最終講義資料 - 電気電子情報通信工学科

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最終講義へのn番目の講義:
世界における工学教育の新しい流れ
2012年1月21日(土) 15:30-17:00
中央大学理工学部後楽園キャンパス 5号館 5階 5533号室
篠田庄司
(工学博士、電子情報通信学会フェロー・名誉員、
日本シミュレーション学会フエロー、 IEEE Life Fellow)
中央大学理工学部
電気電子情報通信工学科 教授
[email protected]
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プロローグ
「学問(study)」とは「学び」という「学ぶ活動
(activity of learning)」のことで、その対象は、通常、
「体系化された知識という形態か、言語ないしはそれに
付随する記号体系によって伝達可能な形に、すくなくと
も、整備されているもの」である。村上陽一郎氏は、そ
の対象を「学問化されている(もの)」と述べている。
ヘンリー・ダイアーは、「情報とは孤立した知識の断片
であり、それらの諸事実の間に存在する関係を熟知した
とき、初めてそれらの知識となる。そして教育とは、そ
うした知識の習得を通じて、独創的、創造的、個性的な
アイディアを生み出す力を引き出すことにある。そうで
なければ、学生は単に知識の奴隷となるにすぎない。」
と述べている。
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工学とは?
オックスフォード学習者辞書でのエンジニアリング(engineering)
とは、「科学的知識を、機械、道路、橋、電気機器や装置等の設計、
製造、制御へ応用する活動(activity)」、または、「その活動を
行うための学問(study)」と記述されている。ここに、その学問
を、我が国では明治時代から
工学
と呼んでいる。1886年(明治19年)の辞書の「工学字彙」
(こうがくじい)には、engineeringの訳語として「工学」が載せ
られ、engineer の訳語として「工師」が載せられている。参考で
あるが、中国語では、engineeringの訳を工程といい、その学問を
工程学といい、engineerの訳を工程師という。大辞林では、工程は、
「物品の生産・加工を計画的・能率的に行うための作業の手順。ま
た、作業の各段階。」と説明されるものであり、後で述べるが、エ
ンジニアリングの活動の主部であるエンジニアリング・デザインの
意味でもある。関連が興味深い。
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我が国の工学教育の誕生
山尾庸三は1863年(文久3年)に伊藤博文、井上馨、井上勝、遠藤勤助
とともに密かに横浜港から英国船で英国に渡り、山尾以外は帰国するが、
山尾はロンドン大学で学び、その後1866年から1868年まで、ス
コットランドのグラスゴーにある造船所で職工見習として働きながら、夜
学のアンダーソン・カレッジで造船技術や鉱山学などを勉学していた。
その山尾は、明治維新を聞くや帰国し、明治政府で伊藤らとともに働くこ
とになり、西欧に追いつくための殖産興業の必要性から、1870年(明治3
年)に設けられた工部省を拠点とし、そこで働くエンジニア(engineer)を
養成することを目的とした
工学寮(Imperial College of Engineering)
を1873年に設けた中心人物となった。
この寮とはcollegeのことである。英国では、当時、collegeの学生は寮
に入り、寮からcollegeの教室に通い、勉学していたためか、誰がそのよう
な対訳をしたのかは不明である。
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工学寮の初代都検(のちに教頭と改称;実質的な校長)には、伊藤博文の
要請を受け、英国のグラスゴー大学のウイリアム・ランキン教授に選ばれ
たヘンリー・ダイアー(グラスゴー大学で修士号を得た25歳の青年)が1
873年6月に来日し、工学寮の工学教育を一任された。ダイア―は、来
日する船の中で、グラスゴー大学以外の英国の大学での工学教育は理論を
離れて、技能を身に付ける実地の徒弟的訓練に偏り過ぎていたことを知っ
ており、また、欧州大陸のフランスやドイツなどの大学では、テクノロ
ジーの意味での技術の学問的側面と関連基礎理論だけを授けるテクノロ
ジー教育が行われていたことを知っていたことから、両者を融合させ、工
学教育の基本方針として、学問と実地訓練のバランスを十分に考慮し、
1)最初の2年間は、予備的基礎教育(自然科学、英語、地理学、数学初歩、機械
学初歩、理学初歩、化学、図学など)、
2)次の2年間は、工学専門分野の教育としての講義と多少の実地的応用
(電信学、機械学、土木学、造家学、実地科学及び冶金学、鉱山学の6分野のうち一つを専門
的に学ぶ)、
3)次の2年間は、実地訓練(試験場という実習場、実験場での現場訓練)
という6年間の教育として設計した。
そして、3)の後、もう一度、学問で身に付けた知識体系との関連付けを
した上で、試験に合格すれば、エンジニアとしての免許を与え、工部省に
奉職させるものであった。
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工学寮での工学教育内容と実施は1873年(明治6年)8月から、工学
寮において、英語(日本人スタッフ付き)で、ダイア―を含め9人の英国
人によって教えられた。
工学寮に関するニュースは、 1873年、1877年、1904年のネイ
チャーに載せられた。その全文の訳は、ネイチャー側の許可のもと、小山
氏の“Natureの記事から読むダイアーの描いた理想”として、 2011年
2月号の電子情報通信学会誌に掲載された。
工学寮の諸規則では、たとえば、教育に対する校長と教員の役割を明確に
し、教員には、
①行き届いたシラバスの作成を義務化し、
②2週間ごとに学生に小試験を行い(あるいは、より頻繁に行うことも考え
て)、
③学生の理解度と学習進捗状況を丹念にチェックし、
④その結果を校長へ報告しなければならない
などを定め、学生には朝から夜までひたすら学習させていた(勉強させて
いた)とのことである。
そこには、「学生が何を学習したか」という観点がなければ、「教員が何
を教えたか」という観点が意味を持たなくなるという考えが徹底されてい
た。
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ダイア―の母校のグラスゴー大学は産業革命の発祥の地にあり、欧州では
珍しくカリキュラムのなかにエンジニアリングの考えがある程度含まれた
先進的な教育を行っていた特異な大学であった。その特異性は、ケルビン
卿(Lord Kelvin;ケルビンの名は現在絶対温度の単位として使われている)
となったウイリアム・トムソン(William Thomson)が教授であったことに依
存していた。そのトムソンは、テクノロジーの意味の技術と自然科学の両
面において貢献し、なかでも、1855年に単位長当たりの直列抵抗と並
列キャパシタンスのみからなる分布定数線路の方程式を考察し、大西洋を
横断する海底電信ケーブルの敷設と関連して、いくつかの有用なテクノロ
ジーの意味での技術を創造し、特許を取得し、エンジニアリングの考えの
重要性を示していた。
そのグラスゴーで教育を受けたダイアーには、「エンジニアは、社会進化
の旗手である」という思想が植え付けられ、「エンジニアには、語源的に、
いかなる問題であれ、その解決のために自己の創意を駆使する」という意
味があり、その含意するものは非常に広いと考え、「エンジニアリングと
は大きな産業と関係する専門職のすべてを包含する広い意味を持つ」と考
えていた。
ダイアーは、「エンジニアは、学力、実践力、教養のある、学問ある専門
職とならなければならなく、技術偏狭と見られないように、常に時間を見
つけ、自学習で、哲学的古典、優れた人物の伝記、歴史、詩などを読むほ
か、美術の鑑賞などの幅広い教養を身に付けることが重要である」ことを
説いていた。
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ダイア―の教育方針についてダイア―の自信を深めさせたと思われるのは、ロンド
ンのユニヴァーシティ・カレッジで物理学と電気力学を学んだエアトン(William
E. Ayrton)が教員として参加していたことである。というのは、エアトンは、そ
のカッレジ卒業後、熱力学と電気力学で有名であったトムソン(ケルビン卿)に招
かれてトムソンのところで、仕事をした経験を持ち、また、トムソンは、工学寮に
来る前に、インドで電信の施設に従事し、スコットランドに戻って電信会社で仕事
をした経験を持ち、ダイア―の考えやエンジニアリングとはなにかを理解できたと
思われるからである。エアトンは電池を使ってアーク灯の点灯試験を1875年に
行い、1879年の3月25日に中央電信局の開設の祝宴のときにアーク灯を点灯
させことでも有名である。現在、我が国では、3月25日は電気記念日となってい
る。工学寮の名称は1877年に工部大学校と改称されたが、英語名称はそのままにさ
れた。
「注:1873年に工学寮に入学し、1879年に工部大学校の第一回卒業生となった学生
に志田林三郎がいた。志田は成績優秀であったため1880年にグラスゴー大学に留
学が認められた。志田は1883年に帰国後工部大学校の教授となった。1885年に、
隅田川を挟んで送受信間を導線で結ぶことなく通信する実験に成功した。それは、
電波によるものでなく、電磁誘導によるものであったと思われるが、マックスウ
エルの「電波の存在」についての予想を確認するヘルツの実験よりも1年前(ヘ
ルツの実験結果の発表の3年前)で、マルコーニやポポフの無線通信の実験の10
年前であったことに注目すべきである。また、電気学会を設立することにも尽力
した。しかし、残念ながら、若くして死んでしまった。」
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ダイア―は1873~1882年の間務め、退職し、明治政府から勲三等
