一般(日常)診療現場におけるうつの診断と治療

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Transcript 一般(日常)診療現場におけるうつの診断と治療

一般(日常)診療現場におけ
る
うつの診断と治療
慶應義塾大学保健管理センター
大野裕教授
平成16年11月6日
鹿児島県地域医学研究会講演資料から
編集:鹿児島県川薩保健所
資料活用自由
Copyright Free
(大野教授のご了解を得ております)
1
厚労省と日本医師会の取り組み
ーキュアとケアー

厚労省:地域におけるうつ対策検討会



自治体向けマニュアル
地域医療従事者向けマニュアル
日本医師会

自殺予防マニュアル
*自殺予防に関しては医療モデルだけでは不十分
2
自殺率と社会環境
図1 本邦における性・年齢階級別自殺死亡率の年次推移(1950~1998)
大山、小泉:高齢者のうつと自殺、心療内科4:256-264, 2000
若年層:平坦化
壮年層:増加
高齢層:減少傾向、高率
3
精神障害等の労災補償の状況
400
精神障害等の労災補償状況
精神障害 請求件数
350
うち自殺(未遂を含む) 請求件数
精神障害 認定件数
300
うち自殺(未遂を含む) 認定件数
250
200
150
100
50
0
(
件
)
(平昭
合成和
計8 5
)年 8
度~
平
成
9
年
度
平
成
1
0
年
度
平
成
1
1
年
度
平
成
1
2
年
度
平
成
1
3
年
度
平
成
1
4
年
度
4
ICD-10診断による主要な精神障害の生涯有病率
生涯有病率
男性(
739名) 女性(
925名) 合計(
1664名)
%
人数
%
人数 %
人数
IC D -10診断(
診断コード)
気分(
感情)
障害
重症うつ病エピソード(F32.2-3)
2.2%
中等症うつ病エピソード(F32.1)
1.4%
軽症うつ病エピソード(F32.0)
1.1%
全てのうつ病エピソード(F32.x)
4.6%
そう病エピソード(F30.1-2)
0.1%
軽そう病(F30.0)
0.3%
気分変調症(F34.1)
1.5%
いずれかの気分(
感情)
障害
5.4%
神経症性・
ストレス性障害
パニック障害(F41.0)
1.4%
パニック障害をともなわない広場恐怖(F40.00) 0.9%
社会恐怖(F40.1)
2.7%
特定の恐怖症(F40.2)
4.9%
全般性不安障害(F41.1)
2.2%
外傷後ストレス障害(F43.1)
1.1%
いずれかの神経症性・
ストレス性障害
9.3%
精神作用物質による精神および行動上の障害
有害な使用-アルコール(F10.1)
3.8%
アルコール依存症(F10.2)
0.7%
有害な使用-薬物(F1x.1)
0.1%
薬物依存症(F1x.2)
0.1%
いずれかの精神作用物質による障害
4.5%
いずれかの精神障害
15.8%
16
10
8
34
1
2
11
40
2.9%
4.0%
2.8%
9.7%
0.6%
1.2%
2.2%
11.8%
10
7
20
36
16
8
69
2.1%
1.5%
2.1%
7.6% *
2.2%
1.9%
13.2% *
28
5
1
1
33
117
27
** 37
*
26
** 90
6
*
11
20
** 109
2.6%
2.8%
2.0%
7.5%
0.4%
0.8%
1.9%
9.0%
43
47
34
124
7
13
31
149
19
14
19
70
20
18
122
1.7%
1.3%
2.3%
6.4%
2.2%
1.6%
11.5%
29
21
39
106
36
26
191
1.0% **
9
0.1%
1
0.2%
2
0.1%
1
1.2% ** 11
20.8% * 192
2.2%
0.4%
0.2%
0.1%
2.6%
18.6%
37
6
3
2
44
5
309
ICD-10による診断別のこころの健康に関
する受診・相談行動の頻度
これまでの生涯*
受診率(%)受診者数
重症うつ病エピソード
(N=45)
精神科医
26.7%
12
相談先合計
37.8%
17
全てのうつ病エピソード
(N=124)
精神科医
16.9%
21
相談先合計
31.5%
39
いずれかの気分障害
(N=149)
精神科医
20.8%
31
相談先合計
35.6%
53
いずれかの神経症性・ストレス性障害
(N=191)
精神科医
16.8%
32
相談先合計
35.1%
67
精神作用物質による障害
(N=44)
精神科医
25.0%
11
相談先合計
34.1%
15
いずれかの精神障害
(N=309)
精神科医
15.5%
48
相談先合計
32.0%
99
過去12ヶ月間*
受診率(%)受診者数
(N=17)
11.8%
2
17.6%
3
(N=37)
5.4%
2
16.2%
6
(N=51)
11.8%
6
25.5%
13
(N=106)
6.6%
7
17.9%
19
(N=12)
16.7%
2
25.0%
3
(N=143)
6.3%
9
16.8%
24
6
こころの健康問題による受診の遅れの理由
受診しようと思って 4週間以上受診の必
から受診するまで4 要性を感じながら受
週間以上かかった者 診しなかった者(13
(29名)*
名、ただし質問cから
は6名のみ有効回
答)
質問
人数
割合
a
保険で治療が受けれないと思った
10%
b
問題はひとりでに改善するだろうと思っていた
62%
c
その問題は最初、それほど困らなかった
48%
d
自力で問題に対処したかった
76%
e
治療が、効果があるとは思わなかった
21%
f
以前に治療を受けたが、効果がなかった
14%
g
費用がどれくらいかかるか心配だった
17%
自分が治療を受けている事が知られたら、他人がど
24%
h
う思うか心配だった
交通手段、子供の世話、スケジュールなど治療にゆ
28%
I
くことに支障があった
どこに行けば良いか、誰に見てもらえば良いかわか
34%
j
らなかった
k
治療には時間がかかったり、不便だと思った
31%
l
予約が取れなかった
0%
m
意思に反して、病院に入れられるのが怖かった
0%
n
利用できるサービスに満足しなかった
3%
人数
割合
3
18
14
22
6
4
5
7
0%
54%
17%
33%
17%
0%
0%
20%
7
1
2
1
1
8
50%
3
10
50%
3
9
1
33%
0%
0%
0%
2
7-
身体疾患患者のうつ病有病率
身体疾患
がん
慢性疲労症候群
慢性疼痛
冠動脈疾患
クッシング症候群
痴呆
糖尿病
てんかん
血液透析
HIV感染
ハンチントン舞踏病
甲状腺機能亢進症
多発性硬化症
パーキンソン病
脳卒中
有病率(%)
20~38
17~46
21~32
16~19
67
11~40
24
55
6.5
30
41
31
6~57
28~51
27
8
Wise MG et al.:American Psychiatric Prex, Washington, DC, 2002
身体疾患に及ぼすうつ病の影響
患者さんの基礎疾患に対する治療意欲を低下し
ます。
基礎疾患の病態を悪化させます。
基礎疾患を遷延化させます。
基礎疾患の再発率が高くなります。
9
うつ病の身体症状
症状
睡眠障害
出現率(%)
82~100
疲労・倦怠感
54~92
食欲不振
53~94
頭痛・頭重感
48~89
性欲減退
61~78
便秘・下痢
42~76
体重減少
58~74
10
川上富美郎:Clin Neurosci 15(9):1020, 1997より改変
うつ病にみられる症状
患者さんは、自分の症状をうまく伝えられません。
は患者自ら訴えた%
うつ病の主要な症状
26%
睡眠障害
身
体
症
状
精
神
症
状
は医師が聞き出した%
94%
58%
疲労感・倦怠感
首・肩のコリ
22%
頭重・頭痛
23%
意欲・興味の減退
4%
仕事能力の低下
3%
抑うつ気分
3%
84%
66%
91%
85%
70%
不安・取り越し苦労 3%
0
89%
58%
20
40
60
80
100 %
11
プライマリケアのためのうつ病診断Q&A, 北原出版, 1997
うつ病は気づかれにくい



