実践編 - 日本DV防止・情報センター

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Transcript 実践編 - 日本DV防止・情報センター

DVの理解と解決・支援
実践編
科学研究費補助金基盤研究(B)によ
り作成した
医療や公衆衛生は、
DVへの対応・対処という面で、
どのような役割を果たすことができるだ
ろうか。
また、どのようなことを期待されている
だろうか。
科学研究費補助金基盤研究(B)によ
り作成した
保健医療関係者がDVの問題に
取り組む必要性の理由
 DVは医療・公衆衛生に関係する健康問題であるから。
「DVで死ぬかもしれない」と思った人は20人に1人で
ある。
 医療機関がDV被害者の早期発見機関になり得るから。
DV被害者のうち、身体的暴力を受けた人の8割はケ
ガをしており、その半数が病院を受診している。
 医療機関は地域のDV解決支援機関でもあることから。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
DVが
健康問題に及ぼす影響
科学研究費補助金基盤研究(B)によ
り作成した
DVが及ぼす健康への影響




身体的影響
妊娠出産に関する影響
精神的影響
生活障害
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
外傷
 頭部、顔面、頚部、胸郭、乳房、腹部への外傷
が多い。
鼓膜穿孔、眼窩骨折、前房出血、歯損傷、顎骨骨折、
顔面骨骨折、頚部圧迫、タバコによるやけど、
胸部損傷、横隔膜損傷、外陰部損傷、四肢の捻転
妊婦のけが
 身体の左側に多発する。
 医療者の所見と、けがの原因についての患者
の説明は違うことがある。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
救急におけるDVの頻度
Denver,1993年の統計
急性のDV
11.7
現在のパートナーのDV
27.7
11.9
一ヶ月以内のDV
15.3
一年以内のDV
54.2
これまでのDV
0
10
20
30
40
50
60
%
JAMA. 1995 ;273:1763-1767
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
医学的な所見
 慢性の痛み、心因性の痛みなど
 ストレス性の身体症状(睡眠や食欲障害、倦怠感、
慢性的な頭痛、胃腸の障害、動機、めまい、感覚
異常、呼吸困難など)
 産婦人科系の問題(繰り返す膣炎、膀胱炎、STIな
ど)
 不定愁訴
 慢性疾患(喘息、糖尿病、関節炎、高血圧、心臓
病など)
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
DV被害者のSTD
STD clinic in San Francisco
1996-1997年
1年以内のDVあり 11%
DVの既往
24%
DVあり
アルコールや薬物使用
関係外のsex
0
1
2
3
4
調整オッズ比
Sex Transm Dis. 2002 Jul;29(7):411-6.
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
妊娠中の暴力
 母体と胎児の健康に影響する:流産、死産、早産、
低出生体重児
 暴力は妊娠中に、よりエスカレートする。産褥にさ
らに増える。
 健診を受けない、受診が遅い、予約のキャンセル、
多くの訴えを繰り返したりすることがDV女性でよく
みられる。
 妊娠中は暴力のスクリーニングや認識をする良い
機会である。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
妊娠中の暴力の頻度
日本では3~
5%
米国
3.9-8.3%
英国
2.5-7.8%
カナダ
5.5-6.6%
スウェーデン
11%
南アフリカ
6.8%
ニカラグア
0%
5% 13%
10%
15%
20%
25%
30%
Campbell JC:Lancet 359:1331-36,2002
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
妊娠中の暴力と児の予後
警察へ訴え出たDV
Seattle、1995-1999年の統計
4
3.49
3
2.54
1.7
2
1.61
1
亡
新
生
児
死
-3
1週
産
20
早
-3
6週
産
20
早
<1
BW
VL
W
<2
50
50
0
0g
g
0
LB
調整オッズ比
2.54
Obstet Gynecol. 2003 Sep;102(3):557-64
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
精神的影響
 不眠、不安、パニック発作、抑うつ、自殺企図、
 薬物やアルコール中毒、摂食障害、恐怖に伴う支配を
受け続けることで自己価値観が低下する
 無力感にとらわれた被害者の自殺率は高い
 自分が悪い、相手を変えられないという自責感をもつ
 アルコールや薬物依存に陥る
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
複雑性PTSD
 感情コントロールの障害
持続的不機嫌、うつ、慢性的な自殺念慮、自分を傷つけ
る行動
 意識状態の障害
記憶にまつわる障害、離人症、一過性の解離
 自己イメージに関する障害
絶対的無力感、自分が壊れてしまったような感覚、
自責感と罪悪感、自分は人とは全く違うという感じ
 人間関係に関する障害
孤立と引きこもり、人への不信と依存、加害者へのこだわ
り
 その他
絶望感、自暴自棄
 DV被害者のPTSD有病率は31~84%である(米国)
(Trauma,Violence,&Abuse:2(2)99-119,2001)
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
DV女性の入院歴
18ー44歳の女性 Washington
1-year retrospective cohort study
5
4
3
4.9
3.7
2
3.6
1
1.9
1.8
患
精
神
疾
毒
け
が
や
疾
器
中
患
行
暴
消
化
殺
企
図
0
自
調整オッズ比
6
Am J Public Health. 2000;90:1416-20
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
保健医療関係者の役割
科学研究費補助金基盤研究(B)によ
り作成した
保健医療機関での日常的な取り組み
 院内マニュアルの作成
 スクリーニング(問診)の実施
ーDVに関連する問診と一般的な問診
 啓蒙・広報
ーポスター、カード、小冊子の提供
 定期的な院内全スタッフのトレーニング
 他の機関との連携(施設内外とも)
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
保健医療関係者の取り組み
 スクリーニング (問診)
 アセスメント (健康アセスメントとリスクア
セスメント)
 介入 (情報提供・連携・照会・安全計画)
 記録 (書類の作成)
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
スクリーニング
(問診)
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
問診時(スクリーニング)の注意事項