を授与され、1883年に英国に戻った。工部大学校は、1886年(明治19
年)の省の見直しにより、工部省が廃止され、文部省の所轄となり、帝国
大学の一つの学部の工学部となって編入された。その帝国大学は世界で最
初の工学部を持つ大学となった。その帝国大学が現在の東京大学である。
我が国では現在までに、電気電子工学系では、通信工学科が最初にでき、
次に電気工学科ができ、その次に、電子工学科ができ、その次に情報工学
科ができたことになる。電気工学科と電子工学科の融合で電気電子工学科
となり、電気工学科と通信工学科の融合で電気通信工学科となり、すべて
の融合で、電気電子情報通信工学科となっている。
参考文献:
村上、工学の歴史と技術の倫理、岩波書店、2006
三好、ダイアーの日本、福村出版、1989
ダイアー(平野訳)、大日本、実業之日本社、1999
小山、“Natureの記事から読むダイアーの描いた理想”、電子情報通信学
会誌、vol.94, no.2 pp.8-113, Feb. 2011
渡部、“技術と科学と境界と -基礎・境界ソサイエティの若い研究技術
者に期待する”、電子情報通信学会FR誌、vol.1,
no.2 pp.4-12, 2007 9
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第2次世界大戦後、GHQが文部省の存続を認めるかどうか不明であった。そ
のような状況の中で、新制大学が設置されはじめた。大学基準協会の20
01年出版の「大学評価を読む」の「はしがき」に、「大学基準協会が戦
後まもなく設立され、次々に設置される新制大学のあるべき教育基準を提
示し、時代の変化に対応しつつ我が国の高等教育水準の維持向上に努めて
50年を超える年月が流れ、現在にいたっている。ある時期から、文部省
の大学設置・学校法人審議会に仕事を譲り、半ばの数の委員を送る形で創
立時の役目を続けてきた。残る大部分で、現在の大学基準協会の主な仕事
となったが、自律的に大学としての品格・教育研究機能を高めていくため
に、互いに第三者となって大学相互に評価しあい、切磋琢磨して日本の大
学を良くしていくという、第三者評価の担い手としての役割である。大学
設置基準協会は、日本の国公私立大学群が自ら組織し、全大学671校の
80.6%にも及ぶ541校(2001年5月18日現在)が加盟して、
各大学にとっての第三者評価機構としての働きを洗練させつつその教育研
究の質の向上に努めている。半世紀を超える長い歴史を持つ組織である。
その最大の特徴は、自らの知恵と資金で大学がその質を保証し会い、向上
し会う自律的機構であることにある。・・・」と書かれている。
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我が国には大学の認証評価機構ができるまでは設置基準と工学視学(7年に
一度のチェック)があって、 緊張感の中で、4年制大学の工学部や理工学
部の工学系学科における工学教育は、(教える側の気持ちとしては)
「人類のために役に立つものを、適切な判断のもと、独創的に開発するために
必要とされる数学と自然科学の知識、ならびにその知識の上に組み立てられ
た工学基礎と工学専門の知識(方法を含む)を身に付け、同時に、幅広い人文
社会科学的知識(方法を含む)も身に付ける教育」
となって、ダイアー基本方針は忘れ去られていたが、その基本方針の1)
と2)の内容が実質的に現代化されていた。ここに、人類のために役に立
つものの「もの」とは、システム、コンポーネント、プロセス、方法、構
造物など(ハードウエア、ソフトウエア、または、それらの組み合わせ)
を意味する。しかし、ダイヤーの基本方針の3)の内容は、経済発展もあ
り、卒業後に会社に入ってから、会社が望む人材に育成する社内教育や、
現場でのOJT (On-the-Job-Training)で実務との関連の中で学習させていた
ため、大学はそれに全面的に甘えていたと思う。しかし、バブルの崩壊後、
長い経済低迷の中で、会社ではその余裕がなくなり、それとともに、大学
は、教育改革を余儀なくさせられる段階に入った。
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一方、米国では、1932年に学協会が集まって設立された認定機関(民間組
織)のAccreditation Board of Engineering and Technology(ABET)の
Engineering Accreditation Commission(EAC)という委員会では、 1996
年以前から、工学教育について
「何を教えるか」というteachingの観点から
「何が学習されたか」というlearningの観点への
改革の必要性が認識され、1996年に工学教育の改革の方向について検討結
果が出された。それは、4年制大学の工学系学科では、専攻分野に関連する
数学と自然科学の知識、その知識の上に組み立てられる工学知識を身に付
けさせることをこれまで通り維持し、さらに、
①効果的にコミュニケーションできる能力、
②効果的に仕事ができるチームワーク力、
③グループによる問題解決スキル、
④エンジニアリング活動に対する倫理の自覚、
⑤人文社会科学の知見
等を身に付けさせることにも力を入れる内容にパラダイム・シフトさせる
ものであった。(ダイアーの「何が学習されたか」の現代版?)
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それは、米国の4年制大学の学士教育課程の工学教育のプログラム(履修
要綱等に記載されているもので、カリキュラムだけでなく、修了資格の評価・判定を含めた入
学から卒業までのすべての教育プロセスと教育環境を含む学科の総称)の認定審査のため
の認定基準を、工学基準2000(略して、EC2000)という新しい認定基準に
改正し、新基準に要求されている「学生が卒業時点までに身に付けるべき
共通の能力等(outcomes;アウトカムズとが学習到達目標という)」を
すべて、学生が卒業時点で実際に身に付いているかどうかの
✓アセスメント(根拠となるデータを同定し、集め、準備する一つまたは複数のプロセス)と
✓評価(アセスメント・プロセスを通して集積されたデータを解釈する一つまたは複数のプロセス)
を行い、学習到達目標を達成した学生のみを卒業させるとともに、プログ
ラム運営組織側に継続的な教育改善を促すものである。EACでは、EC2000に
基づく認定審査システムが導入され、1996年から一部の申請希望プログラ
ムに対し、2000年からすべての申請プログラムに対し、認定審査が実施さ
れた。
なお、認定されたプログラムの修了生を工学修了生(engineering
graduates)とか工学卒業生という。
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ABETのEC2000のCriterion 3. Program Outcomes (アウトカム;学習到達目標)の内容
Engineering programs must demonstrate that their students attain the following
outcomes:
(a) an ability to apply knowledge of mathematics, science, and engineering
(b) an ability to design and conduct experiments, as well as to analyze and interpret data
(c) an ability to design a system, component, or process to meet desired needs within
realistic constraints such as economic, environmental, social, political, ethical,
health and safety, manufacturability, and sustainability
(d) an ability to function on multidisciplinary teams
(e) an ability to identify, formulate, and solve engineering problems
(f) an understanding of professional and ethical responsibility
(g) an ability to communicate effectively
(h) the broad education necessary to understand the impact of engineering solutions in a
global, economic, environmental, and societal context
(i) a recognition of the need for, and an ability to engage in life-long learning
(j) a knowledge of contemporary issues
(k) an ability to use the techniques, skills, and modern engineering tools necessary for
engineering practice.
Program outcomes are outcomes (a) through (k) plus any additional outcomes that may
be articulated by the program. Program outcomes must foster attainment of program
educational objectives.
There must be an assessment and evaluation process that periodically documents and
demonstrates the degree to which the program outcomes are attained.
