標準テストや校内
到達度テストの結果を公表
 朝鮮学校内の教育研究集会と一般の言語教育研究会や学
会との交流がない=研究方法や研究成果の共有化が困難
 4~5世代も続いた継承語教育の全体としての成功は明白、
しかし個人レベルで、バイリンガル教育の成果をどう評価す
るのか(何をもって成功とするのかー進路、言語力、将来の
言語使用、アイデンティティ形成等)のモデル未確認。多様な
進路、成人になってからの言語使用をどう評価(evaluation)
に生かすのかが不明

若干の進展ー今回のシンポジウム
朝鮮学校内部で、幼稚園段階でのウリマル教育に
ついて興味・関心が高まってきた
現場教員による研究会、朝鮮大学校での関心の高
まりなど
⇒2003年の湯川他報告書の後の変化
張先生
 朝鮮小学校での参与観察研究
千石さん

「朝鮮学校幼稚園のバイリンガル教育
-2003年以降および土曜教室 -」
京都朝鮮第一初級学校
張清香
2008,8,10
1.2003.3「京都市の朝鮮学校における朝鮮語、日
本語バイリンガル教育の方法と成果」湯川笑子先生
の研究成果報告書がもたらした意義
①朝鮮学校における朝鮮語教育の教授法、言
語能力を育てる過程、特に幼稚園での言語
教育と詳細な実態を明らかにすることは関係
者に大きな衝撃を与えた。
②トータルイマージョンバイリンガル教育の教
授法と朝鮮語習得の過程の言語データはよ
い指導法のお手本として朝鮮語教育関係者
や新規教員の教育に利用されている。
2.その後の反響と教授法の変化
2.1 2004.1 近畿教育研究会(幼稚班分科)
にて湯川先生の論文説明
2.2 2006.1 中央教育研究会にてコードス
イッチングをテーマに論文発表
表1 「朝鮮語会話能力の到達度と
コードスイッチングの特徴」
朝鮮語会話能力の到達度
年少児
聞く-基本的生活用語
年中児
話す-生活用語
ウリマル会話の基礎
年長児
ウリマル会話用語の完成
コードスイッチングの特徴
模倣のコードスイッチング
自発的なコードスイッチング
自由で頻繁な
コードスイッチング
年少児:模倣のコードスイッチング
正しい文章:
「オンマ ハゴ ワッソヨ?」(オンマと来たの?)
「オンマ ハゴ ワッソヨ」(オンマと来たの)
「ヌグ ハゴ ワッソヨ?」(誰と来たの?)
CSのある文章:
「オンマ と ワッソヨ」(オンマと来たの)
「オンマ と ワッソヨ イエヨ」(オンマと来たの の)
「オンマ と ワッソヨ やで」(オンマと来たの やで)
年中児:自発的なコードスイッチング
園児がよく知っている表現(正しい表現):
「ナビ カッテヨ」 (ちょうちょみたいだ)
↓
「クルクリ カッテヨ みたいに トゥントゥンヘヨ」
(豚 みたいだ みたいに ぷくぷくしてる)
正しくは
「クルクリ チョロム トゥントゥンヘヨ」
年長児:自由で頻繁なコードスイッチング
2言語のレパートリーを自在に活用
「めっちゃアパッソヨ」(めっちゃいたかった)
「オジュムたれヘッソヨ」(おしっこたれした)
正しくは
「ノムアパッソヨ」、「オジュムサッソヨ」
 ままごとの時や、長期休暇中の特別保育の
際には日本語を多用する言語選択

コードスイッチングによるエラーに
対しての対処法
絵本の読み聞かせ(CSのエラーへの対処
のため、2003年以降とくに積極的に取り入れた
活動)

助詞、用語、語尾のエラーを少なくするために
意図的な文、句などを聞かせる。
3. 朝鮮学校幼稚園における
朝鮮語教育の特徴
朝鮮幼稚園教育は 社会、ウリマル(言語)、
健康、自然、音楽律動、造形とで6つの領域
の中、ウリマル(言語)を中心に他の領域が
有機的に配合されたウリ式綜合保育である。
朝鮮半島でも日本でもないまさに在日コリア
ンの「ウリ式」継承語教育といえる。
カリキュラム、教育要綱
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1983年 幼稚班教育のカリキュラムが実施(7つ
の領域)
1985年 幼稚班教育要綱作成作業の始まり
1994年 「総聯幼稚班教育要綱」作成執行(6つの
領域)
2008年 新しい要綱作成作業開始(5つの領域)
スタートから今日まで要綱作成にあたって重要な
テーマはウリマル教育である。
4. 総合保育の事例6月の保育内容
(年中)


6月のテーマ「雨しずく」-(年少、年中、年長共通)
6月のねらい-①梅雨に興味をもつ。
②人の話を落ち着いて聞け
るようにする。
雨しずくからあじさい製作、カタツムリの時計製作、
父の日まで生活、遊び、行事→インプットとアウト
プット
4.1 社会
・雨の日は室内で生活ルールを守りながら過ごす
・人のお話を注意して聞く
・友達と遊んだおもちゃをかたづける
・民俗あそび~おてだま、おはじき(お父さんの仕事について知る)
4.2 ウリマル
・梅雨に関連する言葉
・小動物の飼育に関連する言葉
・人の話を注意深く落ち着いて聞く(お話、言葉遊び)
4.3 健康
・つま先歩き
・前後左右とび
・マットで手をつなぎながらでんぐり返り
・平均台で前歩き
・なわを大きく、小さく、早く、ゆっくり回す
・手洗い、歯みがき、汗ふきをすすんでする
4.4 自然
・田植えを手伝う
・雨が降る様子を興味深く見る
・おたまじゃくしや、かたつむりを飼育する
・生活の中で今日、明日を知る(数)
・上、下を知る(数)
4.5 音楽律動
・雨しずく
・みんなきれいに(遊戯)
・雨の日
・雨がふる(遊戯)
・歯をみがこう
・もったいないよ(遊戯)
・なかよく遊ぼう
・かえる
・何をささやいてるの
4.6 造形
・お父さん
・雨の日
・小動物のお絵かき
・あじさいの形
・砂場でトンネル作り
・おりがみ(あじさい)
・長い紙でかたつむり
・紙で作るヘリコプター
・歯みがき
年中児のウリマルでの
誕生日のご挨拶
「私は6月17日に誕生日を迎えて5歳にな
りました。好きな食べ物はカレーとイチゴ
です。好きな動物はうさぎです。大きく
なったらパン屋さんになりたいです。」
5.準教育網
準教育網とは:
フルタイムの朝鮮学校以外教育土曜教室、幼児教室
など
土曜児童教室と幼児教室の事例
土曜児童教室担当のコメント
幼児教室担当のコメント
おわりに
今後の課題:
園児のアウトプットの量と質をさらに高めるには
どうすればよいのか。
全国の朝鮮幼稚園においてイマージョン教育
の教授法の共有化