曝露レベル別観察人年を再集計した

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Transcript 曝露レベル別観察人年を再集計した

小児期被爆者のがん死亡
後藤ひとみ1 、渡辺智之2、宮尾克2、福田博美3、
佐藤祐造3、押田芳治
1 愛知教育大学養護教諭養成課程
2 愛知学院大学心身科学部健康栄養学科
3 名古屋大学大学院情報科学研究科
4 愛知学院大学心身科学部健康科学科
5 名古屋大学総合保健体育科学センター
はじめに

最近の研究では、小児がんの危険要因と
して遺伝子異常、感染症、環境要因、およ
び電離放射線について言及している。

現在も放射線影響研究所(Radiation
Effects Research Foundation: RERF)に
よって、原爆被爆による放射線の健康影
響、特にがんの発生と死亡についての調
査研究が行われている。
2
先行研究

渡辺ら(2008年)は、放影研の寿命調査(Life
Span Study: LSS)第12報における広島原爆
被爆者のがんリスクを分析するため、LSS第
12報のデータに基づいた標準化死亡比
(Standardized Mortality Ratio:SMR)を算出
した。

この研究では、原爆投下時に0~34歳であっ
た初期放射線低線量被爆者でも、真の非被爆
対照群(広島、岡山県の全住民)と比較し、い
くつかのがんで高いSMRを示した。
3
先行研究

子どもの放射線リスクに関する現在の疫学的知
識、特に低被曝量の電離放射線に曝露されたも
のは、調査対象が少数であるため、成人を対象
にした報告ほど多くはない

出生後の診断放射線照射の後の小児がんリス
クも、それほど多く研究されていない。

Stewartら(1956年):小児における診断用の電離
放射線の潜在的リスクについて報告。

DollとWakeford(1997年):excess absolute risk
(EAR)の推定や、多くの症例-対照研究の結果か
ら、Stewartらによって報告された関連性を支持。
4
先行研究


Hammerら(2009年):診断用X線で検査され
た約10万人の子供に対し、診断用放射線に
よるがんリスクの増加がみられなかったと報
告。
小児期に放射線に被爆したコホートによる研究
は、研究によって結果が異なり、その影響が不
明確であるため、小児期における放射線被曝と
がんとの関連性の原因解釈には論争が続いて
いる。
5
目的

追跡期間において寿命調査(LSS)12報
における広島・長崎の被爆者が、1945年
当時に年齢0歳~14歳であった日本全国
民並みに死亡したと仮定した場合、被爆
者の全死亡や各種のがんによる期待死
亡数がどの程度になるかを推定し、標準
化死亡比(SMR)を用いて比較した。
6
対象

対象期間:
1950年10月1日-1990年12月31日
対象年齢:
0~14歳(1945年当時)(追跡後の1990年には45
~59歳)


結腸線量区分(3区分):
0-0.005 (Sv) :(極低線量) ・・・・
0.005-0.1 (Sv): (低線量)・・・・・
Km
爆心地からの
距離(目安)
2.7 ~ 10 Km
1.4 ~ 2.7
7
対象
LSSグループ
寿命調査第12報(LSS 12)における
広島・長崎の被爆者集団
極低線量
低線量
グループ(VLD) グループ(LD)
【0.005 Sv未満】 【0.005-0.1 Sv】
比較
比較
高線量
グループ(HD)
【0.1 Sv以上】
比較
日本全国対照群
(JPCG)
【日本人の全人口】
対照群
8
性別・線量別LSSグループの内訳(広島)
(人)
9
性別・線量別LSSグループの内訳(長崎)
(人)
10
性別・線量別LSSグループの内訳(広島・長崎)
(人)
11
対象疾患

全死亡

全がん

白血病

肺がん

固形がん


胃がん
女性の乳が
ん

子宮がん

結腸がん

肝臓がん
12
方法:SMRの算出方法
1. 観察人年の算出

放影研のデータ(LSS第12報)から期間別・
性別・被爆時年齢別・曝露レベル別観察人年
を再集計した
2. 観察死亡数(O)の算出

放影研のデータ(LSS第12報)から期間別・
性別・被爆時年齢別・曝露レベル別・疾患別
死亡数を再集計した
13
3. 期待死亡数(E)の算出

放影研が追跡している生存被爆者(LSSグルー
プ)が、追跡期間中にJPCGの各年齢階級並み
にがん等で死亡した場合、どの程度の死亡が期
待されるかを表す
LSSグループの期間別・性別・被爆時年齢別・
曝露レベル別・疾患別観察人年(O)
×
の総計
JPCGにおける放影研データ
に対応した死亡率
14
4. 標準化死亡比(standardized mortality
ratio: SMR)の算出