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学習到達目標を身に付けるためのカリキュラム
(a) 学生の学習する専門分野にふさわしい学部レベルの数学と自然科学(実験
的経験を持つものを含む)を組み合わせたものについて1年分の授業
(b) 学生の学習する専門分野にふさわしいエンジニアリング・サイエンスの科
目(講義、演習、実験、PBL、実習、研究など)とエンジニアリング・
デザイン科目について1年半分の授業
(c) 上記の(a)と(b)の授業内容を補完し、プログラムと教育機関の両方の目的
に適合する一般教養的要素(倫理とビジネス実践、コミュニケーション力、
チームワーク力、関連人文社会科学の知見等を育成する科目)の授業
が含まれなければならないとしている。 なお、エンジニアリング・サイエン
スとは、数学と自然科学の間を橋渡し、それらの知識をエンジニアリング活
動における実際的問題へ応用する学問(数学と自然科学を創造的に応用する
知識体系)で、我が国では、大阪大学のように基礎工学ともいうが、米国・
カナダでは、具体的には、数学的または数値解析的技法、モデル化とシミュ
レーション、実験的方法を含む。学生の学習する専門分野に関係なく、なか
でも、電気回路、電子回路、自動制御、コンピュータ科学、材料科学の要素、
材料力学の応用的側面、機械力学(静・動力学)、流体力学、熱力学、空気
力学、土質力学、環境科学、地球科学などの科目を含むと述べられている。
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また、エンジニアリング・デザイン(工学デザイン)とは、数学、
ABETでのプログラム認定には、
基礎科学(自然科学)、エンジニアリン・サイエンス(基礎工学)な
Engineering Accreditation(EA)
らびに、それらを補完する人文社会科学を統合的に用い、経済的、
Computing Accreditation(CA)
環境的、社会的、政治的、倫理的、健康と安全、製造可能性、持続
Applied Science Accreditation(ASA)
可能性などの現実的な制約の範囲内で、ニーズに合ったシステム、
Technology Accreditation(TA)
コンポーネント、プロセスを工夫(考案・案出)する、しばしば反
の4種類の認定があり、 Engineering Accreditation
復的である、意思決定の工程である。その工程を達成させる統合的
の認定が、技術者教育プログラム(engineering education
能力をデザイン能力という。この能力は、工学教育プログラムの達
program)の認定である
成目標のなかで、最も重要視されている知識・能力等の集積として
位置付けられている能力である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
工学教育認定(Engineering Accreditation)が他の認定と
我が国では、卒業研究が新しい知見や成果を生み出すことを目指し、
明確に異なる要素は
調査力、自己学習力、課題発見力、課題解決力、研究力、創造力、
Engineering Design
工夫力等を向上させるものとして位置づけられているが、米国では、
である。
卒業研究は選択で、授業科目として設けている大学は10数%であ
るといわれている。
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チームの置かれる環境やチームを形成するメンバーの多様性に大き
く依存するが、チームで、相互に効果的なコミュニケーションを行
い、チームのメンバーの能力の組合せで、相乗的に、困難性の原因
となっている部分を適切に把握し、困難性克服のための独創的な新
奇なアイディアや効果的な解決策がタイミング良く生みだされる可
能性がある。しかし、タイミングの良く解決策を生み出す方法は学
問としてまだ確立されていない。
米国の例では、4年次の集約科目であるエンジニアリング・デザ
イン経験科目で、学生を4、5人のチームに分け、チームごとに教
員側のテクニカルアドバザーが付き、社会的ニーズに合った(人類
のために役に立つ)システム、コンポーネント、プロセス、(ソフ
トウエアを含む)をデザインする問題について、チームワークで、
定められた期間内に、複数の解決策を創造的に考え出し、それらの
解決策をコスト、美的要素、公衆の健康・安全,文化、経済,環境,
倫理等の観点からも検討・評価し、妥当な解決策を選択し、具体的
に解決する(目的のものを開発・実現する)オープンエンドな工程
を経験学習させている。その際、その授業の締めくくりとして、全
体の成果発表会を設け、同窓会の協力も得て、チームごとに成果を
発表させると同時に、他のチームの成果を聞かせ、エンジニアリン
グ・デザインに対する理解を深めさせる場としている。
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全体の成果発表会での採点根拠表の評価観点の例
ECE 396 Senior Design I EXPO Judging Criteria
Each criterion below is scored on a scale of 1 (poor) to 5 (excellent). The maximum points
for technical content and oral presentation is 30 points each giving a maximum overall
score of 60 points for a project per judge.
Quality of the Technical Content
1. Was the project clearly defined?
2. Were design alternatives thoroughly evaluated with satisfactory justification for the
design that was chosen?
3. Were factors influencing the design adequately considered, i.e, cost, weight, efficiency,
etc.?
4. How well was the overall objective satisfied?
5. How innovative was the project?
6. How practical was the project?
Quality of the Oral Presentation
1. Confidence (i.e., eye contact, introduction, appearance)
2. Knowledge of material
3. Organization and clarity of presentation
4. Conciseness of the project definition
5. Use of English (spelling, grammar, etc.)
6. Quality and effectiveness of visual aids
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全体の成果発表会での採点根拠表のサンプル
University of Illinois at Chicago
Judges Name:
Department:
Project Title:
Engineering EXPO 20xx EXPO JUDGING FORM (Sample)
Signature
Table Number:
Category:
Technical Questions Poor Excellent 1 2 3 4 5
1. Was the project objective clearly identified? ___ ___ ___ ___ ___
2. Were design alternatives thoroughly evaluated with satisfactory justification for the design chosen? ___ ___ ___ ___ ___
3. Were factors influencing the design adequately considered, i.e., cost, weight, efficiency, etc.? ___ ___ ___ ___ ___
4. How well was the overall objective satisfied? ___ ___ ___ ___ ___
5. How innovative was this project? ___ ___ ___ ___ ___
6. How practical was this project? ___ ___ ___ ___ ___
Total Technical Score
Quality of the Oral Presentation Poor Excellent 1 2 3 4 5
1. Confidence, i.e., eye contact, introduction, appearance ___ ___ ___ ___ ___
2. Knowledge of the material ___ ___ ___ ___ ___
3. Organization & clarity of presentation ___ ___ ___ ___ ___
4. Conciseness of project description ___ ___ ___ ___ ___
5. Use of English, including spelling & grammar ___ ___ ___ ___ ___
6. Quality, effectiveness, & use of visual aids ___ ___ ___ ___ ___
Total Presentation Score
Total Overall Score
The feedback you include below will be shared with each student team member:
Project strong points:
Areas for improvement:
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カナダの CEAB(Canadian Engineering Accreditation Board)の認定基準における
エンジニアリング・デザイン に関する記述
デザイン力とは、複合的な、オープンエンドなエンジニアリング問題(工学問題)に
対する解決策をデザインし、かつ、健康と安全のリスク、適用可能な規準、経済的、
環境的、文化的かつ社会的な考察へ適切な注意を払いながら特定のニーズに合うシ
ステム、コンポーネントまたはプロセスをデザインする能力と定義している。
エンジニアリング・デザインとは、「特定にニーズに合うコンポーネント、システ
ムならびにプロセスを開発するために、数学、自然科学、エンジニアリング・サイ
エンス、ならびに補完的な学問を統合することである。それは、異なる規準や法律
を満たす範囲で、経済、健康、安全、環境、社会、あるいは他の分野との学際的要
因などを考慮して行う、独創的で、しばしば反復的で、オープンエンドな工程であ
る。」と述べ、エンジニアリング・カリキュラムは、キャップストーン(4年次の集
約科目)として、カナダでエンジニアリング活動を実践する免許が与えられている
教員集団の専門職的責任の下で、できれば大学のある所のPE(Professional
Engineer)の管轄権のもと、実施されるデザイン経験を積むものであることを求めて
いる。そのエンジニアリング・デザイン経験は、それまでに身に付けた知識とスキ
ルに基づくもので、できるだけ、学生にチームワークとプロジェクト・マネジメン
トも経験されることを求めている。現代的エンジニアリング・ツールを必要とする
適切な内容がカリキュラムのエンジニアリング・サイエンスとエンジニアリング・
デザインに含まれることを求めている。
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我が国では、国際的に通用するエンジニア教育検討委員会
( 1997年7月設立)での検討結果
認定制度の国際的動向を分析し、大学工学部系における国際的に
通用する技術者教育プログラムでは
① 教育の質的向上(適切な教育目標を設定、達成し,目標の見直しを含
め絶えず改善し,目標水準を高めること)
② 教育の国際的相互承認と質の保証(上記の質の向上が確実になされ、
かつ教育目標を達成した学生のみを卒業させていること)
が必要不可欠で、それが実施されているかを
* 第三者による評価
* プログラム提供側で作成された自己点検書(評価書)と実地調査に
よる評価
* 公表された基準に基づく確実、公平かつ公正な評価
* 認定に有効期限
* 学習成果の評価含む
* 継続的改善(改善の必要性、ある時点だけの同等性だけでは不十分)
を持つシステムで審査認定することが必要である。
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検討結果を受けて、日本技術者教育認定機構
(Japan Accreditation Board for Engineering Education
略してJABEE)が1999年11月19日に設立
高等教育機関の学部教育における(研究者を含む広い意味での)技術者の基礎
教育を行っている教育プログラム(履修要綱等に記載されているもの)が、
1)社会の要求水準を満たしているかどうかを、主要工学系学協会の協力
を得て、統一的な認定基準(EC2000と実質的に同等な基準)に基づいて確
実、公平かつ公正に審査し、
2)要求水準を満たしている教育プログラムだけを認定し、
3)そのプログラムの修了生がそこで定めた学習・教育目標の達成者であ
ることを社会(世界)に知らせることをもって、
4)そのプログラムでの技術者教育の質を社会に保証する
民間の認定機関
2005年6月15日にJABEEはWA(Washing Accord;ワシントン協定)に加盟
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Washington Accord’ signatory
since 2005
JABEEの位置づけ
Seoul Accord’ signatory
Since 2009
JABEE
International
mutual recognition
As supporting members
Industries
As supporting members
Professional
societies
employment
universities
(JABEE regular members)
IEICE (電子情報)通信学会)他
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JABEE認定のメリット
✓高校生に、質の良いプログラムの選択の機会を与える。
✓産業界の企業や雇用者に、認定プログラムの良い修了生の選択の機
会を与える。
✓技術士としての基礎的な能力を確認するための一次試験が免除され
る。(注:ABETのEAC認定では、これに代わって、一次試験
に相当するFE試験を受ける資格が与えられる。)
✓大学に、プログラムの教育目的の妥当性を改善し、プログラム・ア
ウトカムのアセスメント・評価のメカニズムを改善する機会を与え
る。
2012/1/21
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24
(JABEE加盟の2005年時点):
1989年設立のWA
米国、イギリス、カナダ、アイルランド、オーストラリア
ニュージランド、香港、南アフリカ、日本
Iceland
United Kingdom
Ireland
France
Canada
United States
Portugal
Netherlands
Germany
Ukraine
Kuwait
Saudi Arabia
United Arab
Emirates
Mexico
Korean Republic
Turkey
Colombia
日本
2005
Japan
Hong Kong
Singapore
Australia
South Africa
Argentina
New Zealand
ワシントン協定の目的:学士レベルのエンジニアリング教育(工学教育)のシステムの
実質的な同等性を、国境を越えて相互に認め合う取り決め
Memorandum of Understanding
Substantially Equivalent
2012/1/21Washington Accord
2005年時点:暫定加盟:ドイツ、シンガポール、
shinoda labs.マレーシア、韓国、台湾
25
ABETでのエンジニアリング教育(工学教育)は
エンジニアリング・デザイン教育
エンジニアリング・サイエンス教育(工学知識の教育)
自然科学教育
数理科学教育(数学を含む)
数学・自然科学を除く一般教養教育(人文社会科学、
語学等を含む)からなる!!!
