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X線スペクトル観測による
ブラックホールパラメーターの推定
JAXA宇宙科学研究所
海老沢 研
オレンジで書いた部分は講義の内容と対応しています
話の内容
1.
2.
3.
4.
5.
ブラックホールのX線観測
標準降着円盤の観測
中間質量ブラックホールは存在するか?
広がったように見える鉄輝線の観測
まとめ
2
1.ブラックホールのX線観測
• 質量によるブラックホールの分類
– 巨大質量ブラックホール (SMBH; >106M)
• ほとんどすべての銀河の中心に存在
• 活動的銀河中心核 (AGN)として観測される
– 恒星質量ブラックホール (3M〜30M)
• 大質量星の超新星爆発の後に形成
• ブラックホール連星として観測される
– 中間質量ブラックホール?(100M〜1000M)
• 超高光度X線天体(ULX)として観測されている?
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巨大質量ブラックホール
私たちの銀河の中心核付近の星
の運動
→ ブラックホール質量=370万M
私たちの銀河中心核の
ブラックホールは現在はX線で暗
い (質量降着が少ない)
巨大質量ブラックホールに質量降
着がある場合、活動的銀河中心
核(AGN)として観測される
AGNの標準降着円盤は紫外線領
域(<<0.1 keV)で観測される
AGNの場合、〜1keV〜 50 keVで
観測されるのは、光学的に薄いプ
ラズマからのコンプトン輻射また
はシンクロトロン輻射 (べき関数
スペクトル)
http://www.mpe.mpg.de/ir/GC/res_dance.php
4
ブラックホール連星系
• 恒星質量ブラックホールが連星系
を構成しているとき、伴星から質量
降着が起き、降着円盤が形成され
る
• 降着円盤中で重力エネルギーが
解放され、X線領域で観測される
• 標準降着円盤がエディントン限界
光度で輝いているときの円盤の内
縁温度:
McClontock 2011
•中心天体の質量が大きいほど標
準降着円盤は低温になる
• 円盤温度
AGN << 恒星質量BH< 中性子星
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話の内容
1.
2.
3.
4.
5.
ブラックホールのX線観測
標準降着円盤の観測
中間質量ブラックホールは存在するか?
広がったように見える鉄輝線の観測
まとめ
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2.標準降着円盤の観測
• Shakura and Sunyaev (1973)
– X線天体の起源として、ブラックホール連星系の標準降着
円盤を提案
– 幾何学的に薄く、低温(≤ 1 keV)で、光学的に厚い円盤
• 一般に降着円盤の厚さをh, 中心からの距離をrとする
と、ガスの熱エネルギー(kT)と粒子(ほとんど水素)1つ
あたりの重力エネルギーの比は、
• 幾何学的に薄い降着円盤(h/r<<1)は低温(<< ~GeV)
• 幾何学的に厚い降着円盤(h/r≈1)は高温(≈ ~GeV)
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2.標準降着円盤の観測
• 実際、標準降着円盤の温度は
• Hydrogenic ion(原子核と電子一個)の電離エネルギー
シリコンの場合(Z=14) 2.7 keV、鉄の場合(Z=26)、9.2 keV
• ~1 keVでは重元素が完全電離しない光電吸収が働く
光学的に厚い
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2.標準降着円盤の観測
• Katz “High Energy Astrophysics” (1986)より
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ぎんが衛星(1987年打ち上げ)による
ブラックホール連星の観測
LMC X-3 GINGA
(Ebisawa et al. 1993)
強度と色(hardness-ratio)に相関
Rin =constant
Tin4  Ldisk
光学的に厚い円盤
Ldisk  Rin2 Tin4
円盤の内縁半径は一定で、観測される強度変化は
円盤の温度変化だけで説明できる
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ブラックホールのまわりの最小安定円軌道半径
ISCO (Innermost Stable Circular Orbit)
GM/c2が単位
(シュワルツシルド半径
=2GM/c2)
最小安定円軌道半径
McClontock 2011
回転していない
ブラックホール
(シュワルツシルド
ブラックホール)の場合
ISCO=6GM/c2
最も速く回転している
ブラックホール
(extreme Kerr
ブラックホール)の場合
ISCO=GM/c2
スピンパラメーター
降着円盤の内縁がISCOに対応している
X線観測  降着円盤の内縁半径=ISCO(質量とスピンパラメーターの関数)
ISCOを測定し、質量とスピンパラメーターのどちらかを仮定すれば、もう片方が決まる
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ぎんが衛星による標準降着円盤の観測
LMC X-3 GINGA
(Ebisawa et al. 1993)
回転していない
ブラックホールを仮定
Rin = 6GM/c2
距離、ディスク傾斜角を仮定、質
量と質量降着率はフリーパラメ
