燃料プール

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日本ジャーナリスト会議
平成23年4月13日
福島原発事故で起ったこと、
そして今後の課題
田中 俊一
1
内 容
1.事故の直接要因とその拡大
事故対応の失敗
2.環境に放出された放射能とその影響
3.原発サイトの放射能対策
4.今後の課題
5. 原子力損害賠償
6. 緊急建言について
2
1.事故の直接要因とその拡大
事故対応の失敗
3
沸騰水型原子炉(BWR)の構造
原子炉建屋上部
使用済燃料貯蔵プール
原子炉圧力容器
格納容器
サプレッションチェンバ
(圧力抑制室)
4
原子炉の崩壊熱
崩壊熱/炉出力
停止直後 5~7%
1日後
0.3~0.5%
10日後
~0.2%
全炉心崩壊熱 (MW)
1E+02
原子炉停止から3日後でも1時
間に8.3tonの水(100℃)を蒸発
させるだけの熱(5.2MW)を発生
1E+01
1E+00
0
24
48
72
96
120
144
168
192
炉停止後の時間(時)
原子炉停止からの全炉心崩壊熱の時間変化
(福島第一原子力発電所1号機:平均22000Mwd/tを仮定)
5
時系列から探る初期対応の誤り
黒:日経・朝日、青:官邸データ、赤:コメント(田中)
3月11日(金)
14:46 地震発生、運転中の1,2,3号機自動停止
16:36 ECCSによる注水不能、原災法に基づく緊急事態発生を国に通報(東電)
19:03 原子力災害対策本部設置、原子力緊急事態宣言発令(首相)
20:30 2号機の冷却装置停止
22:50 2号機の炉心露出、燃料溶融予測(NISA) ⇒ 水素発生認識?
3月12日(土)
1:20 1号機格納容器圧力の異常上昇通報(東電) ⇒ 水素発生の認識?
1:30 政府が東電に水蒸気放出を指示 ⇒ 水素の認識?
6:38 1号機中央制御室の線量、通常の1000倍(NISA)
D/W圧力(2:45-5:20に0.941MPa) 破壊寸前!
格納容器は過大な圧力で機密性を失ったため内部の放射能と水素が
原子炉建屋へ漏洩、しかし格納容器からの放射能漏洩認識欠如
6:50 炉規法に基づき、経産相から1,2号機の格納容器圧力を下げるよう東電に命令
9:11 NISAが1,2号機の格納容器内の蒸気を外部に放出することを東電に命令
水素爆発の認識なし!
10:17 1号機でベント実施
15:36 1号機で水素爆発
20:32 1号機に海水注入開始
6
3月13日(日)
8:41 3号機格納容器ベント開始
RPV圧力約9気圧から72気圧へ急上昇(8:00)、水位急低下(-3000mm)
D/Wの圧力上昇、その後RPV圧力大気圧まで低下。
⇒ 13:12に海水注入するまで炉心冷却なし長時間放置
11:20 2号機格納容器ベント開始
13:12 3号機に海水注入開始
3月14日(月)
16:34 2号機に海水注入、水位回復せず、燃料露出
17:12に水位ダウンスケール、PRV圧力74気圧、19:03から6気圧前後、15日
18:43に大気圧。
⇒ 圧力バウンダリーが破壊(破壊の原因不明)
3月15日(火)
6:00 4号機で爆発(SFプール)、水位低下により水素発生、燃料破損
⇒ 停止中の原子炉の燃料プールの監視を怠ったため。
6:10 2号機で水素爆発、圧力抑制室損傷
⇒ 燃料溶融と大量の水素発生についての認識欠如
3月16日(水)
8:30 3号機から白煙、SFプールの水位低下、燃料破損
⇒ 使用済燃料の発熱についての認識欠如、地震によるSFプールの損傷も確
認せず。「SFプールの水位に注意」の助言が届かず。
7
プラントの状況(1号機)
原子炉
・炉心(RPV)
燃料損傷70%(新聞)、溶融し、炉内構造物や塩と一緒になってRPVの下部
に蓄積。
炉心冷却の給水量6m3/h(ワンススルー)
圧力バウンダリは未だ確保されている。
・格納容器(DW)
蓋と胴体部の間の間隙等があると想定されるが、一応健全(完全でない)。
