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近接連星系が Astrometric binary になる、か? 紹介論文 “Masses of neutron stars in high-mass X-ray binaries with optical astrometry” Tomsick & Muterspaugh, 2010, ApJ, 719, 958-965 植村誠 @雑誌会 101229 紹介論文の概要 • 中性子星(NS)の質量を正確に推定するのは中性子の 内部構造を探るのに大事だけど、一番邪魔してるの が連星軌道傾斜角の不定性。 • 将来の可視スペース干渉計でμarcsec精度の位置天 文(astrometry)ができれば、大質量中性子星連星系 (NSXB)の軌道運動が分解できる、かも。 • 試しにスペース干渉計計画「SIM Lite」の目標仕様で シミュレーションしてみると、いくつかのNSXBでは数% の精度でNS質量が決定する、という結果に。 (教科書的な)用語説明 • 中性子星を含む大質量X線連星 – OB型星と中性子星からなる連星系 – 連星系としての年齢も若く、軌道の離心率が高いこと が多い コンパクト天体が中性子星であることは、パルスやX線 バーストがX線で検出されることからわかる。 • – • 中性子星の内部構造 – – – – • よくわかっていない。クォーク星である、との説もあり。 状態方程式⇔質量ー半径関係、が内部構造によって 異なる。既にいろいろな説が提案。 質量は連星運動からケプラーの法則を使って質量関 数(mass function)を求めることが多い。 半径は中性子星表面の熱放射の観測から、放射領域 のサイズを見積もって推定する。 位置天文 (astrometry) – – – • Wind accretion 遠方クェーサーなどを基準に座標系を定義して、星の 位置を精測する。 位置の他に Parallax、固有運動が得られる。 Hipparcos がmili arcsec (mas)精度の観測を行った。現 在までこれが最も良い精度の全天カタログ。 SIM Lite計画 – – – http://sim.jpl.nasa.gov/index.cfm 可視のスペース干渉計でμarcsec精度を目指す。基線 長6m、望遠鏡1つの口径50cm。位置精度=数μas、 限界等級20等。15度角くらいの領域内を観測。全天 サーベイはしない。 Astro2010 Decadal Survey で推薦されず。NASAは予算 打ち切り。 Tomsick et al. (2010) なんで今日こんな話をするのか、の背景 • JASMINE計画 – 日本のスペース位置天文計画(干渉計ではない) • nano JASMINE:口径5cm、位置精度~3masを目指す。全天サーベイ。zバンド。小型衛星 (35kg)として来年打ち上げ。 • 小型JASMINE:口径30cm、位置精度10μasを目指す。バルジ方向数平方度を観測予定。 Hバンド。400kgくらいの予定。現在衛星開発の予算獲得のため、計画白書を作成しようと しているところ。 • JASMINE:最終目標。口径75cm、位置精度10μas。2020年代の実現を目指す。 – 小型JASMINEでできるコンパクト天体連星系のサイエンス • で何か良いアイデアないですか、と問い合わせ。 • ない、と即答するのもなんなので、ちょっと調べてみると、激変星やX線連星の軌道運動 の見込み角とほぼコンパラの位置精度であることがわかった。 – 12/1のJASMINEサイエンスWSで議論(野上さん@京大) • 先行研究が当然あるだろう、と調べたらあった、のが今回の紹介論文。 • GAIA計画 – – – – ESAのスペース位置天文計画 可視光全天サーベイ JASMINEと同等かそれ以上の位置決定精度 GAIAに対するJASMINEのアドバンテージ = 近赤外線でバルジの奥まで。 ここから紹介論文の内容 サンプル 条件:明るいこと。連星軌道の見込み角が大きいこと。軌道周期や距離などのパラメー タ、特にa ∙ sin(𝑖)が精度よく決まっていること。中性子星であることが確定していること (パルサーorバースター)。 →17個の HMXB。 X Perで予想される位置の変化 連星運動まで含めた 全ての位置変化 固有運動 年周視差の項 サンプルの角度と等級 シミュレーション SIM Lite計画の目標仕様 を使う。 既にシミュレーターが SIM Liteチームによって開発済 み。 位置精度の「誤差」をシ ミュレートするのが目的。 →そこから連星パラメータ の信頼区間を計算。最終 的には中性子星質量の 信頼区間を計算したい。 実際に設定したパラメータ 今回は既知連星系が目的なので、軌道周期、長半径は「既知」として、 他の連星パラメータをmodel fittingで推定する。 Model fitting 天体までの距離、連星(ケプラー)運動、見込み角の関係 天球面上の位置変化 連星軌道を決めるパラメータ7つ 𝑃:軌道周期 𝑎:軌道長半径(角度) 𝑒:離心率 𝑖:軌道傾斜角 𝜔:軌道面内における近星点(periastron)の経度 Ω:投影面内のnodeの位置角 𝑇0 : 近星点時刻 Thiele-Innes elements 𝐴 = 𝑎 + cos 𝜔 cos Ω − sin 𝜔 sin Ω cos 𝑖 𝐵 = 𝑎 + cos 𝜔 sin Ω + sin 𝜔 cos Ω cos 𝑖 𝐹 = 𝑎 − sin 𝜔 cos Ω − cos 𝜔 sin Ω cos 𝑖 𝐺 = 𝑎 − sin 𝜔 sin Ω − cos 𝜔 cos Ω cos 𝑖 離心率0の円軌道なら話はもっと簡単。 シミュレーション結果 結論 • 数μasの位置精度があれば、いくつかのNSXBで は数%の精度でNS質量が決定する。 • NS以外にも、Cyg X-1, SS 433, 4U 1700-377 (2.4MoのNSという報告あり)、LS I+61 303, LS 5039は SIM Liteの精度ならコンパクト天体の質 量が精度良く求まる可能性あり。 – ただし、a*sin(i)は別途測っておく必要あり。 ここからオリジナルの補足 軌道運動の分解 天体 距離 典型的なCV,XRBでの例 連星間距離 質量比 連星周 軌道 (cm) (M1/M2) 傾斜角 期(日) SS Cyg (CV) 170 pc 1.5e11 1.50 51 0.275 35 111 84 GK Per (CV) 470 pc 5.6e11 2.1 ~75 2.0 54 25 137 Cyg X-1 (XRB) 2.5 kpc 2.9e12 0.36 48 5.6 20 5.6 86 GRS 1915+105 ~10 kpc 7.1e12 17 66 31 45 ? ? (XRB) • 角度 (μas) 固有運動 (Hipparcos; mas/yr) 固有運動 (μas/周期) 10μasの位置決定精度なら分解できる? – – Astrometric binaryになれば研究史上の「事件」 既知天体では軌道傾斜角が不定性なしに決定 • これまでは輝線幅や伴星の楕円変光のモデル計算から推定。 →降着円盤からの輝線の起源、ジェットと円盤は本当に垂直か?など検証 • 近赤外線域なら伴星が卓越 – – – 伴星がOB型のX線連星なら可視ー近赤外線域で伴星が卓越 伴星がGKM型のX線連星や激変星だと、8割以上は伴星からの光 (e.g. Dhillon & Marsh 1995, MNRAS, 275, 89) 可視光では降着円盤やホットスポット、白色矮星からの放射の寄与が比較的大きい。 • JASMINE向き? 問題点 • 9<H<11で観測可能な天体数が少ない 以下、いずれも全天で、 – CV:~10天体 (Ritter & Kolb catalog) – 伴星が低質量星のXRB:全滅 (Ritter & Kolb catalog) – 伴星が大質量星のXRB:~20天体(Catalogue of Galactic high-mass X-ray binaries) • 時間分解能&精度は足りるか? – – – – 最短で、数時間の軌道周期を10分割するとして、数十分の時間ビンでの解析が可能か? その場合の位置精度は? 精度的にはギリギリか。もう1ケタ精度が上がれば良いテーマ? 中性子星+大質量連星は楕円軌道なので、パラメータが増えて難しいだろう。 激変星やブラックホールX線連星は円軌道なのでその辺りは楽か。 未知天体については? • 既知天体の観測可能数は少なくても、未知のCV,XRB候補天体、特に質量輸送開 始前の天体が見つかる? – 連星進化の観点から面白いかも。 – CV,XRBだけではなく、食連星を含めた連星一般のテーマ? – 通常の proper motion + parallaxのモデルでfittingの後、残差が大きいものを連星候補と考え て周期解析 を行う? まとめ • JASMINEではちょっと無理かなあ、という印象 が日に日に強く。。。 – 狭い観測領域と精度の両面で問題 – かといって未知天体はP,aの推定も含まれるので、 より厳しいか。 – GAIA向きかなあ。 • コンパクト天体に限らず、「連星」一般なら可 能性が膨らむかも。