メンタルレキシコン (1)

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Transcript メンタルレキシコン (1)

メンタルレキシコン
今井むつみ
慶應大学環境情報学部
2015/7/20
ことば同士の結びつ
き
今井むつみ
慶應大学環境情報学部
2015/7/20
ことば同士の結びつき
二つのアプローチ


(1)ことばは限られた数の普遍的な意味原素から
成り立つ。似ていることば同士は共通の意味原素を
持つ(古典的意味論と非常に似た考え方)→意味原
素論(Decompositionist Theory)
(2)ことばはそれぞれをひとつの単位と考える。こと
ばは複数の種類の結びつき方で結びついており、メ
ンタルレキシコンは蜘蛛の巣のような意味ネット
ワークの構造をしている
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2015/7/20
意味原素論(1)

何が普遍的な意味原素なのか?
シャンク
 Physical
 Mental
acts MOVE, INGEST, GRASP
CONC, MTRANS, ATRANS
breath, drink, eat, inhale, sniff
→INGESTを共通に持つ
buy,sell,give, take, steal
→ATRANSを共通に持つ
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意味原素論(2)
~意味原素論の問題点~
「原素」がいくつなのか、一体何が原素なの
かについて心理学的な根拠が希薄
 このアプローチは主に限られた動詞のセット
を扱う
他の種類のことばでの適用は難しい
例 空間関係を表す語は?

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意味原素論まとめ
この考え方は辞書の記述(特にコンピュータ
上での)に非常に便利。意味分析において必
須。経済性の面からも望ましい。
 しかし、古典的意味論と同様、普遍的原素が
何かを特定することが非常に困難で、提唱さ
れた原素もその心的根拠はほとんどない。

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意味ネットワーク

メンタルレキシコンの地図をつくれるか
語の連想
 蝶 (butterfly)
 空腹な (hungry)
 赤 (red)
 塩 (salt)
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メンタルレキシコンの地図をつくれるか(1)
連想されやすい語

Co-ordination (同種の仲間)
 塩→こしょう、蝶→蛾、赤→白、青etc.

Collocation (共起しやすい語)
 塩→水、蝶→網
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メンタルレキシコンの地図をつくれるか
(2)

Super-ordination (上位概念)
 赤→色、蝶→昆虫

Synonymy (同義語)
 パーティー
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→宴会
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Co-ordination のリンクがある証拠

人の言い間違い
 右→左、昨日→明日、青→緑、兄→妹

似た語を一緒くたにしてしまうこともある
I
went to Noshville (Nashvill + Knoxville).
 I’d like some taquua (tequila + Kahlua).
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Co-ordinationのリンクの証拠か
ら示唆されること(1)
Co-ordinate の関係のリンクは非常に強い
言い間違いに見られる Co-ordinates の種類

 対比
りんごーなし、赤ー黒、月曜ー火曜
 反対
上ー下、太っているーやせている、男ー女
 いとこ関係
土曜日ー1月(曜日名ー月名)
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Collocational link の証拠
star: stardust, starfish, starwars
 失語症→ collocational link は良く保たれて
いることが多い

 bread
→ butter
 adolescent → rude

イディオム→それ自体がひとつのまとまりとし
て処理される
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Super-ordination ~階層関係のリンク~
カテゴリーの多く→階層関係
 コリンズとキリアン

 ‘A canary
is a canary.’
 ‘A canary is a bird.’
 A canary is an animal.’
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Super-ordination(2)~階層関係のリンク
~
コリンズとキリアンに対して
(1)頻度の問題→カナリアは動物より鳥といっ
しょに使われることが多い
(2)「動物」は2つの使われ方をする

 生き物全般
 哺乳類あるいは4つ足の動物
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Super-ordination(3)~階層関係のリンク
~
 ‘A poodle
is an animal.’
 ‘A dog is an animal.’
→ verification の時間に差がない
 階層的な関係→同列の関係 (Coordination) ほど強い結びつきではない
 階層的な結びつき→すべてのカテゴリーに
同質にあるものではない
→ Wisniewski, Imai & Casey (1996)
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Super-ordination(4)~階層関係のリンク
~
Wisniewski, Imai & Casey (1996) の実験
 上位概念には2種類ある
 階層関係によって結ばれている概念
(動物、乗り物、植物など)
 テーマ、空間的な共起関係によってまとまってい
る概念
(家具、キャンプ用品など)
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同義語 (Synonym)

非常に意味が近い(ほとんどの状況で交換可
能)同義語については blending の言い間違
いが起こる
 That’s

torrible. (terrible, horrible)
少し意味が違うと起こりにくい
/ pursue → blending は起こらない
pursue →望ましいものを追いかける
知識、知恵、名声
chase →馬、犬、犯人
 chase
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ことばの品詞と意味ネットワーク

