β線 - 東北大学 大学院理学研究科 物理学専攻 素粒子・核物理講座

Download Report

Transcript β線 - 東北大学 大学院理学研究科 物理学専攻 素粒子・核物理講座

サマーチャレンジ 演習課題1
ワイヤー一本でX線や素粒子を検出しよう
~ワイヤーチェンバーを手作りして素粒子・原子核実験を体験~
東北大学 理学研究科
物理学専攻 原子核物理
指導教官
田村裕和
三輪浩司
Teaching Assistant
三森雅弘
大谷友和
Technical Assistant
千賀信幸
後藤英晃 (宮崎大)
三宅芙沙 (名古屋大)
徳永香
斉藤光
(神戸大)
(名古屋大)
八木一也 (島根大)
増山雄太 (明治大)
小村真由 (奈良女子大)
岡山聖
濱名洋介 (富山大)
(立教大)
●はじめに・・・

本演習では
・比例計数管の製作
・整流回路の製作
・放射線の測定
①X線の観測
②β線の観測
③宇宙線の観測
・観測データの解析
●実験装置
作成した比例計数管で
放射線を検出する
Pre
比例計数管から
の電流を増倍する
Amp
作成した回路
信号を整形し
PreAmpからの電流
をさらに増倍する
MCA
オシロスコープ
●比例計数管●
●比例計数管の原理
比例計数管は荷電粒子を検出するもの
クーロン相互作用によって
Arの電子が電離される
q
e
Ar
q
e
Ar
e
Ar
Ar
e
Ar
e
e
Ar
e
Ar

Ar
e e
e
Ar
e e
e
e e e e
Ar
e

Ar
Ar
●比例計数管●
500mV
50mV
1μ
秒
400μ秒
500mV
●比例計数管●
● X線観測の概要
55Feからの5.9[keV]‐X線を用いた。
ワイヤーチェンバーに1.5[kV]をかけた状態でX線源をX線入射窓にあて、
整形増幅回路をMCAに出力した。
アナログ信号をMCAでデジタル信号変換した。
波高分布のデータをガウス分布でフィッティングし、ピークの高さ、
ピーク値、幅σの近似値を求めた。
●X線●
●光電効果について
X線と、物質中の電子との間に働く電磁相互作用には、
・光電効果
・コンプトン散乱
・電子対生成
がある。
光電効果とはX線が全エネルギーを
束縛電子に与え、光電子を放出する反応
グラフより吸収係数を読み取り
計算すると、64%のX線が反応する.
エネルギーと物質の質量吸収係数との関係
●X線●
● X線を放出する仕組み
55Feは2.7年の半減期で55Mnの基底状態へ電子捕獲で崩壊する。
入射窓からX線を入射するのはチェンバー
のアルミは厚いのでX線が入射できないためである.
<電子捕獲とは>
崩壊様式は
AZ+e-
→A(Z-1)+νe
原子核中の陽子が崩壊後、孔のあいたK殻へ上の電子軌道から電子が脱
励起し、特性X線(5.9[keV])が放射される。
●X線●
● 実験結果 データ解析
大きなピークは5.9keVのX線のエネルギーであり、
小さい方は2次X線が検出器から逃げた場合の
エスケープピークである.(Arの特性X線エネルギー:2.96keVなので、
ピークのエネルギー値2.94keV)
オシロスコープでの信号
エネルギー間隔
2.96keV
メインピーク
エスケープピーク
●X線●
●データ解析
エネルギー損失は、多数回の散乱により起こる
平均値のまわりに有限の幅を持った分布(ガウス分布)でフィッティング
f(x)=a exp(-(x-b)2/2c2)
エネルギー校正
グラフの横軸のチャンネル値と、エネル
ギー値を対応させた。(フィッティング
のデータとX線のエネルギー値より)
●X線●
その結果
y=0.0193x-0.359
(y:エネルギー[keV]、x: ADCでのチャン
ネル)
σ=0.41keV
σ/E=0.070
エネルギー分解能
σ/E
一次電子イオン対の数のゆらぎ
一次電子対の平均的な数
その揺らぎ
5.9keV/26eV=227
√227 = 15
√N/N=1/√N = 0.066
●X線●
●β崩壊の反応
A
Z  ( Z+1)+ e + e
A