ーター
色温度と有効温度の補正:
Tcol/Teff ≈1.9
ブラックホール質量〜6 M
可視光による観測結果とほぼ一致
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Steiner et al. 2010
ISCOの安定性
LMC X-3の光度
X線観測から求めた
内縁半径
内縁半径は長期間にわたって一定
内縁半径がISCO(光度に依らない)に対応していることの証拠
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標準降着円盤のX線スペクトル観測
からスピンパラメーターの推定
天体までの距離、ブラックホールの質量、円盤の傾きを仮定
X線スペクトル  rIN=ISCO  aが推定できる
McClintock 2011
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話の内容
1.
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3.
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5.
ブラックホールのX線観測
標準降着円盤の観測
中間質量ブラックホールは存在するか?
広がったように見える鉄輝線の観測
まとめ
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M82 X-1から、~1041erg/s
のX線フレアの観測
のプレスリリース
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3.中間質量ブラックホールは存在するか?
• エディントン限界光度:質量降着で輝いている天体に
ついて、球対称を仮定して輻射圧と重力が釣り合う条
件
 Ledd 1038 (M/M) erg/s
• Ultra-luminous X-ray sources (ULXs)
–
–
–
–
–
近傍の渦巻き銀河に多数存在
球対称を仮定するとX線光度が1040~1041erg/s
エディントン光度を超えないとすると、M=100~1000M
中間質量ブラックホール?
あるいは、恒星質量BH (<30M)が超エディントン光度で
光っている? (L >= 30LEdd)
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降着円盤モデル:3つの安定な解
Abramowicz et al. (1995)
質量降着率
光学的に薄い
超臨界降着円盤
スリムディスク
Advection Dominated
Accretion Flow (ADAF)
BHのlow state
標準降着円盤
BHのhigh state
光学的に厚い
不安定
面密度
標準降着円盤(幾何学的に薄く光学的に厚い)はBHのhigh state
ADAF (幾何学的に厚く光学的に薄い)はBHのlow state
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スリムディスクは(おそらく)ULXに対応している
標準降着円盤と
スリムディスクの比較
• 標準降着円盤の温度の半径依存性:
Slim disk
Standard disk
Watarai and Fukue (2000)
• 質量降着率が大きくなる
(標準降着円盤スリム
ディスク)と、半径依存性の
べきが0.750.5に
• スペクトルの形の違いが
生じる観測的に判別可
能
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M82 X-1の精密なスペクトル解析
•
•
•
•
•
観測されたスペクトルはpower-lawに
比べて曲がっている
「曲がり具合」は、標準降着円盤モデ
ル(disk blackbody)よりも小さい
円盤温度の半径依存性のべきをフ
リーにしてフィット(“p-free disk”)
p=0.61±0.02で良く合う
スリムディスクがもっともらしい
Kawaguchi (2003) によるスリムディスク
モデルを適用すると、
M~30M 
~5 倍のエディントン光度
Okajima, Ebisawa and Kawaguchi (2006)
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スリムディスクによる
スペクトル変化の説明(IC342 Source1)
• 標準降着円盤によるフィット
• スリムディスクによるフィット
• BHの質量一定(~23M), 質量降
• BHの質量が変化してしまう
着率の変化だけで説明できる
– 物理的に正しくないモデル
– よりもっともらしいモデル
Ebisawa et al. (2003)
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スリムディスクの光度
光学的に厚く、幾何学的に厚い円盤(スリムディスク)
円盤と鉛直方向の、輻射圧と重力の釣り合いを考える
~10
標準降着円盤の場合、h/r~0.1を仮定すると
 Ldisk < LEdd
スリムディスクの場合、h/r ~ 1を仮定すると
 Ldisk ~ 10 LEdd
厳密なシミュレーション
スリムディスクで約10倍のSuperEddington luminosityは可能
Face-onのとき、球対称を仮定して
見積もった光度は~ 17 Ledd
Ohsuga et al. 2005
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3.中間質量ブラックホールは存在するか?
