地球温暖化を防ぐための政策

Download Report

Transcript 地球温暖化を防ぐための政策

地下水保全と環境税
岡敏弘(福井県立大学)
2002年10月23日
水利用対策懇談会講演会
環境税の基礎理論
• 環境政策の目的――環境負荷の低減
• 従来規制でやってきた。
• なぜ、環境税?
– 1. 最適な「汚染水準」を自動的に達成
– 2. 誰がどんな方法でどこから環境負荷を削減するか
を民間(市場)に任せる。
→その結果、最も費用の安い方法が自動的に選択さ
れる。
「最適汚染」のための環境税
――ピグー税――
• 汚染の被害額に等しく税をかける。
• 例えば、窒素酸化物(NOx)1kgが2000円の被害を与える
として、1kg当たり2000円の税を課すと…
• 脱硝装置の設置によって1kg当たり500円の費用で削減
できるなら、工場は自主的にその装置をつけることになる。
• ディーゼル自動車をガソリン車に買い換えるとNOxを減
らせるが、これには2500円/kgかかるとしたら、それは行
われないだろう。
• 被害額よりも安い費用でできる対策だけが行われる。
• しかし、被害額とは?
「被害額」を必要としない環境税
――ボーモル=オーツ税――
• 環境の目標(環境基準、または、排出量)を決めて、それ
が達成できるように税をかける。
• 例えば、
– 脱硝装置の設置によって1kg当たり500円の費用でNOxを年間1
万t削減できる。
– 新車の排ガス基準を強化することで1kg当たり1000円の費用で
NOxを年間1万t削減できる。
– 既存のディーゼル自動車の買い換えを強制するとNOxをさらに1
万t減らせるが、これには2500円/kgかかるとする。
• 目標削減量が2万tなら、1000円/kg以上2500円/kg未満の
税をかければよい。
• 誰がどうやって削減するかは民間に任せる。
地球温暖化問題
• 京都議定書の公約――第1約束期間(2008~2012)の平均排
出量を、1990年の排出量の94%以下とする。
1400.0
排出量(百万t-CO2)
1200.0
CO2排出量
実質GDP
1214.11221.11236.91233.91187.6
1147.81162.21144.0
1124.4
1000.0
600000
500000
400000
800.0
300000
600.0
200000
400.0
100000
200.0
0.0
0
実質GDP(1995年基準、10億円)
日本のCO2排出量の推移
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998
• 1990年の排出量の94%は1012.0百万t。1998年レベルから
15%の削減に相当する。
炭素税(1)
• 燃料消費に課税。ただし、炭素量をベースに。
• (例)低燃費自動車の選択
燃費(km/l)
価格(円)
従来車(1500cc)
低燃費車(1500cc)
11.1
29.0
1500000
2300000
– 価格差80万円。
– 10年使用、利子率3%なら、1年あたりの価格差は94000円。
– 他方、1万km/年走行、ガソリン価格100円なら、年間燃料費の差は
56000円。
– よって、低燃費車を購入する経済的理由はない。
– しかし、ガソリン価格が169円に上がれば、年間燃料費の差が94000円
になる。
– 炭素税によってこの燃料価格の上昇を起こすことができる。
– そのための炭素税率は11万円/t-C (←ガソリン1lあたり0.6432kgの炭素)
炭素税 (2)
• 太陽光発電
– 住宅用3kWの発電施設。初期350万円、維持管理費が10年ごと
に10万円、4年ごとに15000円。
– →年間26万円に相当 (20年、利子率3%)
– 0.41kWh/m2/日の発電が可能(今立町)。面積25m2とすると、年
間3741kWhの発電。
– →発電単価は71円
– 電力会社の電気料金が24円/kWhとすると、とても採算に合わな
い。
– しかし、炭素税をかければ、太陽光発電も競争力を持つようにな
る。
– 47万円/t-Cの炭素税。 (電力1kWhあたり炭素排出量は109.6g、
太陽光発電装置の生産も、10.9gの炭素を出す)
炭素税 (3)
• 工場の省エネルギー
– 乾燥に必要な蒸気を発生させるボイラーへの送風のインバータ
制御化の場合(漆崎千春、福井県立大学2000年度卒業論文)
• 工事費用600万円
• 節電91,746kWh/年 ⇔ 1,284,000円/年
• →3年で回収できないから、採用されなかった。