D/W内の線量は、約40Sv/h
水素爆発回避のため窒素ガスによるパージ、ドライベント実施(繰返し実施)
・原子炉建屋は、水素爆発により大きく破損
燃料プール
・燃料は水没状態、12年以上の冷却されており発熱は少ない。
放射能インベントリー(概略評価値) [Bq]
炉心
燃料プール
I -129
-----1.1 x 1011
I -131
1.3 x 1018
-----Cs-137
3.7 x 1017
3.5 x 1017
8
プラントの状況(2号機)
原子炉
・炉心(RPV)
燃料損傷30%(新聞)、溶融し、炉内構造物や塩と一緒になってRPVの下部
に蓄積。
炉心冷却の給水量8m3/h(ワンススルー)
圧力バウンダリは破損し、冷却水はタービン室へ
・格納容器(DW)
蓋と胴体部の間の間隙等があると想定されるが、一応健全(完全でない)。
DW内の線量は、約40Sv/h
水素爆発回避のため窒素ガスによるパージ、ドライベント実施(繰返し実施)
・原子炉建屋は一部破損し、密封性はない。
燃料プール
・燃料は水没状態、白煙。
放射能インベントリー(概略評価値) [Bq]
炉心
I -129
-----I -131
1.7 x 1018
Cs-137
5.0 x 1017
燃料プール
1.5 x 1011
-----4.7 x 1017
9
プラントの状況(3号機)
原子炉
・炉心(RPV)
燃料損傷25%(新聞)、炉内構造物や塩と一緒になってRPVの下部に蓄積。
炉心冷却の給水量8m3/h(ワンススルー)
圧力バウンダは破損し、冷却水はタービン室へ
・格納容器(DW)
蓋と胴体部の間の間隙等があると想定されるが、一応健全(完全でない)。
DW内の線量は、約44Sv/h
水素爆発回避のため窒素ガスによるパージ、ドライベント実施(繰返し実施)
・原子炉建屋は水素爆発により大きく破損。
燃料プール
・燃料は破損し、水素爆発。現在は水没状態であるが水位が低い、白煙。
・MOX燃料貯蔵中。
放射能インベントリー(概略評価値) [Bq]
炉心
燃料プール
I -129
-----1.5 x 1011
I -131
1.7 x 1018
-----Cs-137
5.0 x 1017
4.7 x 1017
10
プラントの状況(4号機)
原子炉
・オーバーホール中で炉心には燃料がない。
・原子炉建屋は、水素爆発により大きく破損。
燃料プール
・燃料は破損し、水素爆発。現在は水没状態であるが水位が低い(プールの一
部の破損の疑い)、白煙。
・貯蔵中の燃料の発熱は、非常に大きい。
・低燃焼度の燃料も貯蔵されている
(臨界の可能性は極めて考えにくいがゼロでない)。
放射能インベントリー(概略評価値) [Bq]
燃料プール
I -129
3.0 x 1011
I -131
1.1 x 1016
Cs-137
1.0 x 1018
11
冷温停止の見通し
①1号機のRPV圧力増加、水素爆発、溶融燃料の貫通
②炉心冷却の停止、中断
現状での長期冷却となることを考慮し、冷却の中断をしないバックアップシ
ステムの準備
③本格冷却システムを構築するまでの、高レベル冷却廃液の始末
・ 2号機、3号機は、圧力バウンダリーが破れて、大量の冷却水が溢れている
ため、電源を回復させても、既存の余熱除去システムは使えない可能性が大
である。
・ 新規の余熱除去システムを製作、設置する方針のようでもあるが、既存の
冷却配管と接続する高放射線下での作業見通しと漏洩箇所の修復見通しが
不明。
⇒ どのような困難があっても、成功させなければならない。
・ 1号機は、まだ圧力バウンダリーが壊れていないので、既存の余熱除去シス
テムが利用できる可能性あり?
12
2.環境に放出された放射能と
その影響
13
空間線量率の変化(サイト)
美浜の会資料 14
空間線量率の変化(サイト)
空間線量率の変化(サイト)
美浜の会資料 15
空間線量率(20km以遠)
美浜の会資料 16
空間線量率の変化(30km以遠)
福島市、郡山市の線量率は、2μSv/hから下がらない!
