トリプルボトム・ラインについて日本の金融機関が考慮すべきこと

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2012年12月27日
トリプルボトム・ラインについて日本
の金融機関が考慮すべきこと
甲南大学経営学部
長坂ゼミ
10951087 小曽根 知晃
目次(卒論)
第一章
第二章
第三章
第四章
第五章
問題提起
1-1 トリプルボトム・ラインの捉え方の違いについて
1-2 短期的な収益指向の弊害
トリプルボトム・ラインの現状
2-1 トリプルボトム・ラインに関連する金融機関の取り組みについて
2-1-1 日本政策投資銀行の事例 2-1-2 三菱東京UFJ銀行の事例
2-1-3 三井住友銀行の事例
2-1-4 みずほ銀行の事例
2-2 国の政策による変化
トリプルボトム・ラインにおける「経済性」
3-1 環境に関連した金融商品の現状
3-2 失敗事例:三菱東京UFJ銀行の「環境融資」
トリプルボトム・ラインにおける「社会性」と「環境性」
4-1 持続可能な社会に向けての活動事例
4-2 「環境性」の基準について
4-3 環境に関する取り組みの問題点と改善策
トリプルボトム・ラインの提言
5-1 提言その1:幅広い利害関係者が議論する場の設置
5-1-1 市場経済の中に「環境性」の評価を組み入れるには
5-1-2 問題点と提言の実現に向けて
5-2
提言その2:CSVとしての取り組みへ
目次(ゼミ合宿発表用)
1.
2.
3.
4.
トリプルボトム・ラインとは
背景
問題提起
トリプルボトム・ラインに関連する
金融機関の取り組みについて
4-1 日本政策投資銀行の事例
4-3 三井住友銀行の事例
5.
6.
◆
◆
4-2 三菱東京UFJ銀行の事例
4-4 みずほ銀行の事例
提言その① : 議論をする場の設置
提言その② : 専門家派遣の推進
おわりに
参考文献
1
トリプルボトム・ラインとは
トリプルボトム・ライン
CSR(企業の社会的責任)の代表的な提示手法のひとつ
経営において「経済性」「社会性」「環境性」の3つの側面のバランス
が取れている企業が持続可能な発展を許されるという概念を持つ。
社会性
経済性
財政基盤強化・安定化へ
事業拡大へ
環境性
持続可能な社会構築へ
2-1
背景
政策の変化
(金融に関するもの)
1992 年 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)の設立
金融機関のさまざまな業務において、環境および持続可能性(サステナビリティ)に配慮した
最も望ましい事業のあり方を追求し、これを普及、促進することを目的としている。
2003 年 エクエーター原則(赤道原則)の制定
民間金融機関が大規模なプロジェクトファイナンスを実施する場合に、プロジェクトが地域社
会や自然環境に与える影響に十分配慮して実施されることを確認するための枠組みのこと。
2006 年 国連責任投資原則(PRI)の制定
環境・社会・ガバナンスの側面を考慮に入れた運用責任投資を行うことを要請するもの。
2011年 「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則」
(21 世紀金融行動原則)
持続可能な社会の形成のために必要な責任と役割を果たしたいと考える金融機関の行動指
針として環境省が策定。
背景
2-2
署名機関
持続可能な社会の形成に向けた
金融行動原則
署名金融機関
株式会社みずほフィナンシャルグループ
株式会社三井住友銀行
三井住友トラスト・ホールディングス株式会
社
株式会社三菱東京UFJ銀行
三菱UFJ信託銀行
株式会社日本政策投資銀行
地方銀行33行
保険会社10社
信用金庫6庫
証券会社3社
その他(ネット銀行、リース、アセットマネジ
メント、リスクサービス)5社
など
以上 63社(平成 23 年 12月 14 日時点 )
エクエーター原則(赤道原則)
世界32ヵ国77の金融機関が採択
( 2012年6月時点)
日本の署名参加機関は、次の17社
三井住友海上、損保ジャパン、
東京海上日動、日興アセットマネジメント、
グッドバンカー、日本政策投資銀行、
滋賀銀行、
三井住友フィナンシャルグループ、
日本興亜損保、住友信託銀行、
日本政策金融公庫・国際協力銀行、
三菱東京UFJ銀行、大和証券グループ、
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社、