1. 精度のよいULXスペクトルの形標準円盤
よりもスリムディスクが妥当
2. スリムディスクを仮定すると、観測されたス
ペクトル変化を質量降着率の変化で自然に
説明できる
3. スリムディスクでsuper-Eddington luminosity
が説明できる。
ULXは(おそらく)恒星ブラックホールの周りのスリムディスク
「中間質量」ブラックホールは観測されていない
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話の内容
1.
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3.
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ブラックホールのX線観測
標準降着円盤の観測
中間質量ブラックホールは存在するか?
広がったように見える鉄輝線の観測
まとめ
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4.広がったように見える鉄輝線の観測
• ASCA MCG-6-30-15
CAUTION!!
実際に観測しているの
はcounts/s/channel
(Tanaka+ 1995)
Counts/s/channel
↓
レスポンスとモデルを仮定
↓
photons/s/cm2/keV
• 鉄のK-輝線が、相対論効果で広がっているように見える
• ただし、モデルに大きく依存する
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降着円盤内縁からの蛍光鉄輝線プロファイルの計算
シュワルツシルドブラックホールの場合
Fabian et al. 1989
Extreme Kerr ブラックホールの場合
Laor 1991
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特徴的な時間変動
〜104 sec
〜105 sec
(Matsumoto+ 2003)
• MCG-6-30-15 with ASCA
Root Mean Square (RMS) 変化率のエネルギー依存性
(RMSスペクトル)
• 鉄のK輝線領域で、RMSスペクトルが急激に減少
• モデルに依存しない結果
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Light bendingモデル
• Miniutti and Fabian (2004)
– ブラックホールの極近傍(~Rs)で、ディスクが上か
らX線源(“lump-post ”)で照らされる
– ディスクの内縁付近から広がった”ディスクライン”
が観測される
– Lump-postが強度を変えずに上下に動く
– Lump-postからの直接成分は変動するが、“lightbending effect”によって、反射成分(鉄輝線)はあ
まり変動しない
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Variable Partial Coveringモデル
• MCG-6-30-15に対する部分吸収(parial covering)
のアイデアは古くからある: e.g., Matsuoka+
(1990); McKernan and Yaqoob (1998); Miller,
Turner and Reeves (2008, 2009)
• Variable Partial Coveringモデル (Miyakawa,
Ebisawa and Inoue 2012; Iso, Ebisawa et al. in
prep.)