ABETでの
技術教育
応用理学教育
コンピューティング教育
ABET(ワシントン協定の
中核認定団体)の工学教育
技術教育(engineering technology教育を含む)、応用理学教育、コンピューティング教育
(情報関係の非工学教育:情報科学、情報システム、ITの教育)のそれぞれにどの程度の
エンジニアリング・デザイン教育を加えれば、プログラムの名称にengineeringが含まれ、
実質的に工学教育とみなされるか
???我が国では検討調査が必要???
2012/1/21
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26
本題:
International Engineering Alliance: IEA
世界における工学教育の新しい流れ
2012/1/21
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27
工学教育の国際化の促進 ➪
IEA Graduate Attributes and Professional
Competenciesの合意文書の意味
国際エンジニアリング連盟(International Engineering
Alliance;略して、IEA)
Washington Accord
Sydney Accord
Dublin Accord
Engineers Mobility Forum
Engineering Technologists Mobility Forum
2009年6月に京都で開催された国際エンジニアリング連盟の
国際会議で6月18日に承認された合意文書:
Graduate Attributes and Professional Competencies
(GA/ PCと略記する)
2012/1/21
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28
GA/PC
4年制大学の工学教育では、透明性のあるフレームワークを作るために、水準を含め、
✓ graduate attributes, GA:学士課程卒業や修士課程修了の時点で学生が身に付け
ているべき知識・能力等の属性( a set of individually assessable outcomes)、ならびに
✓ professional competency, PC:実社会にエンジニアとして入って数年の実経験を経、
その属性を磨き上げ、PE(professional Engineer)の資格を獲得する段階で身に付け
ているべき専門職的業務力
について、観点を明確にし、教育プログラムの目標とする属性が身に付いているか、その
プログラムの目的が達成されているかをアセスメントし、評価することが益々重要と
なってきている。
WA
SA
DA
高卒3~4年の技術教育
テクノロジスト養成
高卒2~3年の技術教育
テクニシャン養成
2008年の
段階の案
高卒4~5年の工学教育
エンジニア養成
2012/1/21
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工学教育
2008年の
段階の案
エンジニアリング・モデル
(工学モデル)
の
概念化へ
2012/1/21
2009年の
最終案
Apply knowledge of
mathematics, science,
engineering fundamentals
and an engineering
specialization to the
solution of complex
engineering problems.
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30
IEA での、活動の意味のEngineering
1)人々のニーズと、経済の発展および社会に対してのサービス供給
のニーズに応える重要な活動である。(➪ エンジニアリング活動
ともいう)
2)数学、自然科学、工学知識、テクノロジー、ならびにテクニック
(一連の処理方法またはやり方)の有目的な応用である。
3)解決策(solution)を産み出すことを追い求めるものであるが、そ
の解決策の効果は、しばしば不確定な状況でも、可能な限り最大限、
予測されることが必要である。
4)利益をもたらす一方で、都合の悪い結果を生む可能性を持つ。
5)それゆえに、エンジニアリング活動では、責任感と倫理観を持っ
て実行されなければならないし、利用可能な資源を効果的に使い、
経済的であり、健康と安全を守り、環境の観点から健全で持続可能
であること、そして、システムの寿命を通して、リスクを、総体的
に、管理されなければならない。
GA/PC
2012/1/21
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31
GA/ PCで用いられている用語の定義:
工学基礎(engineering fundamentals): 数学と自然科学の知識を拡大し
て組み立てられた、エンジニアリング活動において直面する種々のエン
ジニアリング問題の解決策を設計するための、工学的概念や原理・原則
を含む基礎理論、モデルと方法(モデリング、シミュレーション、数理
科学的方法(技法)、計測、実験法などを含む)の知識で、工学専門の
知識基盤となるもの
工学専門(an engineering specialization): 工学の主要な分野である、
たとえば、電子情報通信工学の専門特化された工学部分の知識・能力と
して、工学基礎を拡大し、応用し、組み立てられた種々の専門的知識と
方法の体系と理論的枠組み(電子情報通信工学には、そのようなものが
複数存在する)
テクノロジー (engineering technology;エンジニアリング・テクノロ
ジー): エンジニアリング活動における実践的応用を可能にするツール、
テクニック(一連の処理方法またはやり方)、用具、コンポーネント、
システムまたはプロセスを伴う、 役に立つことが実証済みの知識体系
(an established body of knowledge)を意味する。その開発と有効な
利用には、工学知識とその応用力だけでなく、エンジニアリング活動の
専門職的業務力が用いられる。
GA/PC
2012/1/21
shinoda labs.
32
「注:中国語ではtechnologyの訳語は技術とか技術学(なお、技術の「術」の字は簡略化さ
れている)とされている。オックスフォード学習者辞書でのtechnologyの意味は、工業に
おいて実際に役に立つ方法に用いられる科学的知識、または、その知識を用いて設計され
た機械・器具と説明され、英和辞書では、 technologyの訳語が、科学技術とか工業技術
とか、単に技術と訳されている。一方、science and technologyの訳語は、scienceが自
然科学の意味で、科学と技術とか、科学・技術とか、科学技術が用いられてきた。ここに、
科学技術の用語の使い方に、注意が必要になる。また、最近は、科学には社会科学の意味
を加え、science and technologyの訳語に科学・技術という用語を用いる向きもある。ま
た、engineering technologyの訳語は、engineeringの意味の工学とtechnologyの意味の
技術を組み合わせ、工学技術も用いられる。最も注意をすべきことは、英語圏では
engineering technologyはengineeringを構成する要素で、engineeringそのものを意味し
ないとされていることである。教育プログラム認定では、 engineering technologyの教
育プログラムは工学教育プログラムの認定対象外である。我が国では、なぜそうなったの
か不明であるが、engineeringの訳語の一つとして英和辞書に工学技術が挙げられている。
また、engineerの訳語として、現在、エンジニア、工学者、とか技術者が用いられ、企業
内では技師が用いられている。また、technologistの訳語として、科学技術者とかテクノ
ロジストが用いられ、technicianの訳語として、専門技術者とかテクニシャンが用いられ、
craftsmanの訳語として職人が用いられる。また、specialistの訳語としては専門家、ス
ペシャリスト、専門技術者が用いられ、技術者の用語の使い方は多様で、どの意味での使
われ方か、十分に注意すべきである。」
工学知識(engineering knowledge): 複合的なエンジニアリング問題の効
果的な解決策を生み出すための①数理科学(数学、応用数学、コン
ピュータサイエンスのための数学など);②自然科学(主に、物理学
― 力学、電磁気学、熱力学、振動と波動、特殊相対論、量子力学など
― が中心となっているが、必要に応じ、化学など他の自然科学も);
③工学基礎;④工学専門からなる知識体系で、その応用力を含め工学知
力という。
2012/1/21
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GA/PC
33
エンジニアリング問題(engineering problem;工学問題):エンジニ
アリング活動で直面する問題で、次のいくつかまたはすべての特徴を
内在すると述べられている:
• 範囲が広いか、対立する技術的、エンジニアリング的(工学的)かつ
他の課題が内在する。
• 明白な解法がなく、適切なモデルを考案するための解析に、抽象的思
考や独創性が求められる。
• 基本を基に、原理を第一とする解析方法を可能にする、専門分野にお
ける最先端の深い知識を必要とする。
• めったに出くわさない課題が内在する。
• 専門職的エンジニアリング活動の実践に対する規則や規範に抵触する
かもしれない。
• 広く、異なるニーズを持つ利害関係者の多様なグループを巻き込む。
• 広い範囲において重大な結果をもたらすかもしれない。
• 多くの構成要素や部分問題が内在する高いレベルの問題かもしれない。
この問題は、複合的なエンジニアリング問題とか複合的な工学問題とも
いう。
2012/1/21
shinoda labs.
GA/PC
34
この問題は、何が正解か不明であることが多く、不確定な状
況で解決が求められるため、複数の解決策が考えられ、最
も効果的と思われる解決策が採用、設計されても、その解
決策の効果は、人々の能力拡大や生活利便性拡大を含む利
益をもたらす一方で、都合の悪い結果を生む可能性を有す
るので、常にその解決策による結果を時々刻々モニタリン
グし、何らかの異常や異状が観測されたらフェイルセーフ
に制御できるように、総体的にリスク管理/チェンジ管理す
ることが求められる。
エンジニアリング活動に携わるエンジニアは、
エンジニリング実践の専門職的倫理と責任と規範を守るこ
とが求められる。
2012/1/21
shinoda labs.