プライバシーの守れる2人ところで聞きましょう。
患者との信頼関係を作りながら行いましょう。
守秘義務について話しましょう。
すべての患者に行っていることを話しましょう。
「暴力」や「虐待」「打ちのめされる」などの直接的
な言葉は避けましょう。
 なぜするのか、どのような問診をするのかをスタッ
フ間で統一しておきましょう。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
口頭によるスクリーニング(問診)の
会話例
 この質問は、ここにこられた方皆さんにお聞きし
ています。あなたのパートナーが大きな声を出し
たり、脅したり、手をあげるようなことがあります
か?
 多くの女性が、夫を怖いと思っていることがある
ので、ここでは皆さんにお聞きしています。あなた
はパートナーを怖いと思ったことがありますか?
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
DVが疑われた時の会話例
判定に役立つ直接および間接的な質問をする。
さらに、焦点を絞った質問もしてみること:
 あなたのケガ(または状態もしくは問題)は、誰かに暴力
をふるわれた時によく見られるものです。どのような状況
でケガしたのですか?
 ナイフや刃物などが使われましたか?
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
フォローアップのための質問
過去の経験/虐待の経験:
 昔、暴力を受けたことがありますか。
 いつからDVがあったか覚えてますか。
 何が起こったのか話してくれますか。
 一番ひどかった時の話をしてくれますか。
 一番最近の事について、話してくれますか。
 暴力をふるわれて、病院にいかないといけないと思ったこ
とはありますか。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
フォローアップのための質問
子どもへの影響や解決へのアプローチ法の経緯を聞く
 こどもたちは、あなたが暴力を振るわれているところを見たり
聞いたりしたことがありますか。
 こどもたちが脅されたり暴力をふるわれたりしたことはありま
すか。
 あなたは、家を出ようとしたことはありますか。その結果、ど
うなりましたか。
 暴力をふるわれたり恐怖を感じたりした時に、助けをどこに
求めたらいいかを知っていますか。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
聞いてはならない質問
被害者を責めるような質問:
 なぜいつまでもそんな人と一緒に暮らしているのですか。
 あなたがなにをしたから、暴力を振るわれたのですか。
 一から出直すつもりで、別れるべきです。
 いつまでこんな状況に我慢しているつもりですか。
 自分がDVを受けているということをわかっていますか。
 私なら、そんな関係は早くにやめてしまうわ。
 あなたが今のままでいようとするなら、これ以上、私にでき
ることはありません。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
書面での問診
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
日常的な問診
書面による質問例:
 これまでに、1回でもパートナーから殴られたり蹴られたり、
叩かれたり、突き飛ばされたりしたことはありますか。
はい/いいえ/ わからない
 今の夫婦関係の中で、暴力をふるわれたり脅されたり、夫
を怖いと感じることはありますか。
はい/いいえ/ わからない
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
アセスメント
健康アセスメントとリスクアセスメント
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
リスク・アセスメント
重要な決定因子:
 女性自身による評価(自分はDV被害者かどうか)
 保健医療関係者による評価(健康の側面からのみて
どうか)
重傷または致死傷害の危険因子:
 DVの頻度または程度の深刻化
 パートナーによる殺人または自殺の脅迫
 刃物等の存在
 被害者が家を出ようとしている(別れようとしている)こ
とを加害者が認識している
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
介入(Intervention)
情報提供・報告・照会・安全計画
科学研究費補助金基盤研究(B)によ
り作成した
DV防止法:
医療従事者の役割(情報提供)
第6条4
医師その他の医療関係者は、その業務を行なうに当たり、
配偶者からの暴力によって負傷しまたは疾病にかかったと
認められる者を発見したときは、そのものに対し、配偶者暴
力相談支援センター等の利用について、その有する情報を
提供するよう努めなければならない。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
情報の提供
DVに関する基本的な情報の提供:
DVは社会の問題である。
身体的暴力は、DVの一部に過ぎない。
DVの頻度や程度は、時間の経過につれて深刻化していく
場合が多い。
被害者の努力で加害者を更正させることは不可能に近い。
以下のような経験は、こどもたちに影響を与える可能性があ
る。
-- 身体的暴力を受ける。
-- 両親のDVを目撃したり、耳にしたりする。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
情報と照会
 相談・カウンセリング
「別れる」だけでなく、現状維持をする場合でも。
 一時保護施設・ステップハウス
 自立支援
 法的な制度:保護命令(接近禁止命令と退去命令)など
 社会福祉サービス:優遇措置や助成など
 子ども向けのサービス
「DVのなかで過ごす子どもを助けるために」のパンフレットは、
http://www.dvp-end-abuse.com/ よりダウンロードしてください。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
DV防止法:
医療従事者の役割(通報)
第6条2
医師その他の医療関係者は、その業務を行なうに当たり、配
偶者からの暴力によって負傷しまたは疾病にかかったと認めら
れる者を発見したときは、その旨を配偶者暴力相談支援セン
ター又は警察官に通報することができる。この場合において、
その者の意志を尊重するよう努めるものとする。
第6条3
刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律
の規定は前二項の規定により通報することを妨げるものと解
釈してはならない。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
援助者の「思い」を伝える
被害者の立場を認めるようなメッセージを伝える:
 決して患者への非難をしない
 あなたの言うことを私は信じています。
 あなたが変わっているのではありません。
 あなたは1人ぼっちではありません。私はあなたの味方です。
 あなたが悪いわけではありません。-DVを受けているのは、あな
たのせいではありません。
 暴力を受けていい人なんかいません。-あなたは暴力を受けるよ
うな人ではありません。
 大変でしょうね。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
援助者の「思い」を伝える
被害者の立場を認めるようなメッセージを伝える(続き):
 安全に関する「思い」を伝える
 あなたの身の安全と健康について、心配しています。
 あなたは助けを求めることができるのですよ。
 選択の余地を残しておく
 自分で選べばいいですよ。
 状況が変わったら、私(または病院、保健所)がその都度情報
をお渡しして、力になります。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
安全計画
ケアの指針となる第一原則
 結果ではなくプロセスを大切にする
 個々の患者に合わせて個別的に対処する
-- 柔軟な計画を立て、状況の変化に合わせて修正
-- 今あるリスク(危険性)を念頭におく
-- 必要な情報の提供
-- 決定には患者を関与させ、その選択と自主性を尊
重
 フォローアップを保証する
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
記録
書類の作成と保管
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
書類の作成
DVに関する書類を作成する理由:




