フォトダイナミックアイ(PDE)を用いた乳房センチネル生検

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Transcript フォトダイナミックアイ(PDE)を用いた乳房センチネル生検

石切生喜病院乳腺頭頸部外科
森本 健
 臓器のリンパ液は全身に戻る前にそばのリ
ンパ節に取り込まれると考えられています。
それをセンチネルリンパ節と呼びます。
 腕であればわきのした(腋窩) ,下肢で
あれば太ももの付け根(鼠径部)のリンパ
節がそれに相当します。
 以前は乳腺炎や乳癌で乳房近傍のリンパ節
が単独腫大することはなく,乳房にセンチ
ネルリンパ節はなく,リンパ液はわきのし
た(腋窩)の複数個のリンパ節に無秩序に
向かうのではないかと考えられていました。
図1.左
 ところが,最近の研究で乳房に近い一つの
リンパ節(センチネルリンパ節)を介して
上流へ順次,流れていることが分かってき
ました。図1右
旧来の考え方
センチネルリンパ節の考え方
 乳房に近い一つのリンパ節といっても切除
するには外科医が目で見て確認する必要が
あります。わきのした(腋窩)にはたくさ
んのリンパ節があり,単に乳房との距離が
近いからといってセンチネルリンパ節かど
うかは分かりません。皮下深部にあるリン
パ節を探すためにいくつかの方法が考案さ
れました。
研究は乳癌の患者さんで始められました。放射性
物質を乳房腫瘤近傍に注射し,リンパ節の取り込
み状況を観察します。
 放射線を術中に見るのは難しいのでシンチカメラ
(放射線を見る大型の機械)で,術前にセンチネ
ルリンパ節の部位を確認します。術中はガンマ検
出器で放射線源の方向に向かって進み,目でリン
パ節を確認します。摘出したリンパ節と摘出部位
の放射能を測定し,センチネルかどうかを確認し
ます。
 放射性物質には執刀医のみならず,病理検査技師,
看護婦など取り扱うヒトを放射線被曝させるため
普及に限界があります。

 他の検査で使用されている青や緑色の色素を
乳房に注射します。
 乳房に注射した色素はセンチネルリンパ節に
向かうリンパ管(輸入管)内を流れるのでこ
れを追いかけてセンチネルリンパ節を探しま
す。当初は腋窩の染色リンパ節を探していま
したが,輸入管を見つけ,追究することで普
及しました。
 放射性物質を用いる医師も目で見える色素を
併用(2-チャンネル法などといわれます)し
て,リンパ節を確認するようです。
赤外線の生体組織透過性を利用して皮膚を切るこ
となく皮下の赤外線源を観察できます。小型のP
DEカメラが開発され術中にも使用できる様にな
りました。石切生喜病院ではこれを導入しました。
 まず,インドシアニングリーン(ICG)という色素
を乳房内に注入します。輸入リンパ管内に入った
ICG色素にPDEから赤外線(励起光)を当てて
赤外蛍光を観察します。皮膚の上から輸入リンパ
管を確認できるので小範囲の皮膚切開でリンパ管
に到達できます。皮膚切開後は皮下の染色リンパ
管を確認して赤外線の到達できない深部へは染色
されたセンチネルリンパ節まで追究します。

 研究開始当初にセンチネルリンパ節切除後に
通常に腋窩郭清を行ってセンチネルと通常腋
窩のリンパ節との転移,非転移を比較しまし
た。その結果95%で一致することが示されて
います。
 乳癌の7割にはリンパ節転移がありません。
旧来の方法で乳癌の手術を行った場合,7割
が無用の処置となります。
 センチネルリンパ節に転移がなければ他の腋
窩リンパ節転移がなく,通常の郭清を省略で
きるのです。
 乳癌は乳房だけでなく様々な部位に転移し,
癌の宿主を殺してしまう厄介な病気です。中
にはわきのした(腋窩といいます)に転移し
ているものがあります。以前は乳房切除とと
もに転移のあるなしにかかわらず徹底的にと
る(郭清といいます)ことが推奨されました。
しかし,腋窩郭清をしても命を延ばすことに
はなっていません。
 すなわち,リンパ節郭清には腋窩に再発した
場合の弊害予防と全身転移量の推定の二つの
意味があることになります。
 ヒトの体液は淀むことのないように常に流
れて混ざっています。血液は血管内を急速
に流れます。血管外をゆっくり流れるのが
リンパ液です。リンパ管に入って,リンパ
節で濾過されて,最終的に静脈に戻ります。
腋窩リンパ節は乳房からだけでなく,腕からのリ
ンパ液の流れを受けています。郭清されますと,
1. リンパ液の漏出(術直後に多い)
2. 上肢の浮腫(5%では著明)
3. 上肢挙上障害
4. リンパ管炎(手荒れ,虫さされ,擦り傷,やけ
ど,日焼け,注射などから発生します。これら
を避ける様努力する必要があります。)
5. 腫瘍の発生(極めてまれですが,リンパ管肉腫
が起きます。命にかかわります。)
などの弊害が起きますが,いずれも日常生活に支障
を来すとても厄介なものです。

延命効果がないとのことで腋窩郭清をしない場合があります。
潜在していたリンパ節の再発が起きたときに弊害が現れます。
1.
追加郭清の遅れ:経過観察で再発の診断が難しい時に起き
ます。以下2,3,4の状況に進行します。
2.
腕神経叢麻痺:腕が麻痺して痛みを伴います。日常生活に
著しい支障を来します。
3.
上腕浮腫:リンパ管の閉塞だけでなく,静脈の閉塞も起き
る様で,壊疽から敗血症を起こすことがあります。
4.
上腕挙上障害:麻痺はなくて腕が動かなくなることがあり
ます。
基本的に腋窩再発は全身転移の一部と考えねばなりません。他
の臓器組織再発の状況を考慮し,生存期間中の弊害を最小限に
する様,治療法を考える必要があります。