– しかし、炭素税をかけたら…
• 電気料金を7.8円上昇させれば、上の投資は3年で回収できるように
なる。
• 電気の炭素排出原単位を109.6g/kWhとすると、必要な炭素税率は
71000円/t-Cである。
炭素税の効果
炭素削減 単価(万円 /t-C)
• 10万円/t-Cの炭素税をかけると、工場省エネだけが行われる。15万
円/t-Cの炭素税にすると、低燃費車が導入される。
• 常に、炭素税率よりも削減単価の安い対策だけが採用される。
• こうして、炭素税は一定の排出削減を最小の費用で達成する。
50.0
40.0
太陽光発電
(1 0軒分)
30.0
20.0
10.0
工場省エ ネ
低燃費車
(1 0台分)
0.0
0.0
5.0
10.0
累積炭素 削減量(t-C/年)
15.0
環境税の欠点
• 工場省エネの場合、通常、省エネによって減るエネルギー消
費は、消費量全体の中の小さな割合である。例えば、年間500
万kWh使っていて、そのうち、 91,746kWhだけが、省エネ投
資によって節約される。それが10万円/t-Cの炭素税に
よって起こったとすると、残りの491万kWhについて、炭素
税5400万円を払わなければならない。電気料金支払い
6870万円に加えて。
• 低燃費車の場合、年間ガソリン消費量は901リットルから
345リットルへと下がるが、それが15万円/t-Cの炭素税に
よって実現したとすると、残った345リットルについて、年
間33000円の炭素税を払わなければならない。燃料費
34500円に加えて。
環境税の欠点の図解
炭素税率
(円/t-C)
炭素削減単
価(円/t- C)
炭素税支払額
炭素排出
削減費用
削減後排出量
当初排出量
炭素排出量(t-C/年)
炭素税の欠点を克服するための措置(1)
• デンマークの場合
家計部門の炭素税率は100デンマーク・クローナ/t-CO2 (7300円/t-C)。
産業は、下表のとおり軽減税率の適用。
デンマークの産業用炭素税率(デンマーク・クローナ/t-CO2)
1996
1997
1998
1999
2000
軽プ 協定なし
ロセ 協定あり
ス
50
60
70
80
90
50
50
50
58
68
重プ 協定なし
ロセ 協定あり
ス
5
10
15
20
25
3
3
3
3
3
炭素税の欠点を克服するための措置(2)
• イギリスの場合
– 2001年4月に気候変動税(Climate Change Levy: CCL)
を導入。対象は産業・営業部門のエネルギー消費。税
率は、電力0.43ペンス/kWh、ガス・石炭0.15ペンス
/kWh (ガスで5200円/t-C、石炭で3000円/t-Cに相当)。
– エネルギー集約産業で、政府と省エネルギーに関す
る協定を結んだ場合は、税率を80%軽減。
– 2001年2月までに、15部門が協定締結。例えば、セメ
ント業界は、2010年までに、エネルギー消費原単位を
1.25kWh/kgに抑えることを目標とするという内容 (ちな
みに1990年は1.68kWh/kgだった)。
炭素税の欠点を克服するための措置(3)
炭素削減単
価(円/t-C)
炭素税率
(円/t-C)
炭素排出
削減費用
軽減税率
炭素税支払額
協定排出量
当初排出量
炭素排出量(t-C/年)
排出量を先に決める。
費用最小化という環境税の利点はなくなる。
炭素税の欠点を克服するための措置(4)
• 環境庁環境政策における経済的手法活用検討会が提案したもの
――炭素1トン当たり3000円という低率炭素税(石油1リットル当たり
約2円)を導入し、その税収を、省エネルギー技術導入促進のための
補助金として活用する――
• 同検討会は、炭素税単独で、京都議定書による日本の削減義務量
を達成するためには、炭素1トンあたり3万~4万円の炭素税が必要
であるとの計算結果を採用している。1トンあたり3000円の低率炭素
税は、単独では削減目標は達成できないが、その税収を財源として
それを最適に補助金として支出して、省エネルギー技術等を導入さ
せることができれば、日本全体としての削減目標を達成できるという。
• この、低率炭素税プラス補助金という案も、炭素税の高負担を緩和
するための工夫の結果である。これは、ヨーロッパにおける、特定部
門への軽減税率の適用とは違って、すべての部門に軽減税率が適
用される。すべての部門で軽減税率を適用すると、削減目標は当然
達成できないが、それを補うのが補助金というわけである。
いわゆる税の「グリーン化」
• 自動車税制のグリーン化 (2001年度から)