三菱UFJ信託銀行、
みずほフィナンシャルグループ 、千葉銀行。
(都銀5行、信託銀行20行、地銀64行、第二地銀45行
信用金庫271金庫)
2-3
背景
CSRにおける時代の変化
1960~1970年代 公害問題に対して企業として責任があることを認めさせることに意義
発展
ステークホルダーへ積極的な関与をするのが新しいあり方が企業の社会的責任
環境問題から社会問題、企業統治問題が広まる ⇒ 「ESG 問題」
2001年 グリーンペーパー
「企業の社会的責任に関する欧州枠組みの促進」
CSRの問題を企業の内部的問題、外部的問題、全体的問題に分けて検討して
いる。さらにここでのCSRの定義によってCSR活動は法的義務として強制される
ものではなく、企業が自発的におこなうものとして広く認識された。
トリプルボトム・ラインの捉え方の違いが生じている
2-4
背景
時代の潮流
1980年代初頭~2008年 市場勝利主義の時代
市場信仰と規制緩和が社会を陶然させた。
2008年 金融危機
ウォール街占拠運動 → 政府と大手銀行や富の格差に抗議。
2011年 ポーターがCSVを提唱
2012年 マイケル・サンデル「The Moral Limits of Markets」
市場の役割と範囲を再認識する必要性を唱えた
CSRにおける企業活動の多様化
☆ 従業員への責任や地域社会への責任、グローバル環境への責任
☆ 社会的公正性や倫理性、持続可能な発展のへ向けた活動
★ 捉え方の違いから生じる、既存の基準の腐敗化
★ 環境や社会に配慮する取組みを経済的な価値に結びつける取り組み
3-1
問題提起1
「金融機関における環境性の捉え方の違い
から起こる問題をどのように対処していくか」
「環境性」においてのCSRの捉え方は金融機関の間で異なる場合
が多くある。そのような捉え方の違いは企業の意思決定に少な
からず影響を与えていると言える。
Ex1) 排出権ビジネス
お金があれば権利を購入できる。
環境汚染免許?善の規範を促進?
不平等
Ex2) 既存の基準を採用
しないケース
基準の意味合いが失われる。
腐敗
この捉え方の違いによって起こり得る問題が存在している。捉
え方を変え続けると「環境性」を考慮する意味合いが失われる
のだ。「環境性」の基準や行動指針、さらにはCSRそのものが腐
敗するおそれがある。
3-2
問題提起2
「CSV活動の一環として長期的な収益思考
で活動できないか」
短期手な収益思考の弊害
長期的な収益思考の弊害
・長期的な成長を描けない
・短期的な収益を求められる
・リスクが大きく安全性が低い
・流動的な運用ができなくなる
大原則 : 融資するお金は預金者から預かったも
の。
絶対に回収しなければならない。
有力な保証 or 担保がほしい
しかし、国の支援を得るにも、
中小企業経営者にとって国の厳しい審査基準を通るのは難しい。
CSV:ポーターが提唱する共通価値創造を指す。
定義は「社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、
経済的価値が創造されるというアプローチ」とする。
トリプルボトム・ラインに関連する
金融機関の取り組みについて
4-1
日本政策投資銀行、三菱東京UFJ銀行、
三井住友銀行、みずほ銀行の
トリプルボトム・ラインに関連する取り組みを取り上げる。
※ 経済性、社会性、環境性が重なる部分に注目する
社会性
経済性
環境方針
設定と公表と行動
金融商品
環境性
環境・社会に配慮された
ものがあるか
トリプルボトム・ラインに関連する
金融機関の取り組みについて
4-2
日本政策投資銀行
環境基本方針
社会・環境・経済というトリプルボトム・ラインの調和の実
現を通じた「より豊かで持続可能な社会の実現」を目指
すべく、環境問題の解決を人類共通の重要課題と認識し、
環境に配慮した経済社会の形成に貢献する
金融商品
「環境格付融資」
「環境格付」(環境に配慮した経営の評価)と格付に応じ
た「優遇金利融資」をおこなうもの
トリプルボトム・ラインに関連する
金融機関の取り組みについて
4-3
三菱東京UFJ銀行
グループ環境方針
高品質な金融商品・金融サービスの提供を通じて環境の保
全・保護に資する事業を支援し、社会全体の環境に関する
リスクの低減に取り組む。
金融商品
「再生可能エネルギー事業に関連したファイナンス」
プロジェクトファイナンス世界ランキングで平成22年度世界