(n  p+e+ e )
Z:原子番号
e-:電子
:反ニュートリノ
e
Z
ν
e
e
Z+1
このe-の運動エネルギーは連続的に分布する。
●β線●
●β崩壊の遷移
今回の実験では
90
Sr を使用した。 その
90
Sr が β-崩壊をする。
そのエネルギー分布は遷移の場合には
dN / dEe  F(z, Ee ) pe Ee (Q  Ee )2
で与えられる。
それをグラフにあらわすと・・・
●β線●
●β線のエネルギー分布
2.28MeV
というグラフで表される。
 / 1  2
運動エネル
ギー(MeV)
速度β
0.5
0.87
1.76
グラフより、今回用いるSrのβ線の
1.0
0.93
2.53
最大エネルギーは2.28MeVであり、
1.31
0.96
3.4
およそ1.0MeV付近のβ線が多い。
1.5
0.975
4.39
2.0
0.98
4.92
(=v/c)
●β線●
●Bethe-Blochの式
物質(原子番号Z, 原子量A, 密度)中でのβ線(電子)の
単位厚さあたりのエネルギー損失 dE/dxは
である。


同じ物質内でのエネルギー損失は、 β線
(電子)の速さ()と電荷(z)のみで決まる。
粒子の種類にはよらない。
=3.4付近でエネルギー損失の最小値を
とる。最小電離と呼ぶ。
相対論的増加
最小電離
●β線●
●β線による電離
●β線(電子)が比例係数管内で失うエネルギーの平均値=6.7keV
β線はほぼ全てが比例計数管を貫通する。
●X線との違い
X線による電離は光電効果により1点で起こる。
しかし・・・
β線による電離はβ線の軌道上すべてで起こる ! !
●β線●
●比例計数管の断面図
β線源(Sr)
-
コリメーター
比例計数管断面
常に直径部分をβ線が通過する
●β線●
●オシロスコープによるβ線測定結果
連続分布をしている!
●β線●
●β線のMCAによるエネルギー測定結果
●β線●
●Energy Straggling

Bethe-Blochの式は、粒子のエネルギー損失の平均値を示す。
実際には

エネルギー損失は物質中の電子との多数回の散乱によって引き起こされる。
 確率過程である。
物質が十分厚い(衝突回数が多い)とき
電離損失の変動は、Bethe-Blochの式が
与える値を中心値にガウス分布をする。
しかし、衝突回数が少ないとき
電離損失の分布は大きくエネルギーを
失う確率が多いほうに広がり
最頻値はBethe-Blochの値より小さくなる。
それをLandau分布と呼ぶ。
●β線●
● Landau分布についての考察
多くのβ線(電子)は電子とクーロン力により相互作用を起こす。
しかし、ごくまれに核反応やラザフォード散乱のような反応を起こす。
核反応やラザフォード散乱の反応は高エネルギーを発生させる。
したがって、今回の実験のアルゴン気体中のような
比較的少ない回数しか相互作用を起こさない場合は
高エネルギー反応の影響が大きいのでグラフは右に長くなる。
●β線●
●β線のMCAによるエネルギー測定結果
 ( x  b) / c  exp ( x  b) / 2
 ( x)  a・ exp

2


5.79kev
(KeV)
●β線●
●宇宙線測定
→宇宙線とは・・・
地球上に1~2/100(c㎡/sec)の強度で降り注いでいる。
地球に入射する非常に高いエネルギーの粒子と、
2次線(大気中で作られる)をあわせたものを宇宙線という。
P
プロトン
陽子と大気圏中の物質がぶつかり陽子と中性
子とπ中間子が生まれる。
P
P
n

π中間子
中性子
●宇宙線●
●宇宙線測定
→宇宙線とは・・・
地球上に1~2/100(c㎡/sec)の強度で降り注いでいる。
地球に入射する非常に高いエネルギーの粒子と、
2次線(大気中で作られる)をあわせたものを宇宙線という。
時間が経つとπ中間子が崩壊してニュートリノνとμ粒子が生成する。
ν


