Transcript 食物アレルギー(小柳)
食物アレルギー
第2回 アレルギーブートキャンプ
平成25年11月16日 於 長岡中央綜合病院
立川綜合病院 小児科 小柳貴人
INTRODUCTION
はじめに
給食による食物アレルギーで初の死亡例報告
平成24年12月 東京都調布市で
国内初の給食誤食事故による死亡
例が報告された。
患児には重篤な牛乳アレルギーがあ
り、エピペンが処方されていた。
教職員、同級生はそのことを知ってお
り、教職員は定期的なアレルギー研
修会を開催していた。
患児には牛乳を除去した特別食が
提供されており、さらに献立表を確認
して誤食しないように努めていた。
にもかかわらず、誤食に至ってしまっ
た。
エピペンの使用が遅れてしまった。
県内でもつい最近・・・
患者会が発足
先日、長岡市と柏崎市にアレル
ギーの子どもがいる保護者が集
まる「患者会」が発足しました
新潟県内のアレルギー児患者
会は既存の新潟市を含めて3つ
になりました
BASIC
KNOWLEDGE
アレルギーの基礎知識
アレルギーとは?
ある特定の物質(抗原)に対して免疫反応(異物を体か
ら排除しようとする反応)が過剰に働いてしまう状態
摂食、吸入、接触などにより原因抗原(アレルゲン)が体
内に侵入することで発症する
アレルゲンの摂取から2時間以内に発症する即時型アレル
ギーと1~2日後に発症する遅延型アレルギーがある
食物アレルギー
通常なら食べても害のない食物を摂取した際に、体に異常
をきたす病態
「口の中がイガイガする」「体がムズムズ痒い」などの軽微な症
状から「呼吸困難」「ショック」など命の危機にさらされる重篤
な症状まで様々
生まれつきの体質が大きく影響しており、短期間で治るもの
ではない
除去療法(原因食物を食べないようにする)が主体であり、
根本的な治療はまだ確立されていない
食物が関与する病態
毒性物質による反応
(全てのヒトに起こ
る)
細菌毒素や
自然毒など
食物により
引き起こされる生体に
食物アレルギー
不利益な反応
非毒性物質による反応
(ある特定のヒトにの
み起こる)
食物不耐症
幼児の食物アレルギーは
10年間で2倍に増加している
食物アレルギーの罹患率 (東京都3歳児健康診査)
(%) 25
20
症状あり
診断あり
21.6
15.6
罹 15
患
率 10
9.4
7.1
14.4
8.5
5
0
平成11年
平成16年
平成21年
食物アレルギーの症状
症状の割合
原因食物
診断
症状、経過
診察所見
アレルギー疾患の既往歴/家族歴…アトピーや喘息など
血液検査…総IgE値、特異的IgE抗体検査など
皮膚試験…プリックテスト/スクラッチテスト
経口負荷試験…食べてみて症状が出るか見る検査
治療
除去食療法が基本
アレルギー体質を改善する根本的な治療はまだ確立されていない
誤食による症状出現時には症状に合わせた対症療法を行う
–抗ヒスタミン剤…主に皮膚症状に対して
–気管支拡張薬…主に呼吸器症状に対して
–ステロイド剤…全身のあらゆる症状に対して
–アドレナリン(エピネフリン)…ショック・プレショック時の血圧上昇効
果や全身症状の改善
予後
原因食物によって予後が異なる
4~5歳頃から食べられるようになることが多い食品
卵、乳、小麦、大豆など
一生続く可能性が高い食品
エビ・カニ、そば、ピーナッツ、ナッツ類、ゴマ、果物類など
KNOWLEDGE
OF
ANAPHYLAXIS
アナフィラキシーに関する知識
アナフィラキシー
アレルゲン(アレルギーの原因物
質)を摂取した後、全身の複数の
臓器に重篤なアレルギー症状が
おこる状態
アナフィラキシー症状出現時には
数分でショック状態に至る場合が
あり(アナフィラキシーショック)、
全身の循環不全により命を落と
すこともある
一刻も早く治療が必要
アナフィラキシーの原因に
なりやすい食物
ナッツ類、甲殻類(エビ・カニ)、
ソバ、ゴマ、小麦
アナフィラキシーのグレード分類
エピペン®を使用するタイミング…一般向け
(日本小児アレルギー学会提唱)
エピペンが処方されている患者でアナフィラキシーショックを疑う場合、
下記の症状が一つでもあれば使用すべきである
消化器の症状
・繰り返し吐き続ける
・持続する強い(がまんできない)おなかの痛み
・のどや胸が締め付けられる ・声がかすれる
呼吸器の症状 ・犬が吠えるような咳
・持続する強い咳き込み
・ゼーゼーする呼吸
・息がしにくい
全身の症状
・唇や爪が青白い
・脈を触れにくい/不規則
・意識がもうろうとしている ・ぐったりしている
・尿や便をもらす
処置・治療
モニタリング(ECGモニタ、SpO2モニタ、血圧モニタ)
酸素投与
ショック体位(下肢拳上、弾性包帯などで下肢圧迫)
アドレナリン筋注 0.01㎎/㎏
急速輸液
抗ヒスタミン剤(H1ブロッカー、H2ブロッカー)
ステロイド剤(水溶性プレドニン、メチルプレドニゾロンなど)
(蘇生処置)
参照:ハチ刺されからアドレナリン投与までの時間と予後
ハチ刺されからアドレナ
リン投与までの間隔(分)
アドレナリンの投与を受けた患者(%)
非死亡例(100例)
死亡例(50例)
5~10
15%
0
10~30
22%
0
30~60
50%
6%
>60
4%
18%
投与なし
8%
66%
報告なし
1%
10%
APPLICATION
応用
RAST値の読み方
総IgE値(RIST)はすべてのIgEの総和
例えば、総IgE値が80IU/mL・卵白RAST値が40UA/ml・
卵黄RAST値が10UA/mlなら、卵以外のアレルギーはほとんど
ないことが予想できる
Class0~6は単なる目安。保護者に説明しやすくするためのラ
ンク付けです。詳細な値を見る癖をつけましょう。
とくに除去食解除時期の判断に詳細値は参考になる(後述)
除去食療法の導入について
RAST値が高値だが、食べても無症状の場合が多々ある
多量に食べると症状がでるが、少量摂取では無症状の場合も多い
必要最小限の除去を行いましょう!