気持ちの問題:「情けない」
身体愁訴(仮面うつ病):「体が悪
い・・・」
行動障害:「性格が悪くなった」
12
うつ病の症状を教えてください
1)憂うつな気分
かなしい
涙が出る
いらいらする
2)興味・喜びの喪失
何をやっても楽しくない
興味がわかない
13
うつ病の症状はほかにもありますか?
●食欲の変化、体重の変化
●睡眠の障害(例:午前3時症候群)
●体が動きにくい、落ち着かない
●疲労感・気力がわかない
●頭が回らない
思考力・集中力・判断力・記憶力の低下
●自分を責める(無価値感・罪責感)
●死について繰り返し考える
14
精神科ではどのような治療をされる
のでしょうか?
1)環境調整:ストレスを減らす
2)体に働きかける:薬の治療
3)気持を整理する:カウンセリング
15
症状がそろえば、うつ病と診断される
のですか?
症状の重さ:辛い、できない
持続期間:2週間以上
16
病気と単なる落ち込みとはどう区別
するのですか?
はっきりと区別はできません。
熱や痛みのようなものだと
思ってください。
17
うつ病と躁うつ病(双極性障害)は同じ
ものですか?
症状も治療法も違います
18
急に不安になったり、細かいことが気
になったりするのもうつ病ですか?
●これは「不安障害」という
別の精神疾患です。
●うつ病と合併することもよくあります。
19
周囲の気づきのポイント
いつもとは違う