観察死亡数O:実際のLSSグループの死亡数

期待死亡数E:LSSグループがJPCG並みに死
亡した場合の期待死亡数
SMR = O/ E
SMR > 1のとき、JPCGよりもLSSグループ
の死亡リスクが大きい
15
5. SMRの95%信頼区間(confidence
interval: CI)の算出

95% CI
信頼下限=1/(2E)χ20.975 (2O)
信頼上限=1/(2E)χ20.025 (2O+2)
※ χ20.975(2O) は、自由度2Oで、カイ2乗
値の上限確率が0.975であったときに得ら
れる値
16
結果:SMR (LSSグループ全体 vs JPCG)
男性、被爆時年齢0-14歳、1950-1990年
* p<0.05
** p<0.01
**
**
**
**
**
17
結果:SMR (LSSグループ全体 vs JPCG
女性、被爆時年齢0-14歳、1950-1990年
* p<0.05
** p<0.01
**
**
**
*
18
結果:SMR (LSSグループ(極低線量) vs JPCG)
男性、被爆時年齢0-14歳、1950-1990年
* p<0.05
** p<0.01
**
**
19
結果:SMR (LSSグループ(極低線量) vs JPCG)
女性、被爆時年齢0-14歳、1950-1990年
* p<0.05
** p<0.01
**
20
結果:SMR (LSSグループ(低線量) vs JPCG)
男性、被爆時年齢0-14歳、1950-1990年
* p<0.05
** p<0.01
**
*
**
21
結果:SMR (LSSグループ(低線量) vs JPCG)
女性、被爆時年齢0-14歳、1950-1990年
*: p<0.05
**: p<0.01
*
*
22
結果:SMR (LSSグループ(高線量) vs JPCG)
男性、被爆時年齢0-14歳、1950-1990年
*: p<0.05
**: p<0.01
**
**
**
**
**
23
結果:SMR (LSSグループ(高線量) vs JPCG)
女性、被爆時年齢0-14歳、1950-1990年
*: p<0.05
**: p<0.01
**
**
**
**
**
*
24
結果のまとめ

がん部位別:男性


全死亡、全がん、白血病、固形がん、
肝がん
がん部位別:女性

固形がん、肝がん、乳がん
で、SMRが日本全国民に比べて有意に
高かった。
25
結果のまとめ

線量別:男性
 極低線量:全死亡と肝臓がん
 低線量:全がん、固形がん、肝臓がん
 高線量:全死因、全がん、白血病、固形がん、
肝臓がん

線量別:女性
 極低線量、低線量:肝臓がん、子宮がん
 高線量:全死因、全がん、白血病、固形がん、
胃がん、乳がん
で、SMRが日本全国民に比べて有意に高かった。
26
考察:幼児期被爆のがんリスク(先行研究)

このコホートは被爆当時は子どもだったため、被
爆者として登録された死亡は少数であった。した
がって、いくつかの死因では有意差に至らなかっ
た可能性がある。

Prestonら(2008年):幼児期被爆者の長期的で
連続的な追跡を行なっているコホート研究の1つ
である。この研究では、幼児期被爆者の放射線
被爆が成人期固形癌発症リスクの増加に関連し
ている根拠を示している。
27
幼児期被爆のがんリスク

Hammer ら(2009年):胎内放射線被曝の成人期発
症のがんリスクの上昇は、幼児期被曝によるリスク
上昇よりも小さい可能性を示唆した

Ostroumovaら(2005年):Techa River周辺の居住
者で、胎内および出生後から5歳までに放射線に被
曝した者を対象に、49歳までのがん死亡率を調査。
 放射線被曝と固形癌のリスク増加は統計的に有
意ではなかった。
 胎児期と出生後の骨髄線量と白血病発症率との
間に有意差はみられないものの、強い関連が示
唆された。
28
考察:LSSの問題点