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GA/PCにおける知識プロファイル(Knowledge Profile)
①工学の専門分野にふさわしい自然科学の体系的、理論ベースの知識
②当該分野にふさわしい解析とモデル化のための概念ベースの数学、
数値解析、統計、通常の範囲のコンピュータと情報科学(離散数学
を含む)の知識
③当該分野に必要とされる体系的な、理論ベースで系統立てられた工
学基礎の知識
④当該分野での実践のための種々の知識体と理論的枠組みを与える工
学専門の知識
⑤当該分野の実践領域でのエンジニアリング・デザイン(工学デザイ
ン)を支える知識
⑥当該分野の実践領域でのエンジニアリング実践の知識(テクノロ
ジー)
⑦社会でのエンジニアリング活動の役割、専門分野でのエンジニアリ
ング実践における諸課題の理解(公衆の安全に対するエンジニアの
倫理と専門職的責任;エンジニアリング活動のインパクト;経済的、
社会的、文化的、環境的及び持続可能性)
⑧当該分野での研究文献での精選された知識に劣らない知識
GA/PC
2012/1/21
shinoda labs.
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GA/PCにおけるGAプロファイル(GA Profile)
能力が学生にどの程度まで身に付いたかどうかを知るために、アセス
メント(根拠となるデータを同定し、集め、準備する一つまたは複
数のプロセス)と評価(アセスメント・プロセスを通して集積され
たデータを解釈する一つまたは複数のプロセス)を行う。効果的な
アセスメントには、測定される能力にふさわしい、関連する直接、
間接、量的、質的測定が用いられる。その際、ふさわしいサンプリ
ング法がアセスメント・プロセスの部分で用いられる。アセスメン
トと評価は、教育の国際化で、必要になりつつある。以下の記述で、
「~する」など動詞で文末が表されているのは、能力などを測る
ルーブリックにおけるパフォーマンス(行動、態度、出来栄えな
ど)を測る基準や因子の記述語に用いられることを考えてのもので
ある。
① 工学知識:数学、科学、工学基礎、工学専門の知識を複合的エン
ジニアリング問題の解決策へ応用する。 (工学知力)
② 問題分析:数学、自然科学、工学知識の基本原理を用いて、複合
的なエンジニアリング問題を、確実な結論に到るべく、同定、定式
化、文献調査、分析する。 (分析力)
2012/1/21
shinoda labs.
GA/PC
37
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
解決策の設計/開発:複合的なエンジニアリング問題の解決策を設計し、
かつ特定のニーズを満足するように、公衆衛生や安全、文化、社会、環
境を適切に配慮しつつ、システム、コンポ―ネント、プロセスを設計す
る。(デザイン力)
調査:研究ベースの知識と研究方法を用いて複合的な課題を調査する。
(なお、その知識と方法は、実験の設計、データの分析と解釈、説得あ
る結論を与える情報の統合を含む)(調査力)
エンジニアリング活動のためのツールの利用:複合的なエンジニアリ
ング活動に対して、限界を理解しつつ、適切なテクニック、資源、最新
のエンジニアリング・ツールとITツールを創造し、選択し、応用する。
(予測し、モデル化することを含む)
エンジニアと社会:エンジニアの専門職的実務に付随する、社会、衛
生、安全、合法、文化等の諸課題とそれらに伴う責任をアセスメントす
るために、関連の知識に基づく論証を、適用する。
環境と持続可能性:専門職的なエンジニアリング活動による解決策が
及ぼす社会や環境へのインパクトを理解し、持続可能な発展についての
知識とその必要性について具体的に示す。
倫理:倫理的原則(行動規範)を適用し、エンジニリング実践の専門
職的倫理と責任と規範を守る。
個人及びチームワーク:個人として、チームメンバーとして、あるい
はリーダーとして様々なチームや異分野にまたがるチームの中で有効に
機能(役割,役目)を果たす。
GA/PC
2012/1/21
shinoda labs.
38
⑩
コミュニケーション: エンジニアリング社会(エンジニアリング
活動の関係者の社会)や一般社会と、複合的なエンジニアリング活
動について、(効果的な報告書とデザイン文書を理解し、作成し、
効果的なプレゼンテーションを行い、明確な指示を与えたり、受け
取ったりなど)、効果的にコミュニケーションする。
⑪ プロジェクト管理と財務:エンジニアリングとマネジメント原理に
ついての知識と理解を具体的に示し、それらを、異分野間でプロ
ジェクトをマネジメント(管理)するために、チーム・メンバーお
よびチーム・リーダーとして、自身の仕事に応用する。
⑫ 生涯継続学習:広範な技術変化の可能性の中で、自主的に生涯にわ
たって学習する必要を認識し、準備し、取り組む能力を持つ。
GA/PC
2012/1/21
shinoda labs.
39
IEAでの工学教育は、卒業後、学生が、エンジニアリング活動の協働的
仕事の中で、能動的に学習を続け、一人前のエンジニアとして成長して
行くべく、それぞれの仕事実践に必要な専門職的業務力(専門職的コン
ピテンシ-)を形成的に身に付けて行くことを可能にする
✓IEAの知識プロファイルに述べられている知識
✓IEAのGAプロファイルに述べられている能力等(学習達成目標;
アウトカム)
を、その教育課程の間に、卒業時点までに、学士レベル以上で身に付
けることを達成する教育である。その教育内容とレベルは、エンジニア
リング活動には国境がないことから、国際的に通用するものであること
が求められる。その工学教育で、学位を取得した学生を、工学修了生と
か工学卒業生という。
2012/1/21
shinoda labs.
40
★ カナダの認定団体CEABは、認定基準をIEAのGAを先取りし
て、2008年に、基準を変更した。カナダがIEAのGA/PC作成
を先導した証拠とも考えられる。
★ アメリカの認定団体ABETは、その認定基準EC2000をIE
AのGAに調和する範囲で修正した。
★ 我が国の認定団体のJABEEは、その認定基準をIEAのGAに
調和する範囲で修正した。(我が国の問題:エンジニアリング・デザイ
ン教育については、プログラム運営組織側に、国際的に通用するレベ
ルまたはそれ以上のレベルに努力を促すことが求められる!!!)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
これから、WA(ワシントン協定)に加盟のエコノミー(国または地
域)における認定団体の認定対象の工学教育がIEAのGAに調和す
る方向に流れつつあるが、ボローニア・プロセス(Bologna process)
が終了した欧州とその近隣の46か国での工学教育がどう対応するか、
興味が持たれる。
2012/1/21
shinoda labs.
41
卒業研究をキャップストーンとする我が国の工学教育は、卒業研究指導教
員の専門が多様であるため、卒業論文内容も多様となり、それをエンジニア
リング・デザイン教育の主根拠資料とした場合、応用理学教育的傾向やコン
ピューティング教育的傾向が強いものが多々存在する。米国では応用理学教
育認定、コンピューティング教育認定、テクノロジー教育認定は工学教育認
定とは別カテゴリーとされている。そのため、エンジニアリング・デザイン
をキャップストーンとする米国やカナダの工学教育の視点からは、我が国の
工学教育はエンジニアリング・デザイン教育が弱いのではないかと指摘を受
ける可能性がある。事実、JABEEではWA側から2005年にその指摘
を受けた。
それで、新しい提案であるが、IEAのGAの③「解決策の設計/開発:複合的な
エンジニアリング問題の解決策を設計し、かつ特定のニーズを満足するよう
に、公衆衛生や安全、文化、社会、環境を適切に配慮しつつ、システム、コ
ンポーネント、プロセスを設計する。(デザイン力)」を考慮し、通常の欧
米型の「ものづくり」のエンジニアリング・デザインだけではなく、
「東芝の常務から東大の監事になられた現在東京大学監事の有信睦弘博士
が(株)東芝の顧問であったときに書かれた論説
「ものづくりからことづくりへ -新たなイノベーション創出に向けて-」
化学と工業;vol.61-11, pp.1033-1034, November 2008)」
を参考に、「ことづくり」と「ものづくり」の融合のエンジニアリング・デ
ザインのモデルを創出し、世界における工学教育の新しい流れを生み出して
行くのも、科学的発見と技術創造で世界をリードする我が国としては必要で
はないかと思う。
2012/1/21
shinoda labs.
42
「注:有信氏の記述における‘もの’と‘こと’:
我が国では、人々の「サービスへの消費」が「‘もの’への消費」を上
回ってから久しく、人々の関心は「‘もの’の豊かさ」から「心の豊か
さ」に移っている。たとえば、PCや携帯電話は、メールやインター
ネットのブラウジングの手段となったとき、消費者は‘もの’を手段と
して使い、‘もの’を利用して、豊かさや価値を感じさせる「驚きと感
動」という‘こと’を得るという、‘もの’が消費者にとって目的では
なく、‘こと’を実現するための手段になっている。これは、「‘こ
と’は‘もの’ によって実現され、‘もの’によって実現される‘こ
と’は複雑な価値連鎖を内包している」ことを意味している。
産業界では、そのビジネスモデルが刺激となって、活動の意味のエンジ
ニアリングでは、‘もの’を設計、開発するとき、‘もの’の性能・機
能を差異化するよりも、「人々や社会に、どのような豊かさや価値を、
与えられるか」を考え、「望ましい生活や社会をビジョンとして描き、
人々の心の豊かさと生活の質を向上させる‘こと’を含め、人々や社会
のニーズを満たす様々な‘こと’を設計し、‘こと’を実現するための
‘もの’ の設計、開発、イノベーションを行い、それをもとに製造さ
れた‘もの’と併せて、‘こと’を提供すること」という捉え方が益々
重視され、それによる価値連鎖を増大させることが期待されている。」
2012/1/21
shinoda labs.