仕事上の問題:ミス、能率の低下など
勤務態度の問題:ポカ休、頻回の休み、遅刻、な
ど
対人関係の問題:孤立、口数の減少、いらだち、
など
原因不明の体調不良:頭痛、腰痛、下痢・便秘、
など
20
患者への声かけ

高知県中村市の内科医、小笠原望さんは、うつ病の
治療を始めるときに次のようなことを本人に話され
るそうです。臨床の中から出てきたとても魅力的な
言葉です。皆さんも日常の活動のなかで工夫してみ
てください。
 肩の力を抜いて、そんなに頑張らない。
 理屈の世界から、少しいい加減な心に。
 人に頼ろう、人に頼もう。
 無駄遣いをせず、エネルギーを貯めよう。
 食べて、寝て、できるだけさぼろう。
 自分のしてきたことを認めよう。
 どんなに辛くても舞台は回る。
(厚生労働省:うつ対応マニュアル-保健医療従事者のために-)
21
大うつ病(軽症・中等症)の薬物療法アルゴリズム
(日本版)
大うつ病性障害
軽症・中等症(DSM-Ⅳ)
1
SSRI/SNRI ± ベンゾジアゼピン
2~4週継続
2
3
有効
増量
やや有効へ
有効
継続療法
無効
2~4週継続
寬解
継続療法
4
5
やや有効
やや有効
無効
やや有効へ
やや有効へ
抗うつ効果増強
(リチウム)
有効
寬解
継続療法
他の抗うつ薬への変更
(TCA/non-TCA/SSRI/SNRI)
22
精神科薬物療法研究会:気分障害の薬物治療アルゴリズム2003:じほう
薬物療法 3
薬剤により特徴も異なります
《うつ病治療に用いる薬剤》
SSRI
SNRI
フルボキサミン
パロキセチン
(デプロメール、
ルボックス)
(パキシル)
不安や焦燥の強い
うつ状態に効果
主な副作用
まれに不眠
→朝食後の1回投与
嘔気、嘔吐
うつ以外の適応
強迫性障害

主な副作用
嘔気、嘔吐
→制吐剤を併用
ミルナシプラン
スルピリド
(ドグマチール)
(トレドミン)
セロトニンおよびノル
アドレナリンの再取
り込みを阻害
意欲低下が著しい
うつ病に対する効果
軽症うつ病
ドーパミン(D2)受容体
阻害作用(高用量は統
合失調症に使用)
世界的に最も使用
食欲低下が強い抑うつ
状態に効果
うつ以外の適応
パニック障害
長期投与でアカシジア、
錐体外路系副作用
23
中村 純:
精神科の薬をのむと
人間が変わってしまうのではないか
と心配なのですが・・・
精神科の薬は、脳の神経の働きを調
整するだけですから、心配ありません。
薬の副作用はありますが、飲まない
ことの方がもっと心配です。
24
薬 (抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬、睡眠薬など)
「なれ、くせ、ボケ」は?
心に薬?
情けない?
図のみ引用出典:UTU-NET(うつネット)
http://www.utu-net.com
25
薬を飲むより、酒でも飲んで気を晴ら
した方が良いと友達から言われました。
アルコールはかえって
うつをひどくします。
睡眠を浅くします
依存の危険があります
糖尿病などの他の身体疾患へつながります
事故の危険性が高くなります
健忘などの脳障害がおきることさえあります
26
薬は、辛いときだけ飲むので良いで
しょうか?
きちんと飲み続けてください
良くなってからも「予防的に」
半年から1年は飲んでください
医師の指示を守りましょう
27
うつ病は治る病気です
完全に症状がなくなる 2/3
 ただし、再発率が高い
↓
服薬継続の必要性(=高血圧、高脂血症)