LSS報告書では放射線被曝の程度をDS86やDS02
(the dosimetry system 1986 and 2002)を用いて推定
してきたが、これらは初期放射線のみを線量として評価
し、残留放射線を線量評価に含めていない。

放影研による研究には、 いくつかの問題点がある:
1. LSSでは被爆した対象者の残留放射線量が調査さ
れていない
2. ノンゼロ被爆者(本研究の極低線量被爆者)を非曝
露対照者として用いた比較による結果を示している

LSS報告書は、バックグラウンドリスクを実際よりも高く
算出している可能性がある。
29
考察:本研究の評価方法の妥当性

本研究は日本全国集団を用いることで、真の非被爆対
照群と比較したSMRを推定した。

一般に、3群間(極低・低・高線量)で年齢分布が異なる
場合には、完全には標準化ができないため、3群間の
用量反応関係を評価するためのSMRの比較は困難。

本研究では各線量区分と日本全体対照集団(JPCG)
をそれぞれ比較した。

ただし、本研究における3群の区分の性-年齢分布は似
ているので(次図)、3群のSMRはそれぞれのリスクの
大きさに近いであろうと考えられる。
30
LSSグループの線量グループ別被爆時
年齢分布(男性;広島・長崎)
31
LSSグループの線量グループ別被爆時
年齢分布(女性;広島・長崎)
32
考察での検討(疾患別)
 白血病
 肝臓がん
 固形がん
33
白血病

本研究で白血病のSMRが低かった1つの可能性と
して、特に白血病や甲状腺がんの発症年齢が若い
場合、小児がんの潜伏期間は成人とは異なってい
る→1950年以前には相当数の子どもが死んでいる
ことが挙げられる。

Delongchampら(1997年):「1948年以前の白血病
死亡データが無い可能性がある。1950年10月以前
に死亡があり、死因別死亡が不明な1948年以前に
これらの死亡の多くが発生していた」と述べている。

Delongchampらの研究デザインは我々の研究とは
異なるが、追跡期間は我々の研究と同じ1950年以
降である
34
白血病

胎内被爆と小児がんとの関連を支持している研
究もある。

しかし、胎内被爆と固形がんリスクとの関連に
ついては、そのような影響があるかどうか疑わ
しいとする見解から全体の小児がんリスクは大
きいとする研究まで幅広く、コンセンサスがほと
んど得られていない。

放影研でも原爆被爆者の白血病は、被爆後比
較的すぐに発症し、近年だけをみても症例数は
特別高いわけではないという報告もある
( Shimizu ら(1989年))。
35
白血病

SMRの推定値も低くなった可能性があるが、
白血病の例数が少ないため白血病死亡によ
るSMRの95%信頼区間の幅も大きく、有意差
もみられない

必ずしも極低線量と低線量でSMRが低いと言
い切れず、さらなる追跡による検討が必要。
36
肝臓がん

本研究では、極低線量グループにおいてJPCG
と比較して、有意な死因がそれほど多くなかった。

肝臓がんのSMRが、他の部位のがんとは異なる
傾向を示していることから、放射線被曝とは別の
要因が肝臓がん死亡の主な原因となっている可
能性がある。

例えば、放射線被曝とは関連がない肝炎ウイル
スは、いくつかの研究で肝臓がんの大半に関わ
っているため、放射線とは別の原因(例えば医原
性の要因)を否定できない
37
固形がん

低線量グループの男性固形がんにおいて日
本全体対照集団(JPCG)と比較して有意に高
いSMRを示したのは、肝臓がん死亡率の高さ
が影響しているかもしれない

ただし、これについては信頼性の高いエビデン
スがないため、我々の仮説を検証するのは難
しいかもしれない
38
最後に

真の非曝露対照群(JPCG)との比較は、初期放
射線の評価をする上で重要。

小児期に放射線に曝露した原爆被爆者は、現在
がん発症率が急増する時期である65歳を超えて
いる。

それゆえ、このコホートのさらなるフォローアップ
は小児期の初期放射線被曝における成人期の
がん発症リスクを追跡する新しい知見を提供す
る上で重要であろう。
39