美浜の会資料 17
SPEEDIによる甲状腺被ばく評価
大気中に放出された放射能
131I:3~5x1016 Bq
インベントリーの1%程度
18
土壌モニタリングの実測例(Bq/kg)
I-131
Cs-137
空間線量率(μSv/h)
飯舘村
3月19日
300,000
28,100
26.5
北西40km
3月20日
1,170,000
163,000
25.8
3月21日
207,000
39,900
20.4
3月26日
564,000
227,000
10.2
3月31日
149,000
27,600
8
4月1日
146,000
43,700
7.7
4月1日
21,400
1,410
4月5日
31,600
8,380
4月5日
59,300
24,500
3月31日
423,000
98,100
二本松市
3月25日
32,900
9,330
西北西
3月31日
24,400
14,200
45km
4月5日
17,800
15,800
小野町
3月19日
14,100
4,630
南西40km
3月22日
3,220
466
4月4日
791
139
4月5日
1,410
1,040
大熊町
南西5km
6.4
バラツキが
非常に大きい
19
文部科学省4月8日発表データから
避難及び屋内退避基準
国内基準
屋内退避:外部被ばくによる実効線量10~50 mSv
放射線ヨウ素による小児甲状腺の等価線量100~500 mSv
避
難:外部被ばくによる実効線量50 mSv以上
放射線ヨウ素による小児甲状腺の等価線量500mSv以上
国際放射線防護委員会(I C R P)の基準
屋内退避:50mSv(全身)、500mSv(甲状腺に対する等価線量)
避難(1 週間未満):500mSv(全身)
国際原子力機関(I A E A)の基準
屋内退避:10mSv(全身)、100mSv(甲状腺に対する等価線量)
避難(1 週間未満):5 0 mSv(全身線量)
米国の基準
避難(または屋内退避):10~50mSv、25mSv(甲状腺に対する等価線量)
放射性ヨウ素に対する防護策
5 Sv(4 0 歳以上) 100mSv(1 8~4 0 歳)、
50mSv(1 8 歳未満、妊婦および授乳中の女性)
20
被ばく線量の実像
一般公衆の被曝線量(空間線量率測定値に基づく)
・屋内退避地域(20km – 30km) で、50mSvを越える集積線量
・屋内退避外地域(30km以遠)で、現在までの集積線量40mSv
甲状腺被曝線量(SPEEDIによる評価)
・屋内退避外地域(30km以遠)で、100mSvを越える線量
・安定ヨウ素剤の配布(既に住民に配布した自治体あり)
- 500mSvを越える可能性のある場合
- 適当なタイミングで服用しなければ効果なし
- 40歳以上は効果なし
- 副作用に対する注意が必要(医者の指導)
従事者の被曝線量
個人の被曝線量は不明(100mSv以上が相当数)
21
放射線防護基準
計画被曝状況
職業被曝
5年平均で20mSv/年
公衆被曝
1mSv/年
ICRP 推奨(2011年3月21日付、ICRP ref:4847-5603-4313)
・ 緊急時に一般の人々を防護するためには、委員会は参考レベルを、最も高いと
ころで回避線量が20-100mSv の範囲になるように国内当局が設定すること.
・ 放射線源が制御できたとしても、汚染地域は依然残りうる。人々がその地域を
放棄することなく住み続けることができるよう、当局が必要なあらゆる防護策を講じ
ることが一般的であろう。その場合は、委員会は1 年間に1-20mSv の範囲の参考
レベルを選択し、長期目標として参考レベルを年間1mSv とすることを引き続き勧
告する。
安全委員会は、公衆の回避線量について年間20mSvを導入。居住
の参考レベルは未定(最大20mSv?)