医学的に正しい内容であり信憑性が高い
職業上記録する必要性を持ち合わせている
保健医療関係者に対する信頼度が高い
医療サービス提供者の裁判回避の可能性が高い
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
書類の作成
 カルテ、看護記録、助産録など
 図表または略図
 写真
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
Body map
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
写真の撮り方
できるだけ以下の2枚をポラロイドカメラにて撮る。
 外傷患者が特定できるように、外傷と顔が一枚になる写真
 外傷の大きさが分かる写真
さしを一緒に撮る
ボールペンと一緒に撮る
など
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
ポスター・小冊子・カードの提供
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
・ポスターはどこに貼ればいいでしょう
か?
・カードはどこにおけば被害者はもっ
て帰ることができるでしょうか?
科学研究費補助金基盤研究(B)によ
り作成した
全スタッフの訓練や調整
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
全スタッフとは?






医師
看護師
助産師
保健師
歯科医
メディカルソーシャル
ワーカー
 栄養士
•薬剤師
•理学療法士
•作業療法士
•臨床心理士
•看護助手
•事務職員
•保安要員
•清掃要員
など
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
他の機関との連携(施設内外)
施設内
各部署
各専門職
施設(病院)外
警察
配偶者暴力相談支援センター
福祉事務所
児童相談所
保健所
など
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
DVチーム(院外)
 警官
 弁護士
 司法関係者
・判事
・検察官
・保護監察官
•保護施設の職員
•コミュニティサービスの提
供者
•教師
その他
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
「保健医療関係者のための
ドメスティック・バイオレンス気づきと
介入の手引き」は
http://www.dvp-endabuse.com/
からダウンロードしてください。
科学研究費補助金基盤研究(B)によ
り作成した
保健医療関係者への影響(可能性)
援助者として
 被害者の援助が自分の思い通りに行かない無力感、自尊感
情の低下
 加害者よりの暴力
 自分自身がDV被害者やサバイバーによるフラッシュバック
や良くない対応
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した
ロールプレイをしてみましょう。
科学研究費補助金基盤研究(B)によ
り作成した
皆さん一人一人の理解と協力が
社会を変えていく。
暴力を受けても仕方ない人などいません。
また、どんな人にも
暴力をふるってもよい権利はありません。
科学研究費補助金基盤研究(B)によ
り作成した
ありがとうございます。
科学研究費補助金基盤研究(B)により作成した