110812日本小児科学会学術集会

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第114回 日本小児科学会学術集会
2011年8月12日(金) 感染症2(細菌性腸炎) 15:00~15:40
演 題 O – 0 22
新規O血清群 Aeromonas hydrophila
感染による腸炎の3歳幼児例
Enterocolitis caused by Aeromonas hydrophila
unknown O serogroup : a case report
国民健康保険智頭病院 小児科
大 谷 恭 一
は じ め に
裏急後重・粘血便を呈し、入院加療した3歳女児から
エロモナス・ハイドロフィラが同定された。
病状が重かったことで、国立感染症研究所に依頼し、
血清型を調べた結果、未知のO血清群と判明した。
感染源 : 自宅で大型観葉植物を栽培
していた瓶に、家族が金魚を入れた。
ここで遊んでいた患児が瓶の水を口に
入れた接触感染と考えられた。
(イメージ)
国立感染症研究所細菌第一部での検討結果を含め、
臨床像について報告する。
現
病
歴
某日 夜に嘔吐し、腹痛・下痢を伴った。下痢は増強した。
翌日、下痢は再々で、第3病日起床後も下痢が持続し、
粘血便を呈した。経過中発熱はなかった。
第3病日(月曜日)8:30に当科を初診した。
家 族 歴 ・ 生 活 歴
腹部症状を呈した家族は皆無であった。
保育園など町内の乳幼児に胃腸炎の流行はなし。
現
症
不機嫌で、顔色は蒼白気味であった。
発熱はなかった。
呼吸・循環動態に特記すべき異常なし。
腹部は平坦で、腸雑音が亢進していた。
皮膚には、紫斑等の発疹なし。
診
療
方
針
頻回の下痢、全身状態からして、入院加療とした。
入 院 時 検 査
WBC
14,850 /μl
77.4 %
Neutro
19.1 %
Lymph
3.0 %
Mono
0.4 %
Eosino
0.1 %
Baso
4
RBC
459×10 /μl
Hb
13.0 g/dl
Ht
37.9 %
Plt
44.5×10 4/μl
便培養:提出
AST
ALT
LDH
CPK
BUN
Cr
Na
K
Cl
CRP
28
10
283
43
10.2
0.19
137
4.1
104
1.94
IU/l
IU/l
IU/l
IU/l
mg/dl
mg/dl
mEq/l
mEq/l
mEq/l
mg/dl
画像検査:未実施
臨 床 経 過
病日
1
体温
嘔吐
下痢
粘血便
2
3
4
5
6
7
最高37.3℃
+
+ + +
+
持続点滴
抗生物質
入院期間
注射薬・経口薬ともに使用せず
3泊
8
便培養結果 : エロモナス・ハイドロフィラ
Aeromonas hydrophila
薬剤感受性
PCG
MPIPC
AMPC
PIPC
CXD
CPDX
CDTR
CFPN
CEZ
R
R
R
S
R
I
S
S
R
CTRX
CZOP
FMOX
MEPM
DRPM
SBT/ABPC
SBT/CPZ
ISP
EM
S
S
S
S
S
R
S
S
R
CAM
AZM
CLDM
MINO
TFLX
LVFX
PZFX
VCM
FOM
R
R
R
S
S
S
S
R
R
精 査 に 至 る 経 過
結果
Aeromonas hydrophila
O101
国立感染症情報センター
〔感染症の話〕
を参照 :
「本菌の血清型別は国立感染症研究所において
実施できる」とあり、精査依頼を願った。
国立感染症研究所 細菌第一部 荒川英二先生
SRLから菌株を取り寄せ、国立感染症研究所に依頼
電話をし、臨床経過、菌株を送付した。
菌 種
結
果
Aeromonas hydrophila
O血清群
OUK *
*:O
unknown ( The serotype system of Aeromonas spp.
Covers 100 antigens at present)
新規O血清群と判明
: 細菌第一部 荒川英二先生
PCRによる Aeromonas hydrophila 病原因子の検出
act
ast
alt
1 2 3 4 M 1 2 3 4 M 1 2 3 4
Aeromonas は、
オキシダーゼ試験陽性で、
V. cholerae O1 (コレラ菌) と
同じVibrio属とされていた
水系細菌でもあって、
同定には留意が必要です。
荒川英二 先生
1
A. hydrophila O101
2
V. cholerae O1
33
A.
A. hydrophila
hydrophila O1
O1
44
A.