22
避難住民の解除・帰宅に必要な対策
空間線量および汚染状況の把握(マップ)
137Cs及び90Sr等の測定
①長期の被ばく線量予測
・居住:20 mSv/年以下、数年以内に1mSv(ICRP推奨)
・20mSv/年の線量限度は、福島市、郡山市でもぎりぎりである。
②土壌等の汚染把握
・137Csが5000Bq/kg以上の土地での耕作禁止(政府)
・30km圏を越える広範な地域で制限値を越える137Cs汚染
・137Csの汚染は長期に続く
③居住及び農業利用等ができるようにするための対策
・当面は徹底した測定と汚染の除去
・中・長期的な汚染除去(低減化)
④居住、農耕、牧畜等に適さない住民及び地域の対策23
3.原発サイトの放射能対策
24
福島原発(写真)は、巨大な放射性廃棄物
25
廃棄物の種類
○原子炉内の燃料
全てが破損燃料で、一部は溶融し、構造物や塩と一体。大量の破損燃料の取扱い(取出
し、運搬・保管、処理、処分の経験なし。
○燃料プール内の燃料
1号機のSF燃料は、水素爆発の影響がなければ健全、2号機のSF燃料は健全
3号機、4号機の燃料はかなり破損。取出し、保管、運搬、処分の経験なし。
○液体廃棄物
高レベル:原子炉冷却水、サプレッションチェンバー内の水
中・低レベル:その他の排水
汚染除去や工事中にでる大量の排水
○気体廃棄物
原子炉内、格納容器内の気体状廃棄物:環境に出ないように処理することが必要
○固体廃棄物
(サイト内の全ての構造物、土壌、消防車等)
高レベル(余裕深度):原子炉圧力容器
中レベル:一次系構造物(遮蔽、配管等)、格納容器
低レベル:飛散物、一般建物(タービン室等)
26
廃棄物の処理・処分
気体廃棄物
・吸着等により捕獲し、希釈して排気(排出基準以下にすることは困難か)
・格納容器内の大量の気体廃棄物を一旦処理することが優先課題
大気にださないこと、周辺の線量レベルを下げること
・原子炉建屋内に漂っている放射性気体の除去(放射線レベルを下げる)
・冷温停止状態でも、RPV内では水素の生成が続き、格納容器に排気することになる。
・サイト内のあらゆるところに放射能が付着しているので、今後の後始末では、これらの
放射能を塵埃などとして、サイト内外に拡散させないことが大事。
液体廃棄物
・吸着、乾固などにより放射能を除去したあとで海洋に廃棄することになるが、高レベルで
様々な核種の混じった大量の廃液処理は難題。
・循環冷却ができるまでに排出される炉心冷却水(海水混じりの高濃度廃液)は、10万ト
ン程度かそれ以上になると推定。これを、放出基準まで下げるための技術は確立されて
いないので、処理システムの開発が必要。基礎データも不可欠。
・様々な作業、汚染除去などを通して低レベル廃液は、今後大量に排出されるので、適切
に処理できるシステムが必要。
固体廃棄物
・レベルごとに仕分けし、廃棄体とした後で、それぞれの処分場へ。ただし、福島原発から
出る量は膨大であり、サイト内での処理・処分以外は困難であり、保管廃棄以外の選択
肢はない。
27
解体・廃棄の手順
1.長期の作業ができる環境づくり(従事者の被ばく限度:20mSv/年)
サイト内に広く存在している放射性物質(土壌、瓦礫、破損物等)の撤去
放射性の気体の始末(格納容器、原子炉建屋)
管理されていない汚染水の処理
2.原子炉建屋の修復
SF燃料(輸送)容器等の重量物をハンドリングするためのクレーン等の設置
作業に伴う放射性物質の放出を防ぐためには、機密性、不圧性の建屋が必要。
機器、配管、壁等々の除染
3.燃料プールの使用済み燃料の撤去
1,2号機の燃料は健全?⇒通常のSF輸送容器の使用可能
3.4号機の燃料は大きく破損しているので収集は困難。また、収納する保管容器に
ついては新たな基準が必要(遮蔽、臨界、密封等)
4.原子炉内の燃料の除去
圧力バウンダリーを修復して、上部の蓋をあけて作業ができるようにする。
水位を燃料プールの上面まで確保できること(通常のオーバーホールと同じ)
破損・溶融燃料の状況の確認し、撤去作業開始までには、最低5年程度の冷却期間
が必要で、経験のない作業(極めて困難)。BWRはPWRより下部構造が複雑
これらの作業では、放射性物質が放出されるのでそれを拡散させない工夫が大事。