第2位、平成23年上半期においては世界第1位の実績
トリプルボトム・ラインに関連する
金融機関の取り組みについて
4-4
三井住友銀行
グループ環境方針
「持続可能な社会」の実現を重要課題の一つであると認識
し、地球環境保全と企業活動との調和のため継続的な取り組
みを行い、社会・経済に貢献する
金融商品
「SMBC環境配慮評価融資/私募債」
この商品が「2009年日経優秀製品・サービス賞 優秀賞」及
び「第7回エコプロダクツ大賞エコサービス部門環境大臣賞」
を受賞
トリプルボトム・ラインに関連する
金融機関の取り組みについて
みずほ銀行
4-5
グループ環境方針
環境保護団体やお客さまの環境問題への取り組みを支援
するとともに、環境保全に貢献する金融商品やサービスを
提供する
金融商品
「みずほエコアシスト<プラス>」
「環境に配慮する経営を行っている」または「環境問題に前
向きな取り組みを行おうとしている」企業、「環境良化・改善を
目的とする設備投資を行う」企業の運転資金・設備資金ニー
ズに対応し、環境配慮型経営の状況を、<みずほ>独自の
評価基準である「みずほエコグレード」により評価し、評価結
果に応じた融資条件の設定を行う
提言その① : 議論をする場の設置
5-1
市場経済の中に「経済性」の評価だけ
ではなく、「環境性」や「社会性」の評
価をも組み入れるシステム構築へ
金融機関
幅広い利害関係者が対等に話し合う場を設ける。
の役割
問題となる善の価値をどう測るべきか、問題ごとに議論をす
る。
融資決定
様々な意見を踏まえて、市場が公共善に役立つ場合と
そぐわない場合を社会として決める。
そのプランの実行
代替案
環境性の捉え方の違いを議論することによって
見方が分かれる問題を社会全体で解決していく。
提言その② : 専門家派遣の推進
「社会にとって利益となることが
企業にとっての利益となる」
長期的な収益思考のスキームを構築へ
企業との相談、
ニーズ開拓、調査
専門家を交えて
現状把握
弁護士、中小企業
診断士、弁理士、
税理士、技術士、
大学教授など
※ポイント
社会性から考える
事業計画書を立案
公的支援、技術の共有(コラボレーション)
やマッチング、専門家の協力など
新事業の創出へ
狙い:融資先企業の成長を促進させる
⇒ 金融機関のCSV活動
5-2
地域社会の活性化
融資先の増加へ
おわりに
提言その①について
議論の場を金融機関が積極的に設けるよ
うになるには、いくつかの段階が必要だ。
まず、人々の問題意識が必要となってくる。
問題に関心を寄せて、それを知ろうとする
人をつくらなければ議論は始まらない。
よりよい地域社会へと発展させる意識を
根付くようにするには、大変な時間と労力
がいるだろうが、国論を二分するような議
題は生まれてくる。
議論をする場=プラットフォームは
今後必要性が増すだろう。
提言その②について
なぜ、長期的な収益思考をしない
のかというと、そこに大きなリスク
が存在しているからだ。
「社会性」や「環境性」から考えるこ
とによって、そこから生まれる成果
を「経済性」に結びつける。このCS
Vが機能すれば、長期的な収益思
考のスキームが構築可能となる。
CSVは体力がある企業でなければ実
現できないだろう。(短期的収益が見
込めないから)よって、金融機関は投
資意思決定における責任が大きいこと
を忘れてはいけない。
参考文献
1.各金融機関のホームページ(日本政策投資銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友
銀行、みずほ銀行)
2.環境省ホームページ報道発表資料「持続可能な社会の形成に向けた金融行動
原則」について
3.国連UNEP Financeホームページ
4.ヘンリクス,エイドリアン 著創成社 (2007/04) 「トリプルボトム・ライン3つの決
算は統合できるか?」
5.マイケル・サンデル 早川書房 (2012/05) 「それをお金で買いますか 市場主
義の限界」
6.アレックス・オスターワルター 翔泳社 (2012/02) 「ビジネスモデル・ジェネレー
ション ビジネスモデル設計書」
7.日経ビジネス (2012/11/26) 31ページ
8. Harvard Business Reviewに掲載されたポーターのインタビュー「Creating Shared
Value -資本主義を再考する」 (2011/01)
ご清聴ありがとうございました。