実際に症状が出る食品のみを除去する
「念のため」「心配だから」「RAST値が高いから」と必要以上に除去食物を
増やさない
原因食物でも、症状の誘発されない“食べられる範囲”までは摂取
できる
症状が誘発されない範囲の量ならば除去の必要はなく、積極的に摂取が可能
厚労省からも提言
無用な食事制限を長期間
強いられたことにより、栄養
不良に伴う低身長・るい痩、
好き嫌い、ストレスなどにつな
がる症例が散見される。
除去食解除のすすめ方
観察
考慮
検査
• 除去食療法を指導して外来フォローアップ
• 特異的RAST値を半年~1年毎に測定
• 1年以上その食品による食物アレルギーの症状が出ていない(全く
摂取していない場合も含む)
• RAST値の低下傾向がみられる
• プロバビリティーカーブで症状出現確率が50%未満になった
• 原因食品を少量含む食品を食べることができている
• プリックテスト/スクラッチテスト
• 食物経口負荷試験(アナフィラキシーのない軽症例は自宅負荷も可)
除去食解除!
プロバビリティカーブ
多重(マルチ)食物アレルギー児の管理
目安として総IgE値 3000 IU/mL以上、原因アレルゲン(本
当に症状が出てしまう食品)が5種以上あるような多重食物アレ
ルギー児は重症タイプ!
誤食でアナフィラキシーをきたす可能性も高い
穀類・肉類も摂取不可の場合、栄養障害に陥る可能性がある
専門家による厳密な指導の下、1種類でも多くの食物が食べら
れるように経口食物負荷試験を繰り返す必要がある
代替食指導など、詳細な栄養指導が必要
このタイプの食物アレルギー児を見つけたらご紹介ください
食物アレルギー診療ガイドラインは必携!
エピペンについて
ハチ刺傷、食物アレルギーなどによるアナフィラキシーに対する緊急補助治療薬。
アナフィラキシー発症の際に医療機関へ搬送されるまでの症状悪化防止を主な
目的とする。
患者本人以外に、保護者、教職員、救急隊にも使用が許されている。
処方するにあたって、ファイザー製薬による講習会またはオンライン講習が必要。
2011年9月から保険適用
0.3mg規格;10,950円
0.15mg規格;8,112円
※使用期限;およそ1年間、1年ごとに再処方が必要
33
EXPERT
KNOWLEDGE
専門知識
特殊な食物アレルギー
食物依存性運動誘発アナフィラキシー
(FEIAn,FDEIA)
原因食物を食べるのみ、または運動のみでは症状が出ないが、「原因
食物の摂取+運動 」により強いアレルギー症状が出る
10歳以上の患者が多く、幼児ではまれ
通常の食物アレルギーよりも強い症状(アナフィラキシー)が出やすい!
血圧低下(ショック)→意識混濁→死に至る可能性がある!