π中間子
ニュートリノ


ミュー粒子
●宇宙線●
●実験:同時計測
→回路図
同時計測観測用の回路図
●宇宙線●
●実験:同時計測
→比例計数管のセットアップ
90度
60度
30度
0度
●宇宙線●
●実験:同時計測
→同時計測方法
←入力信号
←比例計数管1
約4(V)
←比例計数管2
約2.5(V)
←比例計数管3
約2(V)
●宇宙線●
●結果と解析
←1回目
←平均値
2回目→
cos2  に誤差を考慮した平均値が収まっている
●宇宙線●
●
summary

各自、比例計数管と整形回路の製作をし、X線・β線・宇宙線を観測した。
どの検出器もすべて正しく動作した。
⇒わかったこと

X線の実験とβ線の実験では
光と荷電粒子の相互作用の働き方の違いを理解することができた。
また、X線の実験では副ピークから分かる通り、光電効果による
2次的X線も観測する事ができた。
β線の実験では電離損失の分布がLandau分布となる事が観測できた。

宇宙線の測定では
μ粒子の天頂角分布が
cos2 
で表されることが実験結果から明らかとなった。
●summary●
ご静聴 ありがとうございました。

完
補足
●Bethe-Blochの式

物質(原子番号Z, 原子量A, 密度)中での
β線(電子)のエネルギー損失 dE/dx(単
位厚さあたりのエネルギー損失)

同じ物質内でのエネルギー損失は、 β線
(電子)の速さ()と電荷(z)のみで決まる。
粒子の種類にはよらない。



<1の領域ではdE/dxz2/2と近似できる。
相対論的増加
~3.4付近でエネルギー損失の最小値をと
る。最小電離(Minimum Ionization)と呼ぶ。
>3の領域では非常に緩やかに増加する。
これを相対論的増加といい、lnの中の項の
寄与である。
最小電離
+
-
- +
- +
-
●β線●
●β崩壊の仕組み
A
Z A ( Z+1)+ e+ e
このe-の運動エネルギーは連続的に分布する。
エネルギー分布は許容遷移の場合には
dN / dEe  F(z, Ee ) pe Ee (Q  Ee )2
で与えられる。
今回は90 Srを使用した。 90 Srは、まず90Yに28.8年の半減期でβ-崩壊する。
90Yは64時間の半減期でβ-崩壊し、99.99%の分岐比で90Zrの基底状態に崩壊する。
この時、最大エネルギー2.28Mevのβ線が放出される。
●β線●
吸収係数
I個のX線が厚さdx[cm]の層を通過したときに失われる数は、
dI=-μIdx
I=Io e-μx
今回の比例計数管で計算すると、
I/Io=0.3625
64%のX線が反応したことがわかる
また、 X線入射窓から、X線を入射した理由として、
●X線●
光電効果は、主にK殻に対しておきる。これは、X線のエネルギーとK殻の電子
の束縛エネルギーがほぼ等しいためである。
電子が抜けた原子は、2次X線を放出し、このX線がさらにほかの原子を電離
させるため、最終的に検出器に与えられる全エネルギーは、入射X線のエ
ネルギーとなる。
●X線●
質問に対する対策①
ミュー粒子以外の地表に降り注いでいる粒子について
宇宙から大気にくる粒子と大気の原子核の反応
陽子と陽子
陽子と中性子
中性子と中性子
pp  pp 0
pn  pp 
nn  pn 
 pn
 nn 0
 pn 
0
    
π中間子の崩壊
:
    
 0  2
質問に対する対策②
宇宙から大気にふりそそいでいる原子核の種類について
宇宙線の起源は超新星の爆発によるものである。そのとき飛
び散った陽子とか中性子が結合してHe、Cになるが水素原子
が最も単純な構造であるからである。宇宙空間にはH > He >
C > Feである。Feは原子核が安定しやすい。
中間子の寿命について
  : 108 [s]
  : 108 [s]
 0 : 1017[s]
質問に対する対策③
なぜAr-CH4ガスを使った理由について
希ガス以外のガスを使うと自由度が希ガスよりも高いために
電離エネルギーが希ガスを用いるよりも高くなるからである。
電離エネルギー以外にエネルギーを消費すると正しくミュー粒
子のエネルギーが測れないからである。
CH4はクエンチガスであり電子雪崩では電子により気体分子が
励起され脱励起時に紫外線が放出される。紫外光はガス原
始や陰極から光電効果によって光電子を放出することが可能
で、その電子は陽極に移動してガス増幅を繰り返す。この効
果を避けるために、紫外光を吸収するCH4を用いた。