5.通常の原子炉解体作業に類似
ただし、すべてが汚染されているので極めて厄介。
28
タービン室廃液の濃度と量
廃液量:6000m3
測定日
2011/3/24
13
日後
放射能濃度Bq/cc
核種
東電実測値
全炉心溶出
溶出割合
Y-91
内臓放射能〈Bq〉
1.78E+18
Co-60
7.00E+02
Tc-99m
2.50E+03
1.98E+07
0.013%
1.19E+17
I-131
1.20E+06
9.93E+07
1.208%
5.96E+17
Cs-134
1.80E+06
7.27E+07
2.474%
4.36E+17
Cs-136
2.30E+04
1.01E+07
0.227%
6.08E+16
Cs-137
1.80E+05
5.88E+07
0.306%
3.53E+17
Ba-140
5.20E+04
2.51E+08
0.021%
1.51E+18
La-140
9.40E+03
2.89E+08
0.003%
1.73E+18
Ce-144
2.20E+06
4.07E+08
0.540%
2.44E+18
合計
5.47E+06
1.21E+09
0.453%
I,Cs
3.20E+06
2.41E+08
1.329%
29
4.今後の課題
サイト内の課題
サイト外の課題
30
今後の課題(サイト内)
• 事故の沈静化・安定化(数ヶ月~3年)
• 作業環境の改善(数ヶ月~5年)
放射能気体、汚染水、瓦礫等の処理
• 原子炉建屋修復・密封性修復(~1年)
• SF燃料、原子炉燃料取出し(5~10年)
• 通常の解体(10年)
• 廃棄物、破損燃料の保管(数10年)
31
今後の課題(サイト外)
•
•
•
•
•
•
放射線・放射能マップ(1~2ヶ月)
評価と対応策(1ヶ月~6ヶ月)
環境放射能の除染(数ヶ月~数年)
住民の移住、土地問題等(10年以上)
風評被害対策(数年)
放射線モニタリング(10年以上)
大気、土壌、海、米・野菜等、魚類等
• 損害賠償(10年以上)
• 健康調査・管理(最低10年)
32
今後の課題(その他)
・ 事故の終息、環境対策、廃棄物処理・処分には、新た
な法的な枠組みが必要
・ 事故対応に必要な科学技術
- 規制見直しに関わること
- 低線量被ばくの長期的影響に関すること
- 長期の土壌汚染の影響に関すること
食物連鎖(陸、海)、汚染除去・低減化
・ 廃棄物処理・処分、解体等技術開発
・ 国際社会と協働した事故究明
・ 原子力政策の見直し
- 原子力研究開発の見直し
33
5.原子力損害賠償
34
必要な費用は不確定(莫大)
◆ 損害賠償(短期)
1200億円では全く不足!
事業者(東電)責任の範囲(無限責任)
国の責任範囲
JCO事故では、親会社(住友金属)が全て負担し、
JCOは解散
◆ 長期的な損害賠償
35
原子力損害の賠償に関する法律
責任の所在
「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運
転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な
天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでない」(3条1項)
・事故を起こした原子力事業者に対しては、事故の過失・無過失にかかわらず、無制限の賠償責任
がある(無限責任主義)。
・賠償措置額は原子炉の運転等の種類により異なり、通常の商業規模の原子炉の場合は1200億円
と定められる(第7条)。
・賠償措置額を超える原子力損害が発生し、原子力事業者が自らの財力では全額を賠償できない
等の事態が生じた場合は、国が原子力事業者に必要な援助を行い、被害者救済に遺漏がないよう
措置することを定めている。これは被害者救済の実行を目的としたものであり、原子力事業者の無
限責任を免除する性質のものではない。
責任集中の原則
賠償責任を負う原子力事業者以外の者は、一切の責任を負わない。被害者が容易に賠償責任の相
手方を知り得、賠償を確保することができるようにするためのものである。
36
6.緊急建言について
37
積み重なる誤謬!
