Transcript 1 - 光赤外研究部
IRSF/SIRIUSによる スーパーアースGJ1214bの大気観測 成田憲保(国立天文台) 永山貴宏(名大)、末永拓也(総研大)、福井暁彦(岡山観測所)、 生駒大洋(東大)、中島康、西山正吾、田村元秀(国立天文台) 目次 • 背景 • 近赤外高精度測光の方法 • GJ1214について • 観測結果とモデルの比較 トランジット惑星の大気観測 • 系外惑星のトランジットの深さは惑星大気の組成に依存する – 特に近赤外では分子大気組成に依存 – 多波長トランジット観測によって惑星大気の組成を推定できる – サイズの小さい低温度星のまわりに地球サイズの数倍程度の 惑星(スーパーアース)がトランジットで発見されてきている – スーパーアースの大気組成の観測はようやく可能になった新し いサイエンス(これまではホットジュピターのみ) • これらの研究を行うにはmmagレベルの高精度測光が必要 – しかし現実には近赤外の高精度測光は難しかった なぜ近赤外高精度測光は難しいか? 赤外検出器は感度むらが大きい上に、フラット光源がそれほど一様でない フラットの不完全性 大局的(~1000pixel)には1%弱、局所的(~10pixel)でも0.1%程度 (岡山ISLEでの試験観測より) バッドピクセル 赤外検出器はバッドピクセルが多い(図はIRSFのバッドピクセルマップ) 近赤外高精度測光の方法 • フラットが完全でないなら、ターゲットを検出器上で動かさない ようにすればよい • バッドピクセルが多くてもそこにターゲットを乗せなければよい • さらにフォトンをたくさん稼ぐため、また線形性の良いカウント で観測するために、ターゲットをデフォーカスすればよい ターゲットを検出器上で固定するには • オートガイダーがあれば一番楽 • もしオートガイダーがない場合は、星像が動いた時に望遠鏡 にフィードバックをかければよい – 重心位置が数ピクセル以上移動したらフィードバックをかける – トラッキング精度が悪いとフィードバックの回数が増えて時間の ロスが増えるが、フラットの不完全性のノイズをひろってしまう よりはよい 岡山ISLEでの試行錯誤(2009~) 先ほどの方法を踏まえてオートガイダーで観測 岡山/ISLEのJバンド測光観測 J<10の天体で~0.1%の測光精度を安定的に達成 IRSFの場合 • オートガイダーがないため、位置固定ソフトが2011年に導入 された – これによって初めて高精度測光観測が可能に • 多波長トランジット観測による惑星大気の観測 – トランジットの深さは特に近赤外では分子大気組成に依存 – 多波長の近赤外トランジット観測によって、惑星大気の組成を 推定できる -> IRSFの3色同時の機能は非常に魅力的 最初のターゲット:GJ1214b • 初めて発見された低温度星(M4.5V)まわりをトランジットする スーパーアース (Charbonneau et al. 2009) • 惑星半径:~2.7REarth, 惑星質量:~6,55MEarth • 主星が~0.2RSun程度と小さいため、スーパーアースでも1%以 上の減光を起こす • 大気組成を調べることができる初めてのスーパーアース • 太陽系近傍の13pcの距離にあり、V=14.67, J=9.75, H=9.09, Ks=8.78 と近赤外で明るい 先行研究 de Mooij et al. (2012) これまでの観測から、ほぼ水蒸気の大気(青線)か、金属量が低く メタンが欠乏した水素大気(赤線)かにモデルが絞られた IRSF/SIRIUSのJHKs同時測光観測 mag mag -15.47 -15.46 -15.45 -15.44 -15.43 -15.42 -15.41 -15.4 -15.39 time (SAST) GJ1214 ref star +0.01 mag -15.38 20:30 20:45 21:00 21:15 21:30 21:45 22:00 22:15 22:30 22:45 23:00 23:15 23:30 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 