原因食物…小麦70% 甲殻類20% その他10%
小麦RAST陰性例が多い→ω5グリアジンRASTを測定しましょう
原因が特定できない場合は食物運動負荷試験が必要な場合がある
特殊な食物アレルギー
口腔アレルギー症候群(OAS)
口内や唇など口周囲に限定した場所にのみ症状が出る食物
アレルギー
原因食物として果物類が多い
シラカンバ花粉やラテックスなどと交叉反応が知られている
食物を加熱することで多くが予防できる
アナフィラキシーなどの全身症状が出ることは稀
目からうろこ話
製造ラインでの混入
原材料としては使用されてい
なくても、同じ調理器具や製
造ラインで複数の食品を製造
する場合、製造工程で原因
食品が混入する恐れがある
重症の食物アレルギー児では
ごく少量の混入でアナフィラキ
シーを発症することがあるた
め、製造ラインでの混入にも注
意が必要である
目からうろこ話
仮性アレルゲン
野菜や果物、魚などに含まれる化学伝達物質によって
食物アレルギー類似症状を起こすことがある
アレルゲンコンポーネントとその測定意義
アレルゲンコンポーネントとは食物に含まれる数十種類
のたんぱく質の中でもIgE抗体が認識してアレルギー症
状に関与するたんぱく質のことを指す。中でも、アレル
ギー患者の半数以上が反応するコンポーネントを、主
要アレルゲンという。
一つの食品の中に性質の異なる複数のアレルゲンコン
ポーネントが存在し、それぞれが異なる病態をもたらす
場合がある。
コンポーネント特異的IgE抗体を検査することによって
食物アレルギーのより正確な診断と病態の把握が可
能となる。
特異的IgE抗体が測定可能なアレルゲンコンポーネント
*保険収載
アレルゲンコンポーネント各論
鶏卵アレルゲン
卵白
オボアルブミン…過熱により容易に変性する
オボムコイド(Gal d 1)…過熱による変性を受けにくい
卵黄
多くの患者では卵白特異的IgE抗体とオボムコイド特異的IgE抗
体は強く相関する
乳幼児の一部の患者では卵白IgE抗体が陽性でもオボムコイド特
異的IgE抗体が陰性or低値を示す場合がある☞加熱卵なら食べ
られる可能性
アレルゲンコンポーネント各論
牛乳アレルゲン
カゼイン(Bos d 8)
α-ラクトアルブミン(Bos d 4)
β-ラクトグロブリン(Bos d 5)
カゼイン特異的IgE抗体は牛乳特異的IgE抗体検査よりもわずか
に感度・特異度が良く、診断的意義が高い
α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン特異的IgE抗体は、診断感
度・特異度ともに劣るため検査の役割は大きくない。
小麦アレルゲン
アレルゲンコンポーネント各論
アルブミン・グロブリンー水・塩可溶性
グルテンー水・塩不溶性
グリアジンー70%エタノールに可溶性
グルテニンー70%エタノールに不溶性
小麦特異的IgE抗体の陽性的中率は抗体価とともに上昇するもの
の、クラス4で50%前後、クラス6でも80%程度に留まるため、特
異的IgE抗体が陽性というだけで診断することはできない
ωー5グリアジン特異的IgE抗体はクラス3以上で90%以上と高い
陽性率を示し、診断に有用である。
ただし、小麦アレルギー児の約20%ではωー5グリアジン特異的
IgE抗体は陰性となるため、必ず小麦特異的IgE抗体と合わせて
検査が必要。
アレルゲンコンポーネント各論
ピーナッツアレルゲン
7Sグロブリン(Ara h 1)
2Sアルブミン(Ara h 2)
11Sグロブリン(Ara h 3)
上記のうち、Ara h 2特異的IgE抗体検査は感度・特異度ともに
非常に高く、検査として有用
アナフィラキシーの確率が高いピーナッツ経口負荷試験を回避するこ
とができる可能性も・・・
アレルゲンコンポーネント各論
汎アレルゲン
口腔アレルギー症候群は各種花粉のアレルゲンコンポーネントと野
菜・果物のアレルゲンコンポーネントの相同性が高いことが原因
シラカンバ花粉(Bet v 1)=リンゴ(Mal d 1)
=大豆(Gly m 4)など
コンポーネントとエピトープ
連続性エピトープ
加熱で不活化しない
構造性エピトープ
加熱で不活化
コンポーネント
CONCLUSION
おわりに
アレルギー分野は伸び盛り!
アレルギー患者は年々増加しており、軽度の花粉症なども含めると人
口の4割以上がアレルギー疾患を患っていると推測されている
小児科においても1~2割の児がアレルギーを患っており、見過ごすこ
とができない割合である
アレルギー疾患は主な疾患の10種類程度しかないが、他の専門分
野と異なり、「なぜ発症するのか?」「どのような機序で発症するのか」
「完治するのか?」「予防することができるのか?」など、基本的な部分
がブラックボックスとされてきた
しかし近年、『衛生仮説』などを起点に、アレルギー発症に関わる因子
が解明されつつあり、原因究明・根治療法・予防などに向けた研究が
盛んになされ、非常にホットな分野である
いっしょにアレルギーを勉強しませんか?
新潟県内にはアレルギー専門医が圧倒的に不足しています
食物負荷試験を定期的にやっている施設がほとんどない
スパイロメトリーやピークフローメータの指導も皆無に等しい
アトピー治療でも未だにステロイド忌避の指導がなされていたりする
↓
アレルギー診療のレベルは全国的にもかなり低いと言わざるを得ない
ご希望があれば定期的に勉強会を行って
徹底的に御指導させていただきます