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「ことづくり」と「ものづくり」の融合のエンジニアリング・デザインを含むエン
ジニアリングとは、
「数学と自然科学ならびにそれらの上に築かれた工学基礎と工学専門の知識(方
法を含む)とそれらの応用力を身に付け、人文社会科学的知識(方法を含む)も身
に付け、自学習による継続的学習でそれらを常に充実させながら、IEAでの知識
プロファイルの知識とGAプロファイルの能力に実質的に等価な知識・能力等を統
合的に応用し、人々のニーズと、経済の発展および社会に対してのサービス供給の
ニーズに応えるために、経済的であり、公衆衛生ならびに人々の健康と安全を守り、
技術的、合法的、文化的、社会的、環境的な観点で、製造可能性と持続可能性を考
慮し、専門職的な責任と倫理観で、望ましい生活や社会をビジョンとして描き、
①それらを実現する様々な「こと」をデザインし、
②「こと」の実現に必要な知識・方法を構造化・統合していくプロセスをデザイン
し、
③「こと」の実現である「もの」(システム、コンポーネント、プロセス、製品、
商品などのハードウエア、ソフトウエア、またはそれらの組合せ)をデザイン、開
発、又はイノベーションし、かつ
④それらに関連して出会う種々の複合的なエンジニアリング問題(工学問題)に対
して、何が正解か不明で、不確定な状況で解決が求められる場合を含め‘検討に値
す解決策(最適な解決策)’をデザインする
活動である」(ということができると、私は思う)。
2012/1/21
shinoda labs.
44
上記のエンジニアリング活動のための学問が新しい工学である。
その新しい工学の考えは、大辞林における工学の説明を見ても、今後は採
用に値するものといえよう。上記のエンジニアリングの説明におけるデザ
インからなる新しいエンジニアリング・デザインの考えには、卒業研究も
その重要な要素となり、エンジニアリング・デザイン教育では、上記のデ
ザイン部分をすべて実習経験することが望ましいことになる。
その新しい工学の教育(工学教育)は、数理科学(数学と応用数学)、自然
科学、工学基礎、工学専門、テクノロジー(ある意味のテクニックを含
む)の知識・方法と応用力だけでなく、人文社会科学的知識・方法と応用
力も身に付け、それらの統合力であるデザイン力を身に付け、いかなる問
題に直面しようとも、独創的、創造的、個性的なアイディアを生み出し、
創意工夫して解決策を見出し、活動する人材(その意味での研究心、工夫
心に満ちたエンジニア)を育成する‘ひとづくり教育’である。
世界に学ぶべきものが多々あるが、科学的発見と技術創造で世界をリード
する我が国としては、自信を持って、その‘ひとづくり教育’を実践し、
良い実践例を、世界に示すことである。
2012/1/21
shinoda labs.
に45
ところで、我が国の長年にわたる少子化の趨勢にもかかわらず、大学、学
部や学科の数が増加し、大学全入時代が来て、大学、学部や学科によっ
ては一定水準以上の基礎学力を持つ学生を集められないところも現れ、
定員まで学生を集められていないという生存競争の激しさが増している。
また、社会現象として工学・技術系離れが起き、工学系学部や学科の入
学時の学生の基礎学力の多様性が、授業推進上問題視され、どの大学の
工学系学部や学科も、社会に対する倫理上の役割、自律、責任および期
待される機能として、プログラムの受け入れた学生にふさわしい独自の
教育環境と教育方法を設計し、それに従って教育を実施し、学生の学習
行動を通してアセスメント・評価し、設定した学習到達目標(アウトカ
ム)に対して実際に目標を学士レベル以上で達成した学生のみを卒業さ
せることが求められている。それを果たすには、どの専門分野の工学教
育のプログラム運営組織側も、組織的な対応をより強化し、単位制度の
実質化を図り、授業での講義、演習、実験、プロジェクト実験、エンジ
ニアリング・デザイン(工学デザイン)、卒研等のそれぞれの位置づけ
や、科目間の有機的な組み合わせの導入を促進させ、授業科目にもよる
が、特に、数学、自然科学ならびにそれらに基礎を置くエンジニアリン
グ・サイエンス(基礎工学)のなかの必須科目については、1)自学習
可能な特色ある独自のテキスト(我が国の現在の教科書や参考書は、厚
さが薄く、内容的に説明不足で、自学習に不向き), 補助教材や資料の
2012/1/21
shinoda labs.
46
作成など、授業とその準備のために教員に負担増が生じても、2)宿題等を含め
予習や復習で学生に負荷増が生じても、3)今日的測定機器や実験装置や設備の導
入で教育機関に財政負担増が生じても、行わなければならない段階に来ている。
また、The European Higher Engineering and Technical Professionals
Associationでは、エンジニアリングも活動における数学、科学ならびにテクノロ
ジーとともに、ふさわしいビジネスと経営スキルとの結び付けを重要視し、最近
の欧米ではエンジニアリング・エコノミックスとかテクノ・エコノミックスとい
う授業が工学教育のなかで重要視されつつあるが、我が国ではまだそうなってい
ない。我が国の工学教育でも、そのような授業を、(適切な講義担当者をさがす
ことが難しいかもしれないが)、取り入れることも、考えなければならない段階
に来ていると思う。
また、ダイアーは、幅広い教養を身に付けることの重要を説くなかで、美術(art)の
鑑賞について述べていた。英国では美学(aesthetics)をエンジニアリング・デザ
イン教育での要素としている。製品も商品として社会に流通するときには、美学
的要素が付加価値を生む。我が国の工学教育でも、美学を要素として取り入れる
ことも、考えなければならない段階に来ていると思う。美学は、思考をすっきり
させ、心を安定化させる重要な要素でもある。
昨年3月中央大学理工学部で開催されたJABEEシンポジュウムでオーストラリアのキン
グ教授(Robin King)も述べていたが、工学教育ではカリキュラム設計も重要で
ある。教員は、「工学教育は‘ひとづくり教育’である」ことを自覚し、PDCAサ
イクル(PDCA cycle)と内省的思考のサイクル(cycle of reflection; 常に新し
い問題に直面することに備え、過去の経験の再検討と自己研鑽で、知識を蓄積・
整理し、能力を磨き上げ、実際に新しい問題に直面したときに、挑戦すべきもの
を認識し、情報を集め、分析し、そのための解決すべき問題を特定化し、アイ
ディアを生み出し、アイディアを評価し、アイディアを洗練し、問題解決を実践
する思考法)を回しながら、学生の学習状況を日頃分析し、カリキュラムの見直
しを定期的に(また、必要に応じ)行うとともに、教育活動と研究活動を行ってい
くことが当然の使命として求められる。
現職は頑張ってください!!!
2012/1/21
shinoda labs.
47
残りの時間がなくなってきた。ここで、
私の歩んだ小道についてちょっと述べ、
今回の講義を終え、次の講義への準備に移りたい ・・・
2012/1/21
shinoda labs.
48
★ 私は、1941年12月15日、父が獣医であった家族
の長男として北海道十勝平野で誕生。弟と妹が一人ずつ。
★
勉強よりも魚釣りが好きであった小学6年のとき、中学
の先生であった森田進先生と出会う。電圧計、電流計などの
使い方を習い、鉱石ラジオ、ラジオ、モータ、発電機などの
つくり方を習う。
→ 大学の角帽をもらい、「将来は大学、大学院と進み、電
気系の大学教授を目指せ!」といわれた。
★
帯広三条高校に進学、英語の上田宏先生に出会い、ご自
宅で個人的に指導を受けた。
★
親戚の人が在籍していた関係で中央大学へ。
2012/1/21
shinoda labs.
49
★
中央大学での2年の電気回路の授業で、教科書として電
気学会の電気回路を買わされた。それは講義の範囲を示すもの
で、授業はテンソル記号を用いた独特の講義をする個性的な大
類浩教授との出会う。
→ 電気系では「数学・物理の知識とその応用力が重要であ
る」といわれ、英語で書かれた専門書を薦められ、神田の本屋
までつれていっていただき、数学、電気回路、電子回路の洋書
を数冊購入した。読むと、和書と違いわかりやすく、すぐに理
解できた。
→ 大学3年次進級時に、1,2年次の成績でRCA奨学生
(毎年、全国15校、90名の一人)に選ばれ、さらに4年次
進級時においても、RCA奨学生に継続して選ばれた。継続は
6人で、私は他2名と朝日イブニングニュースに写真付きで記
事となった。2年間の授業料免除とお金は非常に役に立った。
→ 1964年3月25日の大学全体の卒業式で、総長賞、優
等賞、南甲クラブ賞をいただき、全学総代として答辞を述べた。
2012/1/21
shinoda labs.