ことばは意味ネットワークでは品詞(part of
speech:動詞、名詞、形容詞など)ごとに分類
されているのだろうか?
 品詞の境界を超えた言い間違いはほとんどみら
れない
 動詞、名詞、形容詞は言語普遍的なカテゴリー
 文法クラスと意味カテゴリーは密接な関係
2015/7/20
ことばの品詞と意味ネットワーク
(2)
メンタルレキシコンではそれぞれのことばは
品詞のタグづけがされ、ことばの文法的役割
と意味はいっしょに表象されている
→‘lema’
 メンタルレキシコン内のことば同士のネット
ワーク構造の形は品詞によって異なる
(ワードネットプロジェクト)
 http://wordnet.princeton.edu/

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名詞クラスの構造

一般的な関係
 階層関係
 基礎レベル内のco-ordinatesの関係が特に重要
 部分全体関係(meronomy)
 それぞれのエントリー(名詞)は「属性」を持つ
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動詞クラスの構造
多くの動詞は名詞のように上位、下位に関係
づけられる
 下のレベルにある動詞
→一般的に上のレベルのアクションの特定の
仕方を表す
 ワードネットではこの関係を名詞の階層構造
と区別してTroponymyと呼ぶ

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形容詞クラスの構造

二つのタイプ
 ascriptive
(名詞の属性;一般的に1次元上で対
概念があり、相対的な性質)
heavy vs. light, high vs. short, soft vs. hard
 pertainyms (名詞に付属する、あるいは関連する
分野、場所などを表し名詞を限定する)
musical cat, scientific discovery,
mathematical genius
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形容詞と形容動詞
冷たい、柔らかい、赤い
 静かな、おおらかな

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










名詞
上位語(hypernym): すべてのXがYの種類の一であるならYはXの上位語である。
下位語(hyponym): すべてのYがXの種類の一であるならYはXの下位語である。
同族語(coordinate term): XとYがの上位語が同じなら、YはXの同族語である。
holonym: XがYの一部であるなら、YはXのholonymである。
meronym: YがXの一部であるなら、YはXのmeronymである。
動詞
上位語(hypernym): Xという行動がYの種類の一であるなら動詞Yは動詞Xの上
位語である。 (「移動(movement)」は「旅行(travel)」の上位語)
troponym: もしYという行動がXを行う際の様態であるなら動詞Yは動詞Xの
troponymである。(「片言で話す(lisp)」は「話す(talk)」のtroponym)
entailment: Xしている場合必然的にYしているなら動詞Yは動詞Xにentail(ひき
おこすこと)されている。 (X:「いびきをかく(snoring)」はY:眠る(sleeping)」ことに
よって引きおこされる。)
同族語(coordinate terms): XとYの上位語が同じなら、YはXの同族語である。
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名詞(自然物) Apple
 名詞(人工物)refrigerator
 動詞 Walk
 形容詞 Beautiful

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ことばの意味を類似
語の対比とカテゴリー
の境界から探る
2015/7/20
持つ・運ぶ動作に関することばの意味

日本語
 持つ、抱える、抱く、背負う、担ぐ、支える

英語
 Carry,

hold
中国語は?
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それぞれの動作にどの動詞を割り当
てるか

手続き:

産出テスト:被験者はビデオを見て,刺激文に回答する
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それぞれの語の境界は?

13の語と13のビデオのすべての組み合わ
せをつくり、そのひとつひとつにYes, Noで反
応してもらう
これはna?
これはding?
これはbao?
これはbei?
2015/7/20
子どもの理解する「意味」と大人の理
解する「意味」は同じか、違うか
2015/7/20
2-2.実験概要:単純集計
•大人(大学生)群
産出動詞
ビデオ
上手く使い分けられていれば対角線上に値が並ぶ
2015/7/20
2-2.実験概要:単純集計
•3歳児
産出自体はしているものの,大きくばらついている
2015/7/20
3-1.分析①:相関分析
•目的:
•子どもの動詞の産出分布がどの様な過程を経て大
人の産出分布へと近づいていくかを見る
•方法:
•年齢群毎にイベント間の相関行列を取り(各ベクト
ルの成分は動詞の産出頻度),更に行列ごとに年齢
間で相関を取る
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3-1.分析①:相関分析
•結果:
年齢を経る毎に,イベントに対する動詞の産出分布は線形に大人と
の相関を強める傾向がある
しかし7歳児でも,大人との相関は0.6程度
産出することは出来ても,大人と同様に使うにはより時間がかかる
2015/7/20
5-1.予備⑥:個別MDS
3 years
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ADULT
3-3.分析③:個人差MDS
•結果:共通空間
3
Dimension2
2
ぬいぐるみ
bao
1 容器
peng jia 手以外の部分も重要
naduan 鞄 ju
ding
0
lin ti
-1
0
1
kua2
-1
bei
tuo kang
-2
手(指)が重要
-2
Dimension1
2015/7/20
3
3-3.分析③:個人差MDS
•結果:個人空間
Dimension2
1.2
age5
age3
1
0.8
age7
0.6
0.4
adults
0.2
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
1.4
1.6
1.8
Dimension1
動詞を用いたイベント認知の特徴(軸に対する重み付け)が年齢間
で異なる!
大人は軸1(手の重要さ)に対する感度が相対的に子どもよりも高く、
子どもは軸2(オブジェクトの性質?)に対する感度が相対的に大人より
2015/7/20
も高い