– PM,NOxに関する最新規制適合車、低燃費車(2010年省エネ基
準適合車)の、自動車取得税と自動車税を軽減。
– ハイブリッド・カー(29km/l)の場合
– 取得税が48000円軽課、自動車税が17000円/年軽課。
– →取得時の価格差が75万2000円に。それは1年当たり88000円
に相当。そこから17000円を引くと、1年当たり費用の差は71000
円。それを燃料費の差で埋め合わせるのに必要なガソリン価格
の値上がり分は28円となる。それを引き起こすには、43000円/tCの炭素税で十分となる。
– 更に言えば、自動車税の軽課・重課の差をもっと大きくすれば、
炭素税なしで、超低燃費車の普及を促進できる。
– しかし…
税のグリーン化は環境税とは異なる
• 税は保有に影響を与えるが、その後の使用には影響を与えない。
しかし、二酸化炭素の排出量は、自動車の使用量に依存する。
• 省エネ法の燃費基準という規制基準を前提としている。新燃費
基準は、2010年には満たされなければならない基準である。ここ
に税率の差別化を追加することの意味は、2010年以前の達成を
促進することと、2010年以降の過剰達成を促進することである。
• どこから差別税率を適用するかという境目は規制基準によって
決まっている。炭素税に期待されているような、効率的な削減方
法が自ずから選択されるという効果は期待できない。
• 税制グリーン化の意味は、炭素税に比べて、はるかに小さい負
担で、低燃費車の競争力を引き上げることができるという点にあ
る。
地球温暖化以外の例
• ドイツ排水課徴金
– 1981年に導入。
– 1汚染単位に60マルクの課徴金。
– 基準を満たせば15マルクに減額。
課徴金率( マルク)
60
基準を満たせば
節約される額
15
基準
まとめ(1)
• 環境税が効果を発揮するための条件は、どこで、誰が、
どれだけ、環境負荷を削減するかが、税によって決まっ
ていること。
• そのためには税率が十分高くなければならない。
• 現実には、多くの場合、軽減税率、差別税率などによっ
て、どこで、誰が、どれだけ、環境負荷を削減するかは、
規制や協定や補助金など、他の政策手段が決めている。
→環境税は規制に帰着する
税が効果を発揮した例
• オランダ排水課徴金
• ドイツよりも高い料率(1993年平均で73ギルダー)
• 課徴金の目的は財源調達である
– 下水処理費
– 工場や家計が水管理組合に払う
• 環境水への排水は直接規制
• 課徴金は下水処理場に入る水の前処理を促進した
地下水に対する税の例(1)
――オランダ地下水税――
• 1983年から、地方(province)の地下水利用料金制度が
あった。
– 地下水の維持管理に必要な費用をまかなうため。
– 税率は、0.0044~0.056NLG/m3 (0.2~2.8円/m3)
– Provinceは、取水に関する許可証を発行――利用規制。
•
•
•
•
1995年直接税減税の原資として国の地下水税を導入。
課税対象者は、水道・工場・農場。
税率は、0.36NLG/m3 (18円/m3)。
税収は3.75億NLG(2001)。使途は一般財源。
オランダ地下水税の節水効果
• 水道利用者には意識されていない。
• 家計の水道使用量は元々少ない。
• にもかかわらず、地下水汲み上げ量は、1992年
から1998年にかけて6%減少。これは節水キャン
ペーン、節水機器普及の効果。
• 大口利用者には、20円/m3の地下水税と
Provinceの地下水利用料金は安くない。しかし、
許可証制度が、実質的に使用量増加を阻止して
いる。
秦野市の地下水協力金
• 1975年導入。要綱に基づく。
• 20t/日以上の採取者から20円/m3の協力金。協
力金単価は水道料金の3分の1を超えない。
• 地下水取水量(2000年度)
– 水道――1682万m3/年(46000m3/日)
– 協力金対象工場(26社)――207万m3/年
• 使途――水道会計へ。
• 地下水の量的管理――許可制によって事実上
新規取水は禁止。
まとめ(2)
•
•
•
•
ボーモル=オーツ税は成功しない。
環境の質の管理は直接規制や計画の方が確実。
環境の質に間接的に関わる行為の制御には税が有効。
財源調達なら税率の根拠に説得力がある。結果として高
い税率を設定できる場合がある。
• 使い道のはっきりしない税は低率にならざるを得ない。
• 低率の税の意義は、環境政策の手段としてのそれでは
ない。それは、増税の難しい時代の、税源拡大の方法の
1つとして意義をもつ。そして、環境負荷に課税することが
公平だという言い方なら支持を得やすい。