• 東電は、冷却機能喪失時の状況認識、対応についての知識が
決定的に欠如していた。原子力・安全保安院も同様。
。
• 間違いだらけの政府主導
-原子力災害対策特別措置法に基づく、行政、専門家など全て
の能力を活用する強力な体制がつくられなかった(現在も)。
-誤った情報コントロール(国民の信頼得られず)
-活かされない原子力安全委員会(自らの責任もある)
-東電の誤りを是正できない政府主導事故
-合理性・戦略性に欠ける対応は、今も継続中
-国内より、米仏という認識
38
福島原発事故についての緊急建言
はじめに、原子力の平和利用を先頭だって進めて来た者として、今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝いたします。
私達は、事故の発生当初から速やかな事故の終息を願いつつ、事故の推移を固唾を呑んで見守ってきた。しかし、事態は次々と悪化し、今日に至るも事故を終息させ
る見通しが得られていない状況である。既に、各原子炉や使用済燃料プールの燃料の多くは、破損あるいは溶融し、燃料内の膨大な放射性物質は、圧力容器や格納容器内に拡
散・分布し、その一部は環境に放出され、現在も放出され続けている。
特に懸念されることは、溶融炉心が時間とともに、圧力容器を溶かし、格納容器に移り、さらに格納容器の放射能の閉じ込め機能を破壊することや、圧力容器内で生成
された大量の水素ガスの火災・爆発による格納容器の破壊などによる広範で深刻な放射能汚染の可能性を排除できないことである。
こうした深刻な事態を回避するためには、一刻も早く電源と冷却システムを回復させ、原子炉や使用済燃料プールを継続して冷却する機能を回復させることが唯一の方
法である。現場は、このために必死の努力を継続しているものと承知しているが、極めて高い放射線量による過酷な環境が障害になって、復旧作業が遅れ、現場作業者の被ばく
線量の増加をもたらしている。
こうした中で、度重なる水素爆発、使用済燃料プールの水位低下、相次ぐ火災、作業者の被ばく事故、極めて高い放射能を含む冷却水の大量漏洩、放射能分析データ
の誤りなど、次々と様々な障害が起り、本格的な冷却システムの回復の見通しが立たない状況にある。
一方、環境に放出された放射能は、現時点で一般住民の健康に影響が及ぶレベルではないとは云え、既に国民生活や社会活動に大きな不安と影響を与えている。
さらに、事故の終息については見通しがないとはいえ、住民避難に対する対策は極めて重要な課題であり、復帰も含めた放射線・放射能対策の検討も急ぐ必要がある。
福島原発事故は極めて深刻な状況にある。更なる大量の放射能放出があれば避難地域にとどまらず、さらに広範な地域での生活が困難になることも予測され、一東
京電力だけの事故でなく、既に国家的な事件というべき事態に直面している。
当面なすべきことは、原子炉及び使用済核燃料プール内の燃料の冷却状況を安定させ、内部に蓄積されている大量の放射能を閉じ込めることであり、また、サイト内
に漏出した放射能塵や高レベルの放射能水が環境に放散することを極力抑えることである。これを達成することは極めて困難な仕事であるが、これを達成できなければ事故の終
息は覚束ない。
さらに、原子炉内の核燃料、放射能の後始末は、極めて困難で、かつ極めて長期の取組みとなることから、当面の危機を乗り越えた後は、継続的な放射能の漏洩を
防ぐための密閉管理が必要となる。ただし、この場合でも、原子炉内からは放射線分解によって水素ガスが出続けるので、万が一にも水素爆発を起こさない手立てが必要である。
事態をこれ以上悪化させずに、当面の難局を乗り切り、長期的に危機を増大させないためには、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、関係省庁に加えて、日本原
子力研究開発機構、放射線医学総合研究所、産業界、大学等を結集し、我が国がもつ専門的英知と経験を組織的、機動的に活用しつつ、総合的かつ戦略的に取組むことが必須
である。
私達は、国を挙げた福島原発事故に対処する強力な体制を緊急に構築することを強く政府に求めるものである。
平成23年3月31
日
青木
石野
木村
齋藤
佐藤
柴田
芳朗
栞
逸郎
伸三
一男
徳思
住田 健二
関本 博
田中 俊一
長瀧 重信
永宮 正治
成合 英樹
広瀬 崇子
松浦祥次郎
松原 純子
諸葛 宗男
元原子力安全委員
東京大学名誉教授
京都大学名誉教授
元原子力委員長代理、元日本原子力学会会長
元原子力安全委員長
学術会議連携会員、基礎医学委員会。総合工学委員会合同
放射線の利用に伴う課題検討分科会委員長
元原子力安全委員会委員長代理、元日本原子力学会会長
東京工業大学名誉教授