0.03 0.035 GJ1214 - ref star 0.04 20:30 20:45 21:00 21:15 21:30 21:45 22:00 22:15 22:30 22:45 23:00 23:15 23:30 time (SAST) 永山さんによるほぼリアルタイム解析の結果 上:参照星とターゲットの等級、下:相対等級 トランジット外の補正 • 生のライトカーブは主星・参照 星の変光やエアマスの影響な どで若干時間変化している • 星の位置の変動が小さければ 線形でもよく補正できる • 右はJバンドのライトカーブ • k0 + kt*t + kz*z + kx*dx + ky*dy 補正後のライトカーブ GJ1214bのJHKsバンドで0.124,0.125,0.155%の測光精度を達成 他の観測結果との比較 Bean+ 2011 de Mooij+ 2012 Berta+ 2012 Desert 2011 Croll+ 2011 this work JHは他の観測とよく一致し、KsはCrollらの主張より浅くBeanらと一致 IRSFの観測でわかったこと • JHKsでほぼフラットな透過光スペクトルを確認 • Croll et al. (2011)が主張したKsバンドでの深いトランジットは 見られなかった • 現在のエラーの範囲では水蒸気大気のモデルと、厚い雲が ある水素大気のモデルと合い、雲がない水素大気のモデル とは合わない • 繰り返しの観測で制限を強める or 青い領域を観測すること でさらに大気モデルの判別が可能になる • NN et al., to be submitted this week 今後の課題 • GJ1214のような面白い惑星系を自分たちの手で発 見して、惑星大気の観測まで行いたい • 特に、太陽系に近い惑星系でのトランジットを起こす スーパーアースを探したい 岡山観測所ISLEでの 新しいトランジット惑星の探索 成田憲保(国立天文台) 福井暁彦(岡山観測所)、平野照幸(東大)、 末永拓也(総研大)、高橋安大(東大)、大貫裕史(東工大)、 Eric Gaidos, Emily Chang(ハワイ大) 低温度星まわりのトランジット惑星 太陽系近傍(J<10)でこれまでに発見されたのは • GJ436:視線速度で発見後にトランジットを発見 • GJ1214:サーベイグループMEarthによる発見 の2つのみ 1つの新たな惑星発見にも大きな意味がある 目標:J<10のmiddle K-M型星でスーパーアース発見 すばるIRDの目標はJ<10で1m/sの精度 -> RV追観測が可能 トランジット惑星探しの方法 • 定期的な星の減光現象を発見する • 惑星以外の偽検出を取り除く • 惑星の半径、質量、軌道を決定する トランジット惑星と偽検出(cf. 天文月報) トランジット惑星 二重星の一方に トランジット惑星 grazing eclipsing binary 二重星の一方が 食連星 本トランジット惑星探しの全体の流れ 1. SuperWASPアーカイブから選定したトランジット惑星候補に 対して、岡山のISLEを用いて高精度測光観測を行い、その 減光形状から惑星以外の現象を排除する 2. 1をパスした候補について、すばる望遠鏡のHiCIAOやIRCSを 用いて高空間分解能な撮像観測を行い、背景星の混入が ないかどうかを調べる 3. 1をパスした候補について、すばる望遠鏡のHDSやIRDを用 いて視線速度測定を行い、減光周期に同期した視線速度 変動を調べる 研究準備状況:ターゲットの選定 地上可視トランジットサーベイSuperWASPのアーカイブデータを利用 周期解析により折りたたんだ光度曲線 周期的減光の検出レベル トランジット期間内の データ点数 Ntr 測光精度σ 減光率δ 減光率と主星・惑星半径の関係 日本で観測可能な S/N>6 or Δχ2>50 の低温度星を50個程度選定 今後これらの減光現象を高精度測光で確認し、惑星か食連星かを判別したい 11B-12Aの観測結果 • 25夜の割当のうち、8夜の晴天夜 – 岡山の統計的な晴天夜の割合と同程度 • 6つのターゲットを観測 – 12Bのターゲットとは重複しない – 何度か観測したターゲットがあるため8つではない • 5つはSuperWASPデータの偽検出と判別 惑星の可能性を排除できなかった候補 1.008 1.006 1.004 Relative flux 1.002 1 0.998 0.996 0.994 0.992 0.16 0.18 0.2 0.22 0.24 0.26 0.28 0.3 0.32 0.34 JD-2455985 1つの候補で惑星と矛盾しない0.17%の減光を検出 ただし、2度目の高精度測光観測ができていない (4-6月が観測時期!) 