28
「早く薬をやめたい」
再発率が高いうつ病



1回発症した後の再発率
2回のエピソード
0%
3回のエピソード
0%
60%
7
9
29
生涯にわたる薬物療法が必要な場合
1)うつ病エピソードが3回以上
2)うつ病エピソードが2回で
a)家族歴
双極性障害
反復性大うつ病性障害
c)20歳以前の発病
d) 1年以内の再発
効果のあった薬物療法の中止後
e)過去3年以内の重篤な抑うつエピソード
(NIMH/NIH Consensus Development Conference Statement. Am J Psychiatry 1985)
参考資料:慶應義塾大学大野裕教授
30
服薬遵守性 に影響する因子
1)うつ病に特徴的な症状:無力感、悲観的な
思考:「何をやってもムダだ」
2)薬物療法の効果の発現の遅れ:「やっぱり
薬なんか効かないんだ」
3)薬物の副作用:「大変だ、身も心もボロボ
ロになってしまう」
4)精神疾患に対する偏見:「情けない人間だ、
他の人もダメな人間だと思うだろう」
5)患者のパーソナリティ:「細かいことを気
にしてもしようがない」
(参考資料:WPA/WHO Educational Program on Depressive
Disorder)
31
向精神薬を服用するときの注意
1)効果と副作用について理解する;口渇、便秘、
排尿困難、胃腸症状
2)効果が出るまでには時間がかかる
3)必要なときにはしっかりと服用する
中途半端な服用ではかえって慢性化する
症状が良くなったからといって薬をやめ
ない
高血圧の治療と同じように考える
うつ病は再発しやすいが、服用を続けて
いると
再発率は大きく減少する
32
副作用の心配はないのでしょうか?
心配な副作用はあまりありません
心配なときには医師に相談してください
33
三環系抗うつ薬の副作用

抗コリン作用


眠気、倦怠感、体重増加
抗α1作用


口渇、動悸、便秘、排尿困難、
目のかすみ、記憶の障害、眠
気
抗ヒスタミン作用


トフラニール、トリプタノール等
めまい、起立性低血圧、眠気
心臓伝導系障害(不整脈)
参考資料:慶應義塾大学大野裕教授
34
SSRIに特徴的な副作用
Serotonin selective reuptake inhibitor

