Transcript 第9回

経済政策
第9回講義
新自由主義の経済政策思想
• はじめに
①新自由主義の歴史
• 新自由主義の源流は両大戦間期→統制経
済化に反対する思想として誕生
• 1947年:モンペルラン協会設立(スイスのモ
ンペルランでF.ハイエクの呼び掛けに応えた
36名で設立、F.ハイエクが初代会長)
• 多数のノーベル経済学賞受賞者を輩出
• 戦後はケインズ主義と福祉国家への痛烈な
批判を展開
• ケインズ経済学が学会の主流であったため、
70年代までは異端の立場
• 福祉国家が揺らいでくる1970年代以降、新
自由主義を信奉する政権が各国で誕生(英:
サッチャー、米:レーガン等)
• 70年代以降は、学会の中心的立場に
②新自由主義=市場原理主義との誤解
• 新自由主義には多様な考えが存在
• 市場原理主義といえるのはその一部
→リバタリアニズムがその代表
• オルド自由主義の場合、国家の役割が強調
される
以下では、リバタリアニズムとオルド自由主
義について紹介
• Friedlich August von Hayek(1899-1992)
• ウィーンの生まれ
• Ludwig von Mises(1881-1973)と並ぶ、オ
ーストリア学派(移住ウィーン学派)の代表的
人物
• モンペルラン協会初代会長
• 1950年からシカゴ大学教授→M.フリードマン
の思想に影響
• 1974年にノーベル経済学賞受賞
• ハイエク思想の特徴
※知識論を基礎に置く自生的秩序の構想
 人々が経済社会生活を送る際に有用な実践的知識
は、各人が分散的に所有
 国家がそれらの知識を集権的に利用することは不
可能
 各人に自由が保障されることで、各人は自らの実践
的知識を有効に活用できる
 こうした自由な活動の中から生じてくる自生的なル
ール(自生的秩序)の下でのみ社会の発展は実現さ
れる
1.リバタリアニズム
• リバタリアニズムにも様々な考えが存在
• 共通の特徴
①自由至上主義:個人の自由をなによりも尊重
しようとする思想
②国家観:国家は個人の自由を制限する存在
→国家の役割をできる限り小さくしようとする
→国家の役割の範囲やその根拠づけの方法
が異なる
• 代表的論者
R.ノージック、M.ロスバード、D.フリードマン
日本では森村進
• 以下では、ノージックとロスバードの思想を簡
単に紹介する
(1)ノージックの最小国家論
①ロックの復習
• ロックの基本的考え:人間の定めた法=実定法以
前に、自然に存在する(人間が生まれながらにもっ
ている)法=自然法、自然権が主張され、この自然
権は国王の権力によっても奪われない
 自然状態:人間は生まれながらにして自由で平等
 自然権の内容:生存権、自由権、私有権
 自然状態は不安定→自然権の維持困難
 自然権を維持するために、社会契約によって国家
が成立
 国家の役割=自然権の保護
②ノージックの最小国家論
• 各人の自然権が維持困難になった時に、ど
のようにして国家が成立するかの過程を論理
的に辿っていくことによって、正当な国家の役
割を明らかにしようとした
現実の国家の誕生プロセスの説明ではない
ことに注意。自然権を基礎においたときに、
正当性をもつ国家とはどのような国家かを論
理的に説明するもの
各人の自然権の
維持困難
私的な権利
保護協会A
の設立
私的な権利
保護協会B
の設立
・・・・・・・・・・・・・・
私的な権利
保護協会Z
市場での私的な権利保護協会の間の競争
一つの最も有能
な権利保護協会
が生き残る
=
国家=最小国家
の誕生
• 国家の役割は、権利保護に、すなわち暴力、
盗み、詐欺からの保護等に限定
ノージックの言う最小国家は、夜警国家に等
しい
政策思想としては、古典的自由主義思想と変
わらない
(2)ロスバートの無政府主義
• ロックの自然権思想(特に労働所有権)を基
礎に財産権を絶対不可侵の権利として把握
• この絶対不可侵の財産権を侵害する存在と
して国家をとらえることによって、国家の存在
を否定
• 興味深い論点
①夜警国家(最小国家)さえ不要と主張
→権利保護も市場に任す(純粋な市場原理主
義者)
 ノージックとの違い:保護ビジネスの競争から独占
が生じるとは考えない=競争状態が維持されると見
ている
②一般的に不道徳的行為と思われるものも、各人の
自由にゆだねる
例:ポルノ、ドラッグ等
③奴隷になる自由はあるのか?
• 各人は、身体・意志に対する絶対的財産権をもつ
• 奴隷契約を結ぶ自由はあるが、その契約は執行不
能と見なす
2.オルド自由主義
• ドイツの新自由主義の中心的思想
• 年報『オルド』を中心に論陣を張ったことから
オルド自由主義と呼ばれる
• 戦後ドイツの社会的市場経済を支えた思想
的支柱
• 代表的論者:フライブルク学派と呼ばれるW.
オイケン、F.ボェーム、社会学的新自由主義
と呼ばれるW.レプケやA.リュストウ
• オルド自由主義の特徴
(1)第三の道の選択
• 社会主義を否定するだけでなく、古典的自由主義(
レッセフェール自由主義)をも痛烈に批判
• 古典的自由主義批判の論理
 レッセフェール=勢力支配の自由をも放任
①市場支配的勢力の出現
 独占化・寡占化の進行に伴う経済的諸問題の発生
 市場支配的勢力は政治の世界をも支配
→民主主義の危機
②大量の経済的弱者の発生(レプケは「プロレ
タリア化」と呼ぶ)
物質的にも非物質的にも生存の支えを奪わ
れた存在
人々はひたすら国家に救いを求める
国家活動の肥大化(=福祉国家化)
人々から自立の精神は失われ、国家の奴隷
と化す
※福祉国家はこうした大衆の要求に迎合したも
のにすぎず、レッセフェールの成れの果て
→ベヴァリジ・プランへの痛烈な批判
• 社会主義批判の論理
①計画経済の困難性
• 1920年代~30年代の社会主義経済計算論
争で示された問題
②勢力支配の完成体
• プロレタリア化の解決たりえない
(2)「競争秩序」の選択
• 競争秩序=市場支配的勢力のない競争的市場
• 競争秩序選択の理由→「オルド」の理念
• オルド=「人間と事物の本性に合致した」秩序
 人間の本性=自律性
→自由の保障が不可欠
 事物の本性=希少性
→効率性が必要
 自由と効率性を保障する秩序枠として競争秩序が
選択
(3)競争秩序の育成
• 古典的自由主義とオルド自由主義の差異
古典的自由主義:競争秩序は自ずから成立
オルド自由主義:競争秩序は放任すれば崩
壊(レプケは、競争秩序を「自生植物」ではな
く、「栽培植物」と位置付ける)
→競争秩序を形成・維持するためには、国家
による
強力な経済政策が必要
(4)オルド自由主義の政策体系
①秩序政策と経過政策の明別
• 国家のなすべきことは、競争秩序を形成・維持する
ための秩序政策
• 経過政策には懐疑的→ケインズ政策への批判
②反独占政策の重視
• 市場の支配を求める勢力競争が経済力の集中を導
いて、市場そのものの崩壊を招くことを避けるため
に、独占を厳しく取り締まる(一般禁止原則)
③社会政策の主張
• ベヴァリジ型の社会保障政策ではない
• 財産形成政策の主張
自立した生活基盤としてある程度の財産をも
つことが不可欠
プロレタリア化の克服
• 共同体の再生
コミュニタリアニズムとの共通性