前原子力委員会委員長代理、元日本原子力学会会長
元放射線影響研究所理事長
学術会議会員、日本物理学会会長
元日本原子力学会会長、前原子力安全基盤機構理事長
前原子力委員、学術会議連携会員
元原子力安全委員長
元原子力安全委員会委員長代理
東京大学公共政策大学院特任教授
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福島原発事故に係る主な課題
当面の最重要課題は、大量の放射能を環境にださない工夫をしながら、原子炉と燃料プールの使用済燃料を連続冷却すること(循環余熱除去システムの復帰)。
必要なことは、電源を復帰させ、余熱除去システムを稼動させることで、一刻も速やかにこれを達成すること。
作業を速やかに実施するためには、作業環境、作業体制を整えること。
― 作業場の放射線量をできるだけ下げること
― 重層的な作業体制をつくって、24時間体制で実施できるようにし、個人の被ばく線量を抑制すると同時に、作業者が適切な休養・栄養・睡眠をとって思わぬ災害
やトラブルを起こさないようにすること。
高レベルの放射線量下での作業は、2-3時間で交代できるようにすべき。
前線の作戦本部はサイトまたはオフサイトセンター内において、サイト内の現場作業と一体となって取組む(被ばくも苦労も分かち合うこと)。
一個人に役割を集中させず、柔軟な役割分担も必要(現場所長等の超過労に配慮)。
制約条件
炉心や燃料プールの冷却を欠かすことができない。しかし、冷却を継続していても溶融炉心は、徐々に圧力容器壁を溶かし続けるので、時間的な制約がある。
水素は発生しており、細心の注意が必要。
高レベルの放射性排水の処理は、極めて困難。多くの放射線源が分散しており、適切な放射線管理と遮蔽対策が必要。
高レベル廃液は、移したところが放射線の発生源となるので、遮蔽が必要。
絶対に維持すべきことは、圧力容器と格納容器の閉じ込め機能と、使用済燃料プールの水位の維持
閉じ込め機能維持
格納容器の圧力を下げるとか、水素爆発を除くために排気すれば、格納容器内の放射能の一部が環境に出る。
燃料が破損・溶融したため、格納容器内には莫大な放射能が溜まっていると推定されるが、その量は不明。
ドライベントのように、放射能を環境に排出せざるを得ない事態には、住民、自治体に衆知し、適切な対応を要請すべし。
使用済燃料の破損防止
使用済燃料プールの水位が下がり、燃料が空気中に晒され、除熱できなくなると燃料被覆管であるZr合金の温度が上がり、Zr-水(水蒸気)反応が起こり、被覆
管が破損し、内部の放射能が環境に放出される。
既に、3号機と4号機の使用済燃料ではこうした事態が一旦起ったようであるが、これ以上被覆管が破損し、さらに大量の放射能が放出されるのを防ぐためには、
燃料を完全に水没させておくことが極めて重要である。
生活環境に放出された放射能対策と避難住民の復帰対策
広範に放出された放射能の詳細な測定と影響評価
― 空間線量(積算線量)、土壌汚染、飲料水汚染の実態と評価
― 核種・線量の汚染マップの作成
野菜等の風評被害対応
科学的で信頼できる評価と説明(個々バラバラの説明はよくない)
相当の広い範囲でセシウム137等による汚染があり、レベルに応じた対策が必要。
避難住民の復帰シナリオの提示
必要に応じた健康診断
サイト内の放射能対策は、短期課題、中・長期課題に分けて対応すべし。まず、安全に安定化、その後大量の放射性廃棄物の処分
当面は、放射能が環境に逸散するのを防ぐ手当てが必要(密閉管理)
サイト内に広がっている放射能対策
― 汚染されている土壌等は、できるだけまとめて放射能粉塵の飛散を防ぐ措置
― サイト外への飛散を防ぐことと、サイトでの作業者の被ばくを減らす上で重要
大量の高レベル放射能排水の処理・処分
使用済燃料の始末(長期)
原子炉の始末(長期)
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国を挙げた体制について
○ 原子力災害対策特別措置法に則った体制、活用
・同法を踏まえて、国、地方自治体、行政庁、原子力安全委員会、研究開発機関
(指定機関)の総力を集めた一元的な取組み。
・現場のオペレーションと密接に連携した現地対策本部機能をオフサイトセン
ターに設置。
○ 原子力安全委員会を中核とした体制と支援組織の活用
・原子力安全についての専門家から構成される政府組織である原子力安全委員
会が前面に立った体制。
・原子力安全委員会を支える日本原子力研究開発機構、放射線医学総合研究
所等の専門家集団の能力を最大活用
○ JCO事故の経験を活かすこと(経験者の活用)
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