研究準備状況:直接撮像観測 先ほどの候補に対しては5月にすばるで直接撮像観測を行い、 減光を起こしうる背景星の混入はないことを確認した 研究準備状況:HDSでの視線速度測定 -44 -46 RV [m/s] -48 -50 -52 -54 -56 -58 56109 56109.5 56110 56110.5 56111 56111.5 MJD 6月30日から7月2日にHDSでの視線速度観測を実施 ~2m/sほどの精度を達成し、食連星ではないことを確認 我々の今後の研究計画 • 2014年頃のIRD稼働前→新しいトランジット惑星の探索 – 地上や宇宙トランジットサーベイのアーカイブをもとに候補を選定し、 高精度測光観測・直接撮像観測・視線速度測定によって本物の低 温度星まわりのトランジット惑星を発見する • IRD稼働後→トランジット惑星の特徴づけ – 事前に発見した惑星候補の質量と軌道を決定 – 新しいトランジット惑星の詳細な観測を世界に先駆けて行う まとめ • 日本で初めての低温度星まわりのトランジット惑星探し • もし本物のトランジット惑星があった場合に、実際に発見でき るだけの十分な準備を行っている 多色近赤外広視野カメラへの期待 • 地上からの高精度近赤外測光観測はつい最近可能となった 新しい観測技術で、世界でもまだそれほど普及していない • 高精度測光観測では参照星の存在が重要->広視野が重要 • 赤外検出器も大型化が進んできた • 特に1-4mの中口径望遠鏡で広視野の近赤外カメラは世界に ほとんど存在しておらず、今後早く作ったところがさまざまな 研究を独占できる状況 • 日本の中口径望遠鏡にIRSF/SIRIUS-likeなカメラを期待 低温度星のトランジットサーベイ 他グループとの比較 MEarth UH NAOJ 望遠鏡 40cm x 8台 2m FTN/1.3m MDM 188cm 場所 アリゾナ ハレアカラ/アリゾナ 岡山 観測波長 narrow z Z/i J 精度 1台:~3mmag 8台:~1mmag ~1mmag ~1mmag 観測開始年 2008 2010 2011 事前情報 なし SuperWASP SuperWASP 年間観測夜数 専用 ~10/〜40 ~30(一般枠) ~80(プロジェクト) 晴天率 ~50% ~50% ~30% RVフォローアップ Keck/HIRES Keck/HIRES Subaru HDS/IRD 36 見込まれる成果 • 出版可能論文数 – 発見惑星数 x (3〜4本):惑星発見、高精度パラメータの決 定、多波長観測による惑星大気組成、TTV – 偽検出の統計:2本 – ユニークな偽検出: – 既知の低温度星まわりのトランジット惑星の追観測:最低 3本(GJ1214, KOI-254, KOI-961) ≧ 発見惑星数 x 4 + ユニークな偽検出数 + 5 37 期待するトランジット惑星発見数 • これまでのSuperWASPの観測によると – 太陽型星では食連星の混入割合は~9割、惑星が~1割 – 食連星の伴星のほとんどは低温度星 – SuperWASPは太陽型星に~70個の木星型惑星を発見しており、太陽 型星に対する統計的な混入確率はある程度信頼できる – 低温度星に対する混入確率の研究はこれまで行われていないため、 統計的な値は不明(この統計自身も論文化可能) – 低温度星同士の連星の場合、低温度星はサイズが小さいため、同じ 距離にある連星が食連星になる確率は太陽型星より低い • 我々が期待する惑星発見数は5個前後 – cf. 1個の惑星発見で年平均3本程度の論文出版数見込み 38