胃腸症状




嘔気、下痢
「胃がやられた」
性機能障害

パキシル・ルボックス等
「恥ずかしい・・・」
SSRI
SRI
副作用の少ない薬剤

大量・授乳中の服薬に
よる副作用少ない報告
参考資料:慶應義塾大学大野裕教授
35
抗うつ薬の副作用への対応
便秘
口渇
眠気
下剤
水分や繊維質の摂取
運動
うがい
去痰薬
日中の薬を減量
眠気が出る薬は夕食後にまとめて服用
昇圧剤
めまい
立ちくらみ
排尿障害
治療薬
吐き気
制吐剤
健胃消化剤
(日本外来臨床精神医学会)
36
うつ病の治療経過
出典:UTU-NET(うつネット)http://www.utunet.com
うつ病は直線的に改善するわけではなく、「よくなったり、悪くなったり」を繰り返しながら、徐々によく
なっていく病気です。あせらず、気長に治療に取り組むことも大切です。
37
よくなったというのはどのように判断
するのでしょう?
気持が楽になるというのが
一番大事です。
38
家族への助言
1)「何とかしてあげたい」「何とかならないのか」
→励まさない、患者のペース(主観的体験)を大切
に
2)「気のせいじゃないか」「遺伝は・・・」
→誤解を解く
気のせいではない、遺伝病ではない
3)「変なことを言うと傷つけるんじゃないか」
→必要以上に気を遣いすぎない→いつも通りに
4)「早く楽にしてあげたい」
→結論を急がず、問題解決の方向で話し合う
5)「薬に頼るなんて・・・」
→薬を上手に利用するように
39
専門医を受診した方が良いのですか?
最初は専門医にこだわることは
ありません。
かかりつけの医師など、
相談しやすい人に相談してください。
40
41
中村 純:
多くのうつ病の潜在患者が存在します
精神科以外の医師も、うつ病を診断し治療していく必要があります
《うつ病患者の現状と かかりつけ医の役割》
うつ状態は、身体疾患で入院している患者や一般外来患者にも多くみられる。
慢性疾患の患者、高齢者の繰り返し訴える症状、慢性疼痛を訴える患者にも
うつ病患者が潜在する可能性がある。
基礎となる身体疾患がなく、うつ病の治療のために内科、婦人科、皮膚科など
を受診している。
精神科を初診時から受診する人はわずか10数%程度に過ぎない。
精神科以外の医師 ⇒うつ病を診断し、治療していく必要がある。
⇒精神疾患の早期発見の技術を身につけることが重要。
⇒適切な専門医への紹介のタイミングを見極める。
プライマリケア医に求められる役割
身体疾患で病んでいる患者に対して、身体症状だけにとらわれず、
精神を含むからだ全体を診るように心がけ、また看護師などを含む
チーム治療を通した包括的医療を進めていくことが求められている。
42
中村 純:
精神科医と一般診療科の医師との連携が重要です
これからのうつ病治療にはチーム医療が求められています
精神科への偏見が、患者やその家族だけでなく、医療従事者にもある。
精神科医と他科の医師とが連携することが必要。
連携の方法
精神科外来へ紹介。
精神科医が他科を往診。
精神科医が他科の病棟に常勤する。
精神科医が一般診療科へ関与する場合
精神症状の程度、病棟の状況、家族・主治医・看護者との人間関係も含め
総合的な把握が必要。
精神科医が他科との連携を行う場合
他科の医師の依頼内容を吟味し、直ちに課題を解決する必要があり、
高度な精神医学の知識と技術が要求される。
精神科医は相当期間の臨床経験が必要。
うつ病の診断や治療を行う場合には
医師だけでなく、看護師を含めた医療チームによって行うことが重要
43
中村 純:
専門医へ紹介したほうがよい場合 1
《専門医へ紹介した方がよい場合》
(1)診断に苦慮する場合
幻聴などの異常体験の訴えのある人
見当識障害を有し痴呆との鑑別が必要な症例
鑑別が困難な場合
脳梗塞、アルツハイマー型痴呆、パーキンソン病などの脳器質性疾患うつ病が
痴呆症状を呈する仮性痴呆
他の精神疾患との合併の可能性
統合失調症、境界性人格障害、不安神経症(パニック障害)、強迫性障害、
甲状腺機能低下症、インターフェロン投与後などの症状性精神病など
(2)SSRI、SNRI、スルピリドを投与しても症状が改善しない場合
SSRI、SNRI、スルピリド(スルピリドの場合は 150mg以下)などを4~8週間、
最高用量まで増量して経過をみても、症状が改善しない場合
(多くの抗うつ薬の反応率はおよそ6割とされている)
44
中村 純:
専門医へ紹介したほうがよい場合 2
《専門医へ紹介した方がよい場合》
(3)うつ状態が重症な場合
うつ状態そのものが重症である場合
特に幻想、妄想など精神病を伴ったうつ病
心気妄想 :本当は癌ではないのに癌だと思い込んでいる。
罪業妄想 :今の状態は自分が過去起こした過ちのために起こっている。
貧困妄想 :経済的な問題などないのに、財産が無くなったと考える。
(4)産後うつ病
子供への影響を考慮して、早期に精神科へ紹介する。
夫や家族など、本人をとりまく周囲にうつ病に対する理解が必要。
45
中村 純:
専門医へ紹介したほうがよい場合 3
《専門医へ紹介した方がよい場合》
(5)躁状態
〔躁病エピソード(DSM-Ⅳ):1週間以上の多弁、多動などの活動性が高まった状態〕
うつ状態に比べて、対人関係の障害を直接的にもたらす可能性がある
炭酸リチウム、バルブロ酸などの気分安定薬を投与するには専門医の関与が必要
(6)自殺念慮が強い場合
死について繰り返し訴えるようなうつ病の人
実際に自殺企図がある
自殺企図を起こす他の疾患との鑑別
⇒境界性人格障害、アルコール依存症、統合失調症など
高齢者で心気的な訴えや焦燥感の強い患者
46
中村 純:
精神科に行くことを勧めにくいのですが、
どのように話せばいいのでしょう?
薬の相談など、相談することを
具体的に挙げてお話してみてください。
47
精神科医への紹介にあたって重要なこと
●患者が見捨てられたという感覚を持たないように注意
●問題を具体的に取り上げながら、
その問題を専門家に相談してみることを勧める
●問題が解決した後に患者の希望がある場合には、
再度治療を引き受けることを伝える
●それでも患者が精神科受診を頑なに拒否するなら、
病状を家族に説明して受診を説得してもらうことも考える
48