50
★
中央大学では、当時、課程博士第一号を出す必要があっ
た。大類先生から、中央大学大学院に進学し、挑戦するように
いわれた。
★
修士課程1年になって、いつの頃か忘れたが、中央大学
の理工学部研究助手に1965年4月1日から採用されること
が内定した。「研究助手の仕事は大学院学生として勉学と研究
に専念し、学会で論文を発表し、課程博士第1号取得を目指す
ことであった」。
★
研究助手になってすぐに、中央大学での大学院の授業を
受ける傍ら、大類教授の計らいで、早稲田大学理工学部の堀内
和夫教授の研究室に受け入れていただき、堀内教授の情報理論
の授業を聞かせていただくとともに、ゼミと輪講に出席させて
いただくことになった。堀内先生は、数学と電磁気学が強く、
輪講では非線形数学と確率過程を行っていただき、私の研究と
しては、「グラフ・ネットワーク理論とその応用を行うと良
い」といわれ、学会活動へと導いてくださった大恩人である。
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★
堀内研究室では、数学が異常に強い博士課程の森川勇一氏
が中核となっていた。私は、修士課程の院生で不均一分布定数
線路の先駆的研究を行っていた川北健次氏の隣に机を用意して
いただいた。川北氏の研究成果は研究会で発表され、研究会技
術報告資料に残されただけで、学会論文誌に発表されなかった
が、現在まで、幾度か論文に引用される重要な成果であった。
川北氏はNECに就職し、種々活躍され、現在に至るまで、深
くつきあっていただいている。
★
知識が有り過ぎて、適切なコメント好きで、それがために
論文を書かずに博士課程を満期退学した山野紘一氏の他、多く
の特色ある堀内研院生と深く交流させていただくことになった。
堀内研卒の大石進一氏が早大に残り、現在教授となって、堀内
研を引き継いでいる。堀内研からは多くの教員が育っている。
中大の電気電子情報通信工学科の小林一哉教授と山村清隆教授
は堀内研卒で、中大の情報工学科の牧野光則教授は大石研卒で
ある。
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★ 堀内教授から、早大田中研究室の博士課程院生の朴容震氏
(Park Yong-Jin)に研究上の助言を行うことを頼まれ、朴氏の
ネットワークの研究について相談に乗った。その朴氏が学位取
得後、韓国の漢陽大学の助教授となり、その後教授に昇格した
こともあって、韓国に行くたびに、朴教授に世話になった。朴
氏はIEEEのRegion 10 Directorとなり、活躍し、昨年64歳で、
早大の教授となって戻ってきた。今は、たびたび、日本や海外
で会う。
★早大の電気系同窓会(EWE)では、桑原守二同窓会長の時
に会則改定が行われ、私は、早稲田大学に学生として籍を置い
たわけではないが、終身会費を払って、会員となった。
★ さて、私自身の研究の話に戻るが、スイッチング回路のグ
ラフ理論を用いた合成法、電磁格子理論、回路の位相幾何学的
公式など回路トポロジーと代数電磁気学の先駆的研究で世界的
に著名であった岡田幸雄教授が長期滞在の米国から帰国し、電
気通信大学の教授になったのを機に、大類先生の計らいで、岡
田教授のゼミにも参加させていただいた。
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★ 岡田教授の研究の流れには、直接に小野寺力男山形大学教
授と大類浩中央大学教授がいて、間接に伊理正夫東京大学教授
がいて、私はその流れの末席を汚すことになった。
★ 堀内教授の「グラフ・ネットワーク理論とその応用を行う
と良い」といわれたこともあって、関連の学会論文誌発表論文
を発表し始めたときの1970年3月に単位取得退学するよう
にいわれ、専任教師に昇格させられた。
★ 専任講師の仕事の傍ら、学位論文に必要な学会論文誌発表
論文を積み重ねた1972年4月に専任講師を休職するように
いわれ、大学院生に復学し、大類浩研究指導教授の下、197
3年3月に博士論文「電気回路網の代数的グラフ理論に関する
研究」で中央大学大学院理工学研究科博士課程の博士号(甲の
1号)を中央大学から取得し、私が研究助手になった「任」が
終わった。以来、中央大学理工学研究科では博士号が出される
ことになった。これは中央大学理工学研究科の歴史でもある。
★ 1973年4月1日に専任講師に復職した。
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★ 私が助教授であったとき、学会研究会の終了後、浜松町駅ビル
の喫茶店で、米国のイリノイ大学アーバナ・シャンパン校の博士号
を持つ大阪大学産業科学研究所助教授の翁長健治氏とスタンフォー
ド大学の博士号を持つ京都大学助教授の小沢孝夫氏からの提案を受
け、 東京工業大学助教授の梶谷洋司氏と東京工業大学大学院総合理
工学研究科助手の富沢信明氏と共に、東京大学の伊理正夫教授に研
究代表者を頼み、我が国では当時過去には見られない大学横断型の
「ネットワーク構造を持つシステムに関する基礎研究」という主題
の総合研究を文部省に科研費申請することにし、東京大学工学部計
数工学科講師の藤重悟氏、大阪大学助教授の白川功氏、愛媛大学教
授の有吉弘氏、横浜国立大学助教授の石井六哉氏、九州大学助教授
の西哲夫氏、大阪大学基礎工学部助手の柏原敏伸氏、東北大学工学
部助手の西関隆夫氏、北海道大学工学部電子工学科助手の仙石正和
氏を加え、申請書を作成し、申請した。結果は、ほぼ申請額通りに
認められ、 3年間に亘って有機的な研究を行い、多くの研究成果を
あげることができた。
★ 後に、その研究グループのメンバーに、東京大学工学部計数工
学科講師の浅野隆夫氏(現中大情報工学科教授)とNECの大附辰
夫氏(現早大名誉教授)を加え、コロナ社からロングセラーの「演
習グラフ理論」(コロナ社)を出版できた。
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★ その出版は、学会活動や研究活動が大学研究室縦割り社会的であった時代
に、一つの研究目的のもと、その目的の達成に向け複数の目標を定め、大学間
横断型/研究室間横断型の総合研究班を形成し、研究を行うことができた「一
生忘れることができない記念碑」である。
★ 伊理正夫教授を研究代表者とする総合研究の終了後、早稲田大学の平山博
教授を研究代表者とする総合研究班を形成し、別テーマの研究を行った。それ
によって、グラフ・ネットワークの理論と応用分野の研究者ネットワークが強
化され、私は学会を通して多くの師と友を得た。
★ 東京工業大学の梶谷助教授との回路解析やグラフ理論の研究を行い、東海
大学の山口功助教授との回路パラメータ算定可能性の研究を行うとともに京都
大学の小沢孝夫助教授との回路故障診断の研究を行い、新潟大学の教授となっ
た仙石氏ならびにその弟子である田村裕と中野敬介の両氏とのフロー・テン
ションネットワークならびに多次元移動情報通信ネットワークの研究を行い、
また、新潟大学の仙石教授グループと間瀬憲一教授グループとのマルチホップ
無線ネットワークの研究を行い、さらに、堀内研究室院生の金子美博氏(後に
岐阜大学の助教授)とのファイル転送ネットワークモデルの研究も行い、現在
までに数多くの研究成果をあげることができた。
★ 特に、中央大学院生の安田友芝氏、佐久間洋氏、桑原高志氏、森泉隆氏、
岡田和則氏ならびにそれに続く数多くの院生と多くの論文を発表することがで
きた。すべての人々に、それぞれの顔を浮かべながら、深く感謝したい。
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著書(主要著書および共、編著等の執筆)
1969年3月
1979年1月
1981年11月
1983年4月
1984年4月
1988年2月
1990年6月
1996年2月
1997年6月
1997年6月
1999年4月
2004年2月
2006年3月
「応用解析」(218ページ)
共著(分担執筆5章) 森北出版
「回路解析」(425ページ)
梶谷氏との著 日本理工出版会
「最新 回路理論 基礎と演習(410ページ)
白川、梶谷氏との共著 日本理工出版会
「演習グラフ理論-基礎と応用―」(340ページ)
共著(5章分担執筆)
コロナ社
「データ通信ハンドブック(491ページ)」(4・2節 ネットワーク理論)
電子通信学会編
分担執筆(pp.77-84) オーム社
「電気工学ハンドブック(2174ページ)」(5編第1章 回路の基本法則
電気学会編
分担執筆(pp.175-179) コロナ社
「回路理論の基礎」(283ページ)
白川氏との共著 コロナ社
「回路論入門」(1)、(2)(541ページ、235ページ;合計776ページ)
コロナ社
「改訂 回路理論の基礎」 (304ページ)
白川氏との共著 コロナ社
「線形代数学」(286ページ)
関口氏との共著 コロナ社
「エンサイクロペディア電子情報通信ハンドブック」(1340ページ) (4群の4・2グラフとネットワーク)
電子情報通信学会編
分担執筆(pp.279-287) オーム社
文部科学省検定済教科書「電子回路」(322ページ)
監修
コロナ社
「電子情報通信技術史」(276ページ)(電子情報通信学会編)分担執筆(pp.1-16)
コロナ社
論文
1968年7月 「有向グラフの有向木の算出について」 、電子通信学会論文誌、51-A(7),pp.290-191
1969年1月 「有向木列挙に関する定理について」、電子通信学会論文誌、52-A(1), pp.40-41 (共著)
1970年7月 「枝の短絡操作による木と有向木の生成について」、電子通信学会論文誌、53-A(7), pp.378-379
1970年10月 「回路診断における一つの最小化問題」、電子通信学会論文誌、53-a(10), pp.569-570
1971年2月 「有向2-木について」、電子通信学会論文誌、54-A(2),pp.112-113
1971年3月 「岡田の木算出法と単純閉路の代数的取扱い」、電子通信学会論文誌、54-A(3), pp.117-123 (共著)
1971年6月 「有向グラフの部分グラフ算出における演算系」、電子通信学会論文誌、54-A(6)、pp.331-337.