A. hydrophila
hydrophila O17
O17
3・4:参照株
M
100 bp ladder marker
2:コレラ菌( V. cholerae O1 )
参照 : Appl. Environ. Microb. 76, 425-433 (2010)
Aeromonas の病原因子 陰性
エロモナス属菌のヒトへのかかわり
考察
1800年代末期
カエルの赤肢病の病原菌
1950年代中頃
ヒトでの報告例
1970年代以降
ヒトの下痢症における関心
1982年
わが国:食中毒菌に指定
A.hydrophila および A.sobria
考
察
付) 赤肢病(レッドレッグ症候群) 細菌性皮膚敗血症
様々な細菌の感染によって引き起こされる。
引用: 感染症の話
カエルのももが赤くなる症例が多いため、赤肢病と呼ばれる。
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k01_g1/k01_3.html
カエルなど飼育中の両生類の病気としては一般的。
エロモナス : 病原体
考察
引用:感染症の話
グラム陰性の嫌気性桿菌で、
菌体の一端に単毛の鞭毛を持つ
http://microbewiki.kenyon.edu/images/a/a4/Aeromonas1.jpg
考察
エロモナス属の分類
2001年1月掲載
◇ 16のハイブリダイゼーション群(HG)
14遺伝種、13表現種
◇ ヒトからの分離が多い遺伝種
ヒトからの分離
++++
++++
++++
++
++
++
HG
1
4
8
9
12
14
遺伝種
A.hydrophila
A.caviae c
A.veronii
A.jandaei
A.schubertii
trota
エロモナスの疫学
考察
引用:感染症の話
エロモナスは淡水域の常在菌で、河川、湖沼、その周辺
の土壌および魚介類等に広く分布している。沿岸海水か
らもよく分離される。
分離率は、地域、年、季節や検査方法などで異なり、
熱帯・亜熱帯地域の開発途上国で高い。
該当地域への渡航者からも本菌が分離される。
わが国では、症例のほとんどは散発例で、小児や50歳
以上の成人に多く発生するのが特徴的である。
腸管外感染症の原因ともなり、下痢症に次いで多いのは
創傷感染症である。
臨床症状
考察
引用:感染症の話
平均12時間の潜伏期
多くは軽症の水様性下痢や腹痛を主訴として発症
通常、発熱はあっても軽度
1 ~3日で回復
時に、激しいコレラ様の水様性下痢を起こすことがあり、
稀に血便、腹痛および発熱を伴う症例もみられる。
下痢が長期間(~ 数週間)持続する患者では潰瘍性大
腸炎に類似する状態を起こすこともある。
病原診断
考察
引用:感染症の話
軽度の急性胃腸炎であることが多く、確定診断には糞便
からの菌の分離が必要である。
分離培養検査には、SS、DHL、マッコンキー寒天培地な
どを適用できる。
同定は生化学的性状によって行われるが、エロモナス・
ハイドロフィラの性状に一致しない臨床由来の中温性エ
ロモナスも無視できないので、注意が必要である。
本菌の血清型別は国立感染症研究所で実施できる。
考察
治 療
引用:感染症の話
軽症例では自然に治癒する。
赤痢様あるいはコレラ様の症状を呈した場合には、
経口または静脈内輸液等の対症療法と共に
抗菌薬の投与が必要である。
成人ではニューキノロン系、
小児にはノルフロキサシン、
培養結果が出るまでに
病状軽快し、用いず
5歳未満の小児にはフォスホマイシンを選択し、
常用量3~5日間の内服による治療が一般的である。
予 防
考察
引用:感染症の話
一般の細菌性食中毒の予防法と同様である。
特に注意すべきことは、給水施設の衛生管理が不十分
な水を飲用しない。
本菌の汚染が考えられる水あるいは魚介類からの調理
食品の二次汚染を防止する。
4~7℃でも増殖するので冷蔵保存を過信しない。
開発途上国への旅行者および滞在者は、生水を摂取し
ないように十分注意する。
食品衛生法での取り扱い
考察
引用:感染症の話
食中毒が疑われる場合は、24 時間以内に最寄りの保健
所に届け出る。
要約
要 約
頻回の水様下痢、粘血便を呈した感染性腸炎の3歳幼
児例において原因菌を検索した結果、新規O血清群
Aeromonas hydrophila が同定されたので報告した。
⇒ 「Aeromonas hydrophila O101」
謝 辞
国立感染症研究所 細菌第一部
荒 川 英 二 先生 に深謝いたします。
以上です。
ありがとうございました。