– 部分吸収体は、電離度の異なる内部構造を持つ
– BHのまわりのX線源は広がっていて(~20 Rs)、あまり
変動しない
– 1〜40 keVの強度/スペクトル変化は部分吸収率の変
化だけでほとんど説明できる
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• Miyakawa, Ebisawa and Inoue (2012) (graphical work by Aki Sato)
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Variable Partial Covering Model
• ブラックホールからのX線が内部構造(outer-layerとcore )を持つ電離吸
収体による部分吸収と、変動しない高電離吸収体の影響を受けている
• 観測される強度変化、スペクトル変化は、ほとんど変動しないX線源の部
core
layer
分吸収の割合(a)の変化で説明できる
直接成分
吸収を受けた成分
ディスク反射
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Variable Partial Covering Model
(Miyakawa, Ebisawa and Inoue 2012)
ブラックホールの光度はほとんど変動しない
部分吸収される割合(covering fraction)が大きく変動する
X-ray
source
direct
component
absorbed
component
Ionized
absorbers
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Variable Partial Covering Model
(Miyakawa, Ebisawa and Inoue 2012)
ブラックホールの光度はほとんど変動しない
部分吸収される割合(covering fraction)が大きく変動する
Covering fraction maximum
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Variable Partial Covering Model
(Miyakawa, Ebisawa and Inoue 2012)
ブラックホールの光度はほとんど変動しない
部分吸収される割合(covering fraction)が大きく変動する
Covering fraction varies
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Variable Partial Covering Model
(Miyakawa, Ebisawa and Inoue 2012)
ブラックホールの光度はほとんど変動しない
部分吸収される割合(covering fraction)が大きく変動する
Covering fraction varies
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Variable Partial Covering Model
(Miyakawa, Ebisawa and Inoue 2012)
ブラックホールの光度はほとんど変動しない
部分吸収される割合(covering fraction)が大きく変動する
Covering fraction varies
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Variable Partial Covering Model
(Miyakawa, Ebisawa and Inoue 2012)
ブラックホールの光度はほとんど変動しない
部分吸収される割合(covering fraction)が大きく変動する
Covering fraction varies
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Variable Partial Covering Model
(Miyakawa, Ebisawa and Inoue 2012)
ブラックホールの光度はほとんど変動しない
部分吸収される割合(covering fraction)が大きく変動する
Covering fraction: Null
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広がったように見える鉄輝線の説明
電離した鉄吸収端が広がった輝線
のように見える
直接成分
吸収された成分
反射成分
細い鉄
輝線
Suzaku MCG-6-30-15
Miyakawa, Ebisawa
and Inoue (2012)
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鉄輝線領域の時間変動の説明
• Variable Partial Coveringモデル直接成分と吸収成分の変化は
打ち消し合う
• 鉄のバンドでもっとも効率良く打ち消し合う
direct compoent
absorbed
component
reflection
Iron line
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解析
鉄輝線領域の時間変動の説明
• 観測されたRoot Mean Square スペクトルは、covering fraction
の変化で説明できる
Black:data
Red:model
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他の天体の例
Black:data
Red:model
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他の天体の例
Black:data
Red:model
44
他の天体の例
Black:data
Red:model
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AGNの強度変動の説明
SuzakuによるNGC4051 とNGC3516の観測
(0.2—12 keV, 1bin=512sec)
様々なタイムスケールで、非周期的で激しい時間変動
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解析
AGNの強度変動の説明
21個のセイファート銀河の時間変動が、 covering fraction の
変化で説明できる(磯修士論文; Iso, Ebisawa et al. in prep.)
Counting rate
Covering fraction
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観測されたX線強度変化が、 ブラックホールの光度一定、
covering fractionの変化で説明できる
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他の天体の例
Black:カウントレート
Red:covering fraction
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他の天体の例
Black:カウントレート
Red:covering fraction
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他の天体の例
Black:カウントレート
Red:covering fraction
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話の内容
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ブラックホールのX線観測
標準降着円盤の観測
中間質量ブラックホールは存在するか?
広がったように見える鉄輝線の観測
まとめ
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5.まとめ
• ブラックホール連星系において、標準降着円盤からの
X線スペクトルが観測されている
– 標準降着円盤のX線スペクトル観測から、ブラックホール
の質量とスピンを推定することができる
• 恒星質量ブラックホールの周りの標準降着円盤では
説明できない、超高光度X線天体(ULX)が存在する
– ULXの正体は、(おそらく)重めの恒星質量ブラックホール
の周りの超臨界降着円盤(スリムディスク)である
• セイファート銀河のX線スペクトル中に、広がった鉄輝
線のような構造が観測されている
– 広がった鉄輝線のような構造は、(おそらく)視線上に存
在する多くの吸収物質による部分吸収で説明できる
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