1972年9月 「内積の定義されたWang代数」、電子通信学会論文誌、55-A(9)、pp.481-483.
1972年12月 「回路網グラフ理論における一つの代数的図式」、電子通信学会論文誌、55-A(12), pp.713-714
1973年5月 「回路に対するグラフの代数理論」、電子通信学会論文誌、56-A(5), pp.301-308.
・・・・・・・・・・・・・・・・・ 以上学位論文に関係 ・・・・・・・・・・・・・・
1973年7月 「枝行列の小行列式について」、電子通信学会論文誌、56-A(7), pp.417-418
1973年9月 「節点アドミタンス行列のスパーシティとその利用」、電子通信学会論文誌、56-A(9), pp.544-550 (共著)
1974年7月 「最小測定枝集合を持つ線形抵抗回路の決選構造」、電子通信学会論文誌、57-A(7), pp.554-555
1975年7月 「パス類別に対する有吉の関係式とその一拡張」、電子通信学会論文誌、58-A(7), pp.469-471 (共著)
のほか数多くの有審査論文を2011年末までに発表
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論文賞受賞
★ 1992年5月、電子情報通信学会英文論文誌(Trans. of
IEICE)の1990年の論文“Location problems on undirected flow
networks”で、電子情報通信学会から、論文賞を受賞
★
1996年5月、1995 IEEE International Conference on
Signal Processing and Neural Networksでの論文 “Neural
networks for cellular mobile communication systems”で、同国
際会議から、IEEE ICSPNN Best Paper Award(最優秀論文賞)を受
賞
★
1997年5月、電子情報通信学会英文論文誌(IEICE Trans.
Fundamentals)の1996年の論文“Characteristics of dynamic
channel assignment in cellular systems with reuse
partitioning”で、電子情報通信学会から、論文賞を受賞
★
1998年5月、電子情報通信学会英文論文誌(IEICE Trans.
Fundamentals)の1997年の論文 “On a generalization of a
covering problem called single cover on undirected flow
networks”で、電子情報通信学会から、論文賞を受賞
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業績賞等の受賞
★
2002年2月、IEEEの学会活動と貢献の「Distinguished
Achievements and Contributions」で、IEEEから、IEEE Third
Millennium Medalを受賞
★
2005年5月、「回路と情報通信のグラフ・ネットワーク理論的研
究への先駆的貢献」で、電子情報通信学会から、業績賞を受賞
★
2007年5月、「教育活動、研究活動、学会活動ならびに社会活動
に対する顕著な功績」で、電子情報通信学会から、功績賞を受賞
The IEICE today
is dedicated to foster technological
innovation and excellence in the field of
electronics, information and communication
engineering for the benefit of humanity.
IEICE office
電子情報通信学会
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称号等の受賞
★
2000年10月、電子情報通信学会から、「回路と
ネットワークのグラフ理論的研究」で、同学会のフエローの称
号を授与された。
★ 2001年5月、IEEEから、「Graph-theoretic
researches on flow and tension networks, electrical
circuits and cellular mobile communication systems」の研
究で、同学会のフエローの称号を授与された。2012年1月
からライフ・フエローの称号を授与された。
★ 2008年5月、電子情報通信学会において、同学会の
最高位の会員である名誉員に選ばれた。なお、名誉員とは、電
子工学及び情報通信に関する学問、技術または関連事業に関し
特別の功績を有する会員(現在、全学会会員の約0.26%し
かいない。)
★ 2010年6月、日本シミュレーション学会から、「シ
ミュレーション技術と学会発展に関する貢献」で、同学会の
フェローの称号を授与された。
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学会活動等
•
•
•
•
•
•
1998年6月~2000年6月
2000年6月~2002年6月
2002年6月~2004年6月
1989年5月~1990年5月
1989年5月~1990年5月
1993年5月~1994年5月
・
•
•
1995年5月~1997年5月
1995年5月~1998年5月
1996年5月~1997年5月
・
•
•
•
•
•
•
1998年5月~現在に至る
1999年5月~2001年5月
1999年9月~現在に至る
2002年5月~現在に至る
2002年5月~2008年5月
2004年5月~2006年9月
2006年9月~2011年5月
日本シミュレーション学会理事(国際担当)
日本シミュレーション学会副会長(理事)
日本シミュレーション学会会長(理事)
電子情報通信学会回路とシステム研究専門委員会委員長
電子情報通信学会評議員
電子情報通信学会基礎・境界研究グループ(現基礎・境界ソサ
イティの前身母体)運営委員会委員長
電子情報通信学会評議員
電子情報通信学会基礎・境界ソサイティ編集長
電子情報通信学会多次元移動情報ネットワーク研究専門
委員会・委員長及び同ネットワーク学術研究集会委員長
電子情報通信学会企画室委員
電子情報通信学会評議員
電子情報通信学会教科書委員会実行委員会委員
電子情報通信学会技術と歴史研究会委員長
電子情報通信学会編集長(理事)
電子情報通信学会認定企画実施委員会委員長
電子情報通信学会アクレディテーション委員会委員長
ほかIEEE(米国)などの委員会委員長なども含め多数の委員会委員長、委員を歴任
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以上に挙げた先生の方々の他に、他大学の特にご指導いただいた先生の方々:
東京大学
東大生研
東北大学
宇都宮敏男教授、林 毅教授、斉藤正男教授、斉藤忠夫教授、羽鳥光俊教授、
青山友紀教授、安田浩教授
沢井善三郎教授(制御理論の指導を受ける)
高羽禎雄教授、原島文雄教授、坂内正夫教授、
佐藤利三郎教授(何かと、東北大学出身の岡田・大類両教授の弟子である私に、格
別な助言と激励をいただいた。後になって聞いたことであるが、上記総合研究の審査
を担当され、高く評価し、支援していただいた一人であった。)
大阪大学
尾崎 弘(白川 功氏の研究指導教授)
藤沢俊男教授(研究会発表後、論文について「すばらしい結果と証明だ」と激
励いただき、以後、特別に、弟子のようにかわいがっていただいた。)
九州大学
大野克郎教授(西 哲夫氏の研究指導教授)
古賀利郎教授
東京工業大学 岸 源也教授(梶谷洋司氏、木田拓郎氏、石井六哉氏の研究指導教授)
辻井重男教授(電子情報通信学会の私の前任編集長)
新潟大学
阿部武雄教授(仙石正和氏の指導教授)
イリノイ大学アーバナ・シャンパン校
Prof. M. Van Valkenburg、 Prof. W. Mayeda
イリノイ大学シカゴ校
Prof. Wai-Kai Chen
カリフォルニア大学バークレ校
Prof. L.O. Chua
サンタクラーラ大学
Prof. Shu-Park Chan
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★ 中央大学での教員本務歴
•
•
•
•
1965年4月~1970年3月
中央大学理工学部研究助手
1970年4月~1974年3月
中央大学理工学部専任講師
(正確には、 1972年4月~1973年3月 休職)
1974年4月~1982年3月
中央大学理工学部助教授
1982年4月~現在に至る
中央大学理工学部教授
★ 学内委員等
•
•
•
•
•
•
•
学生部部長代行
入試管理委員会委員
研教審教育体制部会委員
研教審日本語教育検討部会委員
中央大学国際交流センター所長
中央大学大学院理工学研究科委員長
中央大学選任評議員
1986年4月~1987年3月
1989年5月~1990年3月
1990年4月~1992年3月
1992年4月~1993年3月
1991年4月~1994年3月
1995年11月~1999年10月
1992年5月~2001年5月
2002年5月~2011年5月
★ 学外
・ 新潟大学大学院自然科学研究科非常勤などの他大学の非常勤
・ 大学評価・学位授与機構学位審査会専門委員など
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エピローグに当たり
(コモ湖の湖畔のヴォルタ霊廟前で仙石氏が撮影)
私は、これまで、
いつも
いい師がいて、
いい友がいて、
いい学生がいて、
常に前のみを見て歩むことができた
これからも、前のみを見て、
「我の中にある我は我でなく、
汝の中にある我こそ我なり」
を忘れずに、 歩みたい!
ご清聴ありがとうございました。
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では、また、
